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(――――っ!!)
が――
目の前が真っ白になると同時に衝撃が奔り、ソコロフの体が路面へと叩き付けられた。
刹那の瞬間、轟音と共に全身を包み込む粉塵。
(なるほど……)
大佐のスヴァントヴィトは、
(バースト射撃。そして――)
残りは、一発。
それを外せば――
(十五分は、射撃不能だ!)
唾を吐き散らしながらなんとか起き上がり、顔にべったりと付いた粉塵を背広の袖で拭うと、ソコロフは三度、熱源追尾センサーへ両の拳銃弾を叩き込む。
そして、ついに――
(よしっ!)
足元を空になったマガジンが跳ねる。
無数の弾痕で蜂の巣のようになった熱源追尾センサー。センサーが無力化出来た証拠にソコロフの位置を掴めなくなったらしい機関砲が勘の悪い猫のようにふらふらと周囲を見回し始めた。
が――
すぐに猛烈な勢いで火を噴き始めた。
(くそっ!! 盲撃ちか!)
慌てて路面に伏せたソコロフの頭上を十二・七ミリの巨大な銃弾が唸りを上げて飛んで行くと同時に、機関部から吐き出された巨大な空薬きょうがソコロフの頭と言わず体の上に容赦なく降り注ぐ。
頭上の装甲多脚戦車の前進速度に合わせて地を這うソコロフ。
盲撃ちする機関砲が猛烈な勢いで火を噴き続け、彼の体の左右の路面を「ズシャンッ!」と装甲多脚戦車の脚が前に進む度に砕く。
「ターシャっ!」
前方に向けてソコロフが叫ぶ。
もう、彼女がいるマイタ・スクエアは目の前だ。
(大佐はどこだ?)
まだ、微かに漂う煙幕。
両の拳銃を握るソコロフの手に力が籠る。
弾は、もう、いま手に握っている分のみ。
ソコロフは、膝を付くと両の拳銃のありったけの弾を前方にいるであろう大佐の元へと適当に見当をつけて叩き込む。
(弾切れッ!)
次の瞬間、瓦礫と化した街並みが茫洋と透けて見える白い煙幕の向こうで閃光が煌めく。
そして――
豪ッ!!!!
頭上の装甲多脚戦車が炎に包まれた。
耳をつんざく轟音と焼け付くような炎の熱。
もうもうと黒煙を噴出しながらガクンと脚を衝いて擱座した装甲多脚戦車を尻目にソコロフはマイタ・スクエアへ。
瓦礫の山の向こうにターシャが見える。
「ターシャっ!」
が、そのターシャが、彼女の背後に向けて発砲しながら何か叫んだ。
(ん? なんだ?)
彼女の視線の先には、廃墟の中をゆらゆらと量子転送兵器を引きずるようにして歩く大佐。と、大佐は、やおら量子転送兵器を構えたかと思うと
「ソコロォォォォォォォフ!!!!!!」
スヴァントヴィトが、再び火を噴いた。
突き抜ける閃光と熱量が、瓦礫と化した街並みを砕き、すくい上げてまき散らす。頭上から降り注ぐ瓦礫や破片から腕で顔を庇いつつ、ソコロフが毒づく。
(どうなってる!!)
先ほど見た時より、さらに様子がおかしい大佐。
が、それよりもなによりも――
(なぜ、スヴァントヴィトがまだ撃てる?)
そう、バースト射撃なら連続して撃てるのは三発まで。
だが、今のは四発目。
何がどうなっているのか……
ソコロフは、呻きつつ何か使える物は、ないかと周囲を見回す。
と、大佐が再び身構えた。
(ま……まだ、撃てるのか?)
加熱する量子転送兵器の銃口。
大佐の背後に見える量子タービンが加速し、銃口のオレンジ色のきらめきがその光度を増して行く。
間違いない。
理由は不明だが、大佐の使用している「スヴァントヴィト」は――
(まだ、撃てる!)
そして、
「死ねえェェェェ、ソコロォォォォフッ!!!!」
大佐がトリガーを引いたその瞬間だった。
パシュンッ!
と言う乾いた音と同時に大佐の左の太ももが弾け飛んで、大佐がガクンと膝を付いた次の瞬間、目の前を黒い影が横切って「キラリ」と一閃。驚愕の面持ちで顔を上げた大佐の顔がその肩口から噴き出る血しぶきと共にゆっくりと背後に倒れて行く。
霧が晴れるかのように雲散霧消して行く量子転送兵器。
瓦礫だらけの路面に大佐の鮮血がじわじわと広がって行く。
全ては、あっ、と言う間の出来事だった。
そして――
呆気に取られるソコロフとターシャの面前にべったりと鮮血に濡れた白刃を手に佇む一人の少女。
劣等民族の伝統装束、漆黒の『キモノ』を粋に纏った少女はニンマリとその華奢な肩越しにイタズラっぽく微笑んだ。
「おまっとさん」
あんたが少佐さんだね?




