間章2
そんなある時。
『ルクスさんは、ルチアさんが凄く大切なんですね』
突然、ルクスはタクミにそう言われた。
無意識の行動だったのだろうが、タクミから見ればバレバレだったのだろう。
『・・・軽蔑、しますか?』
クレアと別れて一年も経っていないのに、もうルチアを好きになった自分。
タクミに何か言われるのではないかとルクスは不安だった。
しかし、タクミから出た言葉はルクスが想像していたものとは全く違っていた。
『いいえ、そんな事全然思いません。人を好きになるって、本当に突然ですから。一緒に居た時間何て関係無く、気付いた時には好きになってるものだと俺は思いますよ』
優しい、穏やかな表情で言うタクミの言葉に、ルクスはルチアへの想いを封じる事を止めた。
ルチア自身も、いつの間にか勇者の時以上にルクスに惹かれていて、それなのに自分に自信が無かったので諦めようとしていた。
タクミの言葉を聞くまで。
『思いっていうのは、やっぱり伝えた方が良いと思います。俺の場合、よくよく考えたら想いをちゃんと相手に伝えられていなかったかもしれません。だから、後悔してる。ねぇ、ルチアさん。怖いかもしれないけど、ほんの少しだけ、勇気を出してみませんか?貴女は、貴女自身が思う以上に素晴らしい女性なんだから、もっと自信を持って良いんですよ?』
そして、二人は互いに勇気を出した。
お互いに好きだと告げたのだ。
それから二人はどんどんお互いを知り、想う気持ちが強くなった。
こんなに人を好きになったのはお互い相手が初めてで、戸惑う気持ちが芽生えなかった訳ではない。
それでも、愛しさが勝った。
『ルチア・・・私の妻になってくれませんか?』
満月の晩、月明かりに照らされたルチアの小さく細い口付けながらルクスが言った。
ルクスの行動に頬を赤らめながらも、言われた言葉の嬉しさから静かに涙を流してルチアは頷いた。
『はい・・・。私を、貴方の妻にしてくださいませ』
結婚が決まった事を報告すると、タクミはとても喜んだ。
そうして、一番の友人が祝ってくれることを喜びながらも、ルクスとルチアにはある願いがあった。
タクミにも誰か素敵な人が現れることを。
本人から聞いた過去は、ルクスにもルチアにも衝撃的で、何故タクミのような好青年が振られるのかが分からなかった。
その、見る目の無かった者のためにタクミが傷付いている事が嫌だった。
「タクミ君は・・・今頃眠る準備をしている時間かな?」
「そうですわね。タクミさんはいつもこのぐらいの時間にお休みしていましたわね」
ベッドに並んで腰かけながら、ルクスとルチアは言った。
数度、ルチアが宿屋(シューとも仲が良いのでシューと話すため)に泊まりに来たことがあった。
朝が早いタクミは、当然ながら眠る時間も早かった。
片付けが済んだらもう、お休みである。
始めは驚いたルチアだったが、城勤めで様々な状況の訓練を経験していたルクスから解説されると納得していた。
宿屋が今現在、短期とはいえ休業する事になったと知らない二人は、初めて出来た友人の事を思い浮かべながら、一日を終えたのだった。