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 で――


「それ以降、俺たちの、第六八三民生委員会にあった俺の専従班の諜報面のサポートをしてもらっていてね。第六八三民生委員会の廃止後も、こうして、時折、俺の仕事を手伝ってもらっているんだ。因みに、今回の任務の事は、彼女にはもう全て話してあるから、心配しなくて大丈夫だ。で――早速、何か動きがあったみたいだね、ソーニャ?」


『そうですね。と言っても、『聖少女』さんに直接関連する事ではありませんが……』


 と、ソーニャが言うなり、彼女の背後に控えていた件の黒板にスラスラとチョークの白色も鮮やかに何やら複雑な相関図が浮かび上がって来る。

 目でその図を追っていたターシャが、思わず上ずった声を上げた。


「地下政府……マフィア――人民内務委員会!」


「はい。実は、今回の『聖少女』さん暗殺計画は、もう、地下世界(アンダーグランウンド)の人たちにもほとんどバレているみたいで、色々な人たちを巻き込んでかなり面倒なことになってるみたいなんです」




 ***************




「いやぁ、それは結構な事だと思いますよ、大佐殿。なぁ?」


「ええ! ええ! さすが、上級民族のご出身ですな。ワタクシども下々の連中には、及びも付かない事で」


 センスの悪いスーツに、節だらけの不格好な手に嵌めた趣味の悪いダイヤの指輪。組織の事実上のナンバー3であるというアントニオ・フィボナッチとその部下のお世辞とも嫌味ともつかない言葉に同志大佐殿は、「どうだ」と言わんばかりに得意満面でバザロフに顎をしゃくってみせる。


(余計な事を……)


 と思わないでもないが……バザロフも相手が相手だけに頷かざるを得ない。


「じゃあ、そう言う事だ、バザロフ。俺が、ソコロフ(ウサギ)を狩る間に貴様は、マフィア(コイツ)らと一緒に『聖少女』の事を調べろ。ただ……いいか? 忘れるなよ?」



 

 ――『聖少女』を()るのは俺だ。




「いいな?」


「「はっ!」」


 立ち上がった大佐の背中越しの言葉にバザロフは、隣の軍曹と共に神妙な面持ちで頷いてみせた。

 どうせ、「狩る」どころか子飼いの部下ともどもまとめて「狩られる」のがオチだろう。

 なにせ、相手は、あのソコロフなのだ。

 とは言え、この段階で上級民族出身の上官に目を付けられて行動に支障をきたすのも避けたい。

 だが、それにしても――


(目の前にいるマフィアが、どういう連中なのか……面と向かって話してもまるっきり理解していない訳だ、この大佐殿は)


 でなければ、「コイツ」などと言うバザロフとその部下なら、間違っても彼らに対して言わないであろう言葉は出てこないだろう。

 二人のどこまでも腹黒い悪魔(マフィア)に両脇からかしずかれるようにして無能な上官がドアの向こうに消えると軍曹が堪りかねたように呟いた。


「あの上級民族(チビ)めっ! 余計な事を……」


「いや、そうでもないさ」


「ですが……」


 バザロフは、立ち上がると窓の外に広がる地下世界(アンダーグランウンド)の街並みに目を凝らす。

 シャフト 第四十五階層 

 この四十五階層を中心に四十四階層と四十六階層の一部にかけてポツンと宙に浮く島のように存在する競合区域(コンテストエリア)内最大の金融・商業区域、通称『コマーシャル・プレイス』。

 そこは、地下世界の経済の中心であると同時に、東アジア最大の金融ハブで

あり、眼下の通りには、当たり前のようにアメリカやイギリスといった西側諸国の銀行の支店が軒を連ねている。

 そして、なにより――

 地上とは、まるで違う瀟洒なその美しい街並みに溢れんばかりに並べられた色鮮やかな商品の数々とそれ目当てに訪れる多くの人々で賑わう石畳のマーケット。


(こうして見ていても、まだ、信じられんな……)


 いついかなる時も降っている雪が無いと言うだけでも雲泥の差であるというのに。

 まさか、自分たちの住む世界の下に、

 まさか、世界でも有数の社会主義国家である共和国の地下に、

 こんな資本主義の見本のような地下都市があろうとは……。


(なるほど、民生委員に跳ねっ返りが多く出る筈だ)


「どのみち、俺たち人民内務委員会と第一七七民生委員会とでは、地下世界での経験値に埋めようのない差があるんだ。あの阿呆のロクでもない行動も、どこでどう役に立つか分からないさ」


 それに――

 バザロフは、顔の端でニヤリと微笑んだ。


「俺たちには、まだ、取っておきの『切り札』がある」



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