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 お控えなすって!


「向かいましたる皆さま方には、初のお目見えと心得ます。

手前、生国と発しましては、地下世界アンダー・グランウンドは、競合地域(コンテスト・エリア)、水も滴るオツな街、第五十七層は『リトル・オオサカ』に御座います。

 稼業、縁持ちまして、その身の片親と発しますは、同じく第五十七層は、第六十五運河(ヨドガワ)沿い、ナンバに居を構えます清流会は三代目『オニマル・フジミ』に従います若い者で御座います。

 性は、オニマル、名は、チナツ。

 稼業、昨今の駆け出し者で御座います。

 以後、万事万端、よろしくお願いなんして、ざっくばらんにお頼み申します」

 


 ………………



「えーと……」


 目の前に差し出された彼女の形のいい白い手のひらを見つめてソコロフは、曖昧に頷いてみせる。

 それにしても――

 手のひらを「すっ」と差し出し小腰を屈めたターシャより少し背の高いほっそりとした体と頭の後ろできれいに纏められた艶のある黒い髪。柔らかな目鼻立ちのその顔の中で愛嬌のある丸い瞳が、小気味のいい光を称えてソコロフを見上げている。

 先の自己紹介の仕方からするとこの少女は、所謂――


(さて……)


 ソコロフは、ワイシャツの胸ポケットからタバコを引っ張り出すと黄燐ライターでカチンッと火を付けた。

 レベル5の量子転送兵器を持った件の大佐を斃してくれたのは、その足を狙撃して動きを止めてくれたホー中尉ことホー叔父さんと腰に刀を差したこの少女な訳だが……。

 助けを求めるようにソコロフが部屋の中の一同に視線を投げ掛けるとホー叔父さんが、さも可笑しそうに空中投影されたブラウザの中のソーニャと顔を見合わせてにんまりと微笑み、こうした種類の人間を初めて見たらしいターシャは、ピクリともせずに固まっている。

 互いに様子を窺うように見つめ合う一同。

 暫くして、皆を代表するようにタケオが、笑って肩を竦めてみせた。


「今でも、ヤクザってのは、そんな風に挨拶をするのかい?」


「いいや、あたいがしたかっただけ。ほら、大事だろう? 『ファースト・インプレッション』ってやつさ。で――」


 少女は、そのどうにも「ヤクザ」には見えそうもないその人懐っこいかわいらしい顔を綻ばせてソコロフの腕に自身の腕を絡ませてもたれ掛かると、


「ねぇ、いいだろう、少佐さん。あたいも混ぜておくれよ。『聖少女』を()るんだろう? でも、あの方のいる階層じゃ、少佐さんやそこのお姉さんは、目立ち過ぎてすぐ足が付いちまうよ。だからって、そちらのお(あにぃ)さんや叔父さまだけじゃ、人手だって足りないだろう? それに、あたいは――」


 と、腰の刀をポンポンと叩いてみせる。


「ここいらじゃ、随一のコイツの使い手さ。仲間にして損は無いよ」


 ねぇ、だからさぁ――


「ふむ……」


 仲間が増えてくれることに否やは無い。

 それに、劣等民族のテリトリーである第六十四層以降では、確かにソコロフやターシャと言った中級民族は、彼らと顔かたちがまるで違うのでどうしても悪目立ちしてしまい、大っぴらに行動しづらいというのは間違いなくある。

 だが――

 ソコロフは、ブラウザに向けて頷いた。


「ソーニャ、彼女の事なんだが……」


「はいっ。仰っている通りで確かに間違いないみたいです」


「ヤクザの?」


「はい。ただ……チナツさんは、セイリュウカイの子分さんでは無いみたいなんです」


「……と、言うと?」


「ええ。その……娘さんらしいんです。ボスのオニマルさんの」


 困惑気味に顔を少し傾けたソーニャの言葉にチナツは、拗ねたように口を尖らせる。


(セイリュウカイのボスであるオニマルには、確か息子たちがいた筈だが……)


 ソコロフは、小さな溜息を吐くと絡ませた腕をポンポンと叩いて傍にある椅子をチナツに勧める。

 どうにもこうにも、まずは――


「どうやら、詳しく話を聞いた方がよさそうだね」


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