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 ソコロフはタバコを咥えると、次の動画を再生する。


「……これは?」


「さっきの動画の九年後……だ」


 先ほどの動画と同じく劣等民族の政府のプロパガンダ映像だった。

 演壇の上に居並んだ顔ぶれは、やはり時の流れに伴って高官が変わったのだろう、先ほどの動画と同じ顔は無い。

 が――


「この子……同志中尉、この『聖少女』は?」


 怯えたように声を震わせるペトロヴァにソコロフは、黙ったままさらに次の動画を再生する。

 二本目の動画の十一年後。

 動画の少女を見つめるソコロフの目は、遠くを見つめるように細くなり、薄暗い部屋の中にタバコの火のオレンジ色の灯だけが、ぼぅ、と浮かび上がる。

 映し出されたのは、今度は同じ行事に水色のドレスで臨む少女の姿。

 流れるような黒髪にぱっちりとした魅力的な鳶色の瞳。

 そして、その端正な顔立ちは――

 ペトロヴァが息を呑むのが聞こえ、ソコロフはさらに四本目の動画を再生する。

 三本目の動画の十年後……その八年後……その十二年後……その九年後……

 そして――

 次々に映し出されるその姿に、ペトロヴァが堪りかねたように声を震わせた。


「同志中尉……」


 いつしか指に挟んだままになっていたタバコの灰が、ぽとんっ、と机の上に落ちる。

 ソコロフは、動画の中で動く少女の顔を見つめながら無言で頷いた。

 そう。

 どの動画にも共通して映っている『聖少女』。

 が、その少女は――


「どうして、どうして『聖少女』は、いつもまるっきり……まるっきり同じ顔、同じ女の子なんですか?」


 そう。

 どの『聖少女』もその顔は瓜二つ。

 否、まるで――


「まるで、コピーです。まさか――まさか『聖少女』って……」


 言葉を失うペトロヴァの声にならない声を遠くの方で聞きつつ、ソコロフはほとんど灰になったタバコを口に咥え大きく息を吸い込んだ。

 まるで、ドッペルゲンガーか、クローン人間。

 革命前に行われた物から現在に至るまでの全ての代替わりの儀式において『聖少女』として登場する全く同じ顔をした少女。

 その横顔に、

 その美しい黒髪に、

 そのきらきらと輝く鳶色の瞳に、


(あの夢を見始めたのは、十五歳ぐらいからだったか……)


 ソコロフの目は、動画の少女の横顔を追い続ける。


(軍曹が今の俺を見たら、なんと言うだろうな)


 舞い上がるコスモスの花びら。

 

 やさしく凪ぐ風。


 楽し気に唄う雨の音。


 そう――


 今なお、彼の夢の中に現れ続けるその少女の横顔を。




 ***************




「れぇ、ホォーおひひゃんとありみゅら――」


 言いかけてペトロヴァ兵長改め、ターシャの顔が真っ赤になった。

 二人の目に前にはほぼ空になった皿と、半分ほどに減ったチョコレートクリームの容器。

 口いっぱいに頬張った本物の白パンに目を白黒させつつ、ターシャがその可愛らしい口を懸命にもごもごとさせる。

 ソコロフは、そんなターシャの様子にクスリと微笑んで目の前の盛られたフルーツの皿に手を伸ばす。


「彼らは、この後、どこかでタイミングを見て合流する予定だ。二人とも無事なのは確認済みだよ。あの小芝居で、どこまで周囲を誤魔化せたかは微妙だが……まあ、まずは一安心といった所だろう。で――ああ、時間はたっぷりあるからゆっくり食べてくれていいぞ、ターシャ」


「うぐ……むぐ……」


 なおも、口をもごもごさせていたターシャが何とか口の中の物を飲み込んで一息ついた所でソコロフが、皮を剥いた林檎を渡してやると、本物の白パンやベーコンに目を輝かせていた彼女の瞳が再びまん丸になった。

 手をナフキンで拭いながら、ソコロフは話を続ける。


「因みに、ホー叔父さんとタケオ――アリムラ少尉のことだ。奴さんは『アリムラ』が名字で、名前が『タケオ』なんだ――以外のメンツは……」


「……むーっ!」


 林檎にかぶりついたところだったターシャの顔が再び真っ赤になった。

 かわいそうなので食べ終わるまで――と思ったが、ソコロフはイタズラっぽく微笑むとワイシャツのポケットから引っ張り出したタバコを咥えて部屋の隅の木製のドアへ視線を向けた。


「あのドアの向こうにいる」


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