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「なるほど……」


 軍曹の報告を背中で聞きつつ、バザロフは窓から見える光景をじっと見つめていた。

 周囲一面の瓦礫の山。

 コマーシャル・プレイスは、その様相を一変していた。

 まさか――


(ここまで、愚かとは……)


 頭を抱えたい思いだが、考えてみれば、その行動の愚かさそのものについては、それほど驚くほどの事ではないのかもしれない。

 上級民族は、馬鹿ではない。

 否、皆が皆、馬鹿ではないと言うべきだろうか。

 そう、だからこそ、それ故に――


(出世と縁のなさそうな第一線には、彼らの中から最も見込みのない者、もしくは、上級民族内部での競争に敗れた敗者が送られて来る)


 そして、送られて来た当人も当然それを自覚しているが故に――


(無謀を承知で無茶な行動に出る……か)


 それにしても、バザロフたち人民内務委員会が受けた損害は大きかった。

 かなりの準備期間を掛けて地下世界へと浸透させていた委員会傘下の戦力のほぼ全て。装備、練度ともに最優秀の二個小隊のそのほとんどが失われ、

 しかも――


「なお、例の『試作連射装置』は、完全におシャカだそうです。技術部の話では、当面修復不能との事でした」


「となると――」


「はい。ソコロフ(うさぎ)の持つレベル5の量子転送兵器に対する我々のアドバンテージは、完全に失われました」


 …………。


(その上に、だ)


 目の前のこの惨状である。

 まさか、広域企業体連合へ話を付けているその最中に事を起こすとは。

 これからの連中相手の折衝の事を考えると頭が痛い。

 だが――

 バザロフは、窓へ背を向けると報告者である軍曹へと向き直る。


「やはり、悪い事ばかりでもないな、同志軍曹」


「と……言いますと?」


 そうは到底思えない、と顔に書かれた軍曹へバザロフは、地上からのバースト通信文を空中投影する。


「……昇級されたのですか、同志大尉! あっ、いえ、同志少佐殿!」


「そう言う事だ。それと、これからの地下世界における作戦の指揮は、全て俺が取ることになった。皆にも伝えてくれ。あと――」


 話も早々にドアの外へ小走りに慌てて出て行く軍曹の背中を見送ってバザロフは、再び、窓の外へと視線を向ける。


(広域企業体連合とのこれからの折衝では、かなり思い切った譲歩を迫られる事になるだろう)


 が、それもバザロフからすれば予想の範疇と言えないことも無い。

 少なくとも、マフィアのみにこの作戦の命運を託すのは、あまりに冒険が過ぎると言うもの。となれば、それ相応の対価を払う必要はあるだろう。

 それに、そのマフィアであるフィボナッチ・ファミリーは、先のコマーシャル・プレイスでの戦闘で組織のナンバー3であり、ボスの息子でもあるアントニオと子飼いの子分の多くを失った。

 連中は、(かたき)を討つと意気込んではいるが……。


(純粋な戦力として連中をカウントする事はできない)


 やはり――

 バザロフの両の目に、ほの暗い炎が、ぼぅ、と灯ってその眼差しが異様なまでの鋭い光を放つ。


(――『切り札』を用意しておいて正解だった)



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