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ある片割れの独り言。

暗い空間にうっすらとランプの炎が灯る。

挿絵(By みてみん)

トコトコと軽い足音をさせながら、ワタシは根城にしている図書室を練り歩いていた。

ここにはワタシが描いてきた数多の幻想書物が収められている。

ワタシ自身が書いたものはもちろんだが、ワタシが『魂の器』を錬成しただけの作品も幾つか含まれている。

【これ】も、その一つ。

「………」

ワタシはその背表紙を撫でる。ゆっくりと、慈しむように。

「…長かったのか、短かったのか…」

『ここ』ではあまり時間という概念がない。

生み出された作品、または作品になる手前の設定やら妄想やらを保管しておくだけの書庫。

ワタシはその守り人に過ぎない。

守り人であり、創造主でもあるワタシにできることは、せいぜいここに保管されている書物たちを風化させずに懐で温め続け、気が向いた時に次元情報の海へ流すだけ。

「『Hymequriath=Zion=Schwertleite』か…我ながら、また名前負けしちゃうような名前、付けちゃったわネ」

誰にとなく、自嘲しながら呟く。

ニィ、と笑った唇の隙間から八重歯が覗いた。

「ま、委任状はしっかり受け取ったことだし?好き勝手やらせてもらうわよ。…それこそ、アンタが飛び起きて思わず物語の続きを書きたくなるような怒ハデなヤツをね」

そしてついでに付け加える。

「ワタシの持つ【絶対幸福論の固有結界】…破れるモンなら破ってみなさい。それこそ天地をひっくり返してても、この子たち全員を【絶対幸福】にしてみせるから」

言いながらワタシは撫でていた背表紙の本をするりと抜き取る。

「まぁ実際、かなり世界線はイジらせてもらったけれどね…

【術式展開。綾なす運命紡ぐ黄金律結界陣(Liberi fatali Amoris fabula fila sequentia)】」

挿絵(By みてみん)

ワタシの足元から黄金の光柱が起立し、薄暗い図書館に超新星爆発のような光が弾けた。本を片手に、ワタシは手にした羽ペンで空中に素早く『力ある言葉』たちを刻む。

言葉たちはルビー色の輝きを放ち宙を舞っていたかと思うと、流星のように図書室の床に落ち、光速の速さで魔法陣を描き出す。役目を終えた羽ペンがワタシの手の中で星のような煌めきを放ちながら戦乙女の槍と翼を模した杖へと変貌していく。

「『Hymequriath=Zion=Schwertleite』の名に於いて命ずる。

アダムとイヴよ、邂逅なさい。そして唯一にして絶対無比なる始まりの言葉を紡ぎなさい。二人は完全な生き物ではないが故、一プラス一がニになるとは限らない。しかし併せてのべよう!」

シャンッ!

杖が力強く打ち付けられ、両翼の先端についている鈴が軽やかに鳴る。

「いずれ死が二人を分かつとき、自然の理がいかに冷たかろうとも、そこに【 】さえあれば、ニマイナス一が決して一に減るのではないことを!」

そして本を天高く掲げ、体内の魔力を本へと注ぐ。

「さぁさおいでなさい、『魂の器』錬成されし我が愛子らよ!今こそ(セカイ)を調律するわヨ!」

魔法陣から噴きあがる虹色の光が、螺旋を描きながら頭上で弾けた。

本はワタシの手を離れると、風もないのにパラパラと捲れていく。

ページはすべて白紙。

物語は、ここから記されていくのだ。

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