出会い3
教会から出た二人は、町の人達から花びらのシャワーで迎えられた。
季節柄ピンク色の花びらが多くて、ルチアさんの着ているウェディングドレスがさらに綺麗に見えた。
幸せそうに笑う二人を見ていると、つい写真に収めたくなる。
カメラ何て無いから、せめて俺の脳裏に焼き付けとかなきゃ。
「確か、ルクスさんの実家に寄ってから行くんでしたっけ?」
すっかりラフな服装に戻ったルクスさんに尋ねる。
「そうだよ。一度私の実家に寄って、来られなかった親戚にお披露目をした後、新婚旅行に出発する予定なんだ」
「ルクスさんの親戚、そんなに多いんですか?」
今回の結婚式に来てくれた人数も、半分にも満たないらしい。
それでも、ルクスさんの親戚の人数は百人を超えていた。
・・・全部で一体何人居るんだか。
「まぁ、先祖代々多産の家系でね。私にも兄妹だけで十六人居るよ」
「へ、へぇ・・・」
この世界では王様以外妾とか側室は持てないから、基本は一夫一婦制だ。
つまり、ルクスさんを含めて十七人の子供を一人で産んだ事になるルクスさんのお母さんは凄いってことだ。
「でも、一番多いのは従兄弟の所かな?確か二十人は居たと思う」
正直、空いた口が塞がらないってこういう事だと思う。
二十人を一人の女の人が産むなんて・・・体力的にも精神的にも、大丈夫なのか心配になる。
ただただ、凄いとしか言い様が無かった。
「タクミ君・・・」
ぽつりとルクスさんが呟いた。
「私にルチアという、良き伴侶が出来たのは君のおかげだ。ありがとう」
「え、そんな!」
真剣な眼差しのルクスさんに俺は慌てた。
だって、俺特に何もしてないし。
そんな、慌てふためく俺の手を握って、ルクスさんは続けた。
「私にルチアが居る様に、君にもきっと、良い出会いがある。その出会いが、君と最愛となる人との物だと、私もルチアも祈っているよ」
そう言われて気付いた。
ルクスさんは、あの初めて会った時に話した俺の昔話を覚えていて、心配してくれてたんだって。
まぁ、俺の言い方とか態度だったら、もう女は結構みたいに受け取ってしまうか。
実際そうなりつつあったけども。
でも、ルクスさんとルチアさんの二人を見ていると、ああいうのに本当に憧れた。
羨ましかったし、俺もいつか誰かとそうなりたかった。
「・・・ありがとうございます、ルクスさん。ルチアさんをよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ。彼女を泣かせるような事は絶対しない。誓うよ」
お互いの拳を軽く合わせ、俺とルクスさんは誓い合った。
ルクスさんなら大丈夫。
確信にも似た思いを抱きながら、ルクスさんと別れた。
そして、二人は新婚旅行へと旅立って行った。
ルクスさん達が旅立ってしばらく。
この季節はあまり客の来ない時期なので、宿屋は暇だった。
ルクスさん達は今どの辺りかな、と思いながらロビーの掃除をしていると、カウンターからシューさんが手招きしていた。
不思議に思って、箒を一旦置いてカウンターまで向かう。
「どうしたんですか?シューさん」
今日は客も居ないので大した仕事も無かったはずだけど・・・。
「あんたがここに来て一年。毎日休みなく働いたね」
「いえ、住み込みだし、俺みたいなのを雇ってもらってるから当然です」
突然雇って欲しいといった俺を追い出さず、働かせてくれただけでも有難い。
「うちみたいな小さな宿屋で、本当によく働いてくれてる。それでね、働きっぱなしのあんたに、纏まった休みをプレゼントしようと思って。どうだい?」
シューさんの言葉に俺は驚いた。
確かに、この宿屋はそれほど大きくないし、今の季節客はほとんどいない。
それでも、完全に客が来ない訳でも無いし、探せばいくらでも仕事はあった。
そんな中、長い休みだなんて・・・。
「それは嬉しいですけど、その・・・」
「心配しなくても、あんたを追い出すとかザックと回せないとか、そんな事無いから。あんたは心置きなくゆっくり休んできなさい。ほら、あんたが今まで使わなかった分の給料。今度こそ受け取ってもらうからね。貯めるもよし、パッと使うもよし。あんたの自由だ」
もともと給料自体はそれなりに貰ってたけど、住み込みという事で本来自分で家を借りるとかしなきゃいけなかった分、浮いたお金をシューさんに預けてた。
正直、使い道が無かったから、これまで貰っていた給料で十分なのに、シューさんはボーナスまで渡そうとしてたから、俺は断っていた。
その分も一緒に入っているであろう袋を渡され、ほとんど強制的に俺は休みを貰うことになった。