間章1
故郷に居る親族や家の者にもルチアの紹介を終えたルクス達。
控えめで、大人しいルチアはルクスの親族には好印象で、暖かく迎え入れられた。
ルクスの親族からの歓迎に、ルチアも最初は戸惑ったものの、好意からという事もあるのでルチアはありがたく受け入れた。
「皆さん、お優しい方ばかりですね」
屋敷にしばらく留まる事になり、与えられた部屋で寛いでいたルクスにルチアは語りかけた。
「そう言ってもらえると嬉しいな。君が気に入られて良かった」
ルクスの以前の婚約者であったクレアは、幼いころからの付き合いがあったため、親族もその性格や人となりを知っている。
そのため、付き合いの浅いルチアを下に見るのではないかと危惧していたのだ。
結果、ルクスの心配は杞憂に終わり、クレアよりルチアで良かったという声も聞こえてきた。
ルクスとしては、クレアとルチアを比べるのはちょっと違う気がしたが、クレアを愛していた気持ちよりもルチアを愛する気持ちが、ルクスの心を占めている。
それが全てだった。
クレアを愛していた時はクレアが全てであったが、ルチアを愛する今は違う。
ルチアはもちろん、友人であるタクミやヤズーの知り合いがルクスの全てとなった。
ポツリとルチアが呟く。
「私は・・・貴方と共に居ることが出来て、本当に幸せ者ですね」
辛い事や苦しい事も沢山あった。
しかし、それ以上にルクスを好きになって、こうして夫婦になれた事のほうが嬉しかった。
ルチアの声から、そんな気持ちが伝わってくる。
「いや、私の方こそ。貴女という素晴らしい女性と出会えて、貴女から愛される・・・。これまでの人生で一番の喜びだよ」
そっと、ルクスはルチアに近付き、向き合うように顔にそっと手を添える。
白く滑らかな肌に、大きな瞳。
長い睫毛と可愛らしい唇。
それらが全てルクスの心を捉えて離さない。
クレアを愛していた時とは違う、それこそクレアを愛していた時以上に、ルチアが愛おしかった。
ルクスの言葉や態度が。
真っ直ぐ見つめる目が、ルチアの胸を高鳴らせる。
勇者に抱いていた淡い恋心など比べ物にならない程ルチアを熱くさせるそれは、ルチアがずっと欲しかったものだった。
成り上がり故に金目当ての人間しか周りに居らず、心から誰かを思う事など出来なかった。
しかし、家が破産してもルクスの態度は変わらなかった。
元々の性分なのだろうそれが、ルチアには嬉しかった。
そんな、二人の共通の友人タクミの言葉が二人を結び付けたと言っても過言ではない。
彼と最初に出会ったのはルクスで、許嫁であるクレアから別れを告げられて落ち込んでいた所を慰められた、という経緯がある。
彼はルクスより若いのに、中々しっかりとした青年で、ヤズーという滞在先の町では多くの人々から好かれているようだった。
一緒に過ごしていて、ルクスもそれに納得する。
ちょっとした気配りも出来、自分の能力をきちんと分かっている。
無茶はしないし、出来る範囲で最高を目指す。
剣士として城勤めをしていた当時、城で働くメイドや執事の中に、そこまでの者はいない。
だからこそ、余計にタクミの事をルクスは好ましく思うようになった。
友人となれた事が、誇らしかった。
そこにルチアが加わり、三人は長い時間を共に過ごす。
勇者と共に共闘した時より、城の同僚達と居た時よりもルクスがルクスで居られた空間。
何よりも心地よい時間に、ルクスは自分の恋心を封じ込めようと思った。
いつの間にかクレアを思い出すことも無く、自分の心を占めていくルチア。
好きだと告げれば、この空間が無くなってしまうのではないか。
ルクスはそう思った。