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(……えっ?)


(違う。量子転送兵器を使うためじゃない)


 そう。

 ここは、コマーシャル・プレイス。

 地下世界(アンダーグランウンド)随一の経済区であると同時に


(唯一の非武装地域――)


 そして、それを担保するのが、いま、周囲で猛威を振るっている兵士たち。

 となれば、出来ることは、一つしかない。

 と――

 突如、『ラトニク』の呼び出し音が鳴ると同時に戦闘モードへ移行した。


「――なにっ?」


『――同志中尉っ!』


(……まさか?)


オペレーターッ(ジェーブシカ)!』


『やっとプロテクトを解除することが出来ましたぁ! やりますよ、わたしっ! ガンバリますっ! さあ、何でも仰ってください、同志中尉っ!』



 ………………。



『プロテクトを……解除? 解除してしまったのか、オペレーターッ(ジェーブシカ)?』


『はいっ! ガンバリましたぁっ!』


 主人に褒めてもらいたくてしょうがない子犬のように誇らしげな彼女その声にソコロフは額に手を当て絶句する。


(彼女にまず言って置くべきだった……)


 そう――


(ターシャよりも前に!!)


 何と言っても彼女もまたターシャ同様地下世界(アンダーグランウンド)に関しては新人(ルーキー)なのだ。

 それにしても手抜かりだった。

 なんとなれば、彼女が、解除してしまったプロテクトがあるからこそ、この場所で『ラトニク』を起動できるのだ。

 プロテクトが掛かっている状態であれば、起動しても戦闘モードへ移行できず、あくまで位置情報と現在置かれている状況が分かるのみ。そして、それは味方のみならず、目の前の相手に対しても、であり、『ラトニク』起動と同時に連合戦闘団の戦術支援システム上でも、ソコロフ達が第一七七民生委員会の者だと表示され、敵対者では無いとすぐに分かるのである。

 そう。

 あくまで、第一七七民生委員会と広域企業体連合の間で結ばれた秘密協定に基づいた相互プロテクトの掛かった状態の戦術支援システム、第一七七民生委員会専用にカスタマイズされた『ラトニク』であれば。

 そして、そういった関係があるからこそ、第一七七民生委員会は、第四十一階層へのその勢力圏の後退後も、ここコマーシャル・プレイスで前線基地としてソーニャの屋敷を利用する事を許されているのである。

 が、それを――


(解除してしまったのか…………)


 まさか、このタイミングで支援してくれているのが彼女だったとは。

 彼女のサブで入っている前任と前々任のオペレーターである六〇一三八五四三と六一七六五七八八。ベテランの彼女たちなら、味も素っ気も、色気も何も無い彼女たちなら、何も言わなくてもここは黙って傍観していてくれていたであろう。コマーシャル・プレイスで『ラトニク』が戦闘モードに移行できない状況を不思議に思ってプロテクトを解除するなどという神をも畏れぬ行為に至ることなど無かったに違いない。

 しかも、


(あれを解除できるヤツが、まさか、いようとは…………)


 度し難いほどの優秀さである。


「同志中尉……」


 今にも泣き出しそうなターシャをなだめるように手で制しつつ、ソコロフはチャンネルを切り替え量子無線に囁く。


『ソーニャ、モニターしてくれているかい?』


『はいっ。困った時の「スリーピング・ビューティー」、あなたのソーニャです。ソコロフさん、オペレーターさんのお手伝いですよね?』


『すまない。頼まれてくれるかい?』


『喜んで!』


『ありがとう。恩に着るよ』


で、次に――


オペレーターッ(ジェーブシカ)?』


『ハィ……』


『さっきの続きだ。理由は後で説明するが、解除したラトニクのプロテクトを大至急、元に戻して欲し……オペレーターッ(ジェーブシカ)?』


『うぅ…………グスン……。……いま、委員会戦闘本部指令からすんごい勢いで叱られました……「アホか、貴様はァ!」って。……解除したらマズかったんですね、あれ』


『うん、まあ……やってしまったものは仕方ない。助っ人を頼んであるから、彼女と一緒になんとか元に戻してほしい。やれるね?』


『ふぇ~ん、ガンバリまぁす』


 消え入りそうな声で答えるオペレーターの少女に苦笑しつつ、量子無線回線を閉じると同時にソコロフは、周囲を見回した。

 ソコロフ達のいる場所から数メートル先にある七メートル四方の石畳の広場、通称「マイタ・スクエア」。

 ソコロフ達の背後、通りの少し先に装甲多脚戦車(タンク)と、その周囲を縫うように走る広域企業体連合の兵士たちが見える。すでに、人民内務委員会傘下の国家人民軍部隊は、プライマリー・サーカスから完全に排除され、徐々に無力化されつつある。

 戦闘は、すでに掃討戦の段階。

 背後から、ひたひたと連合戦闘団が迫って来ている。

 どのみち『ラトニク』の再プロテクトは、もう間に合わないだろう。


(だとすれば――)


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