異変1
始まりは、勇者の周りの様子を覗き見がてら他の所を眺めている時だった。
あ、能力の一つなんだけど、自分の目線でどこまでも景色を眺められるっていう、ストリートビューみたいなものを貰ったんだ。
もちろん、頭が混乱するからそんなに頻繁には使わない。
で、その日もうろちょろ色んな場所を見てたら不思議な花畑を見つけた。
そこには、石で出来た花が咲き乱れていたんだ。
この世界の知識を知っている身としては、そんな花聞いたこともないし、図鑑にだって載っていない。
もしかして、新しい敵が出てくる予兆か?と思ったけど、この世界には勇者が居るし、その勇者がなんとかしてくれるだろうと安心した。
しかし、確かこの世界に存在する精霊からの加護があるはずの勇者が不思議な花畑の事に気付いたのは、それから三日経ってから。
おいおい、なんでそんなに時間が経ってんだよ。
もし、新しい敵からの攻撃だったら後手に回り過ぎだろう。
そう思っていると、勇者と仲間達は不思議な花畑の調査に向かったらしい。
何が原因かは知らないけど、頑張ってくれよ、“勇者”さん。
その間、いつの間にかルクスさんとルチアさんの距離が縮まっていた。
これはもしかして・・・?
勇者達の動きは時々見張るとして、当面の俺の目的は二人をくっつける事にした。
よし、さっそくシューさんに報告しよう。
「おや、あの二人がねぇ。お似合いじゃないのさ」
俺の言葉を聞いたシューさんは、二人がそこまで仲良くなっているとは思わなかったらしい。
それでも、美形でかっこいいルクスさんと、かわいい感じのルチアさんが付き合えばお似合いだとは思っていたそうだ。
流石シューさん。
「ただ、二人とも色々あったから恋人関係に発展するかは・・・」
ルクスさんは徐々にクレアさんの事を忘れていられてるみたいだけど、ふとした時間はまだつらいみたいだし、ルチアさんも自分に自信が無くて恋に憶病になっているみたいだし・・・。
「タクミ、あんたは二人の事情を知っているのかい?」
「ええ、まあ・・・」
「なら、もしこの先あの二人が今以上に仲良くなったら、あんたが二人をくっつけてやんな。事情を知らないあたしじゃ、失敗しちまうかもしれないしね」
確かにそうだけど・・・。
「いや、俺には無理ですって」
普通の恋愛したことが無い俺には無理だろう。
煮え切らない俺に、シューさんは俺の頭を撫でながら言った。
「だったら、二人を見守るくらいで良いから、とにかく二人と一緒に居てやんな。で、あんたが良いと判断したら二人きりにする・・・いいね?」
そんなシューさんに、俺は何も言えなかった。
まあ、シューさんが言うなら俺にだってキューピッド役を出来るかもしれない。
見守るだけとはいえ、どんな風にすればいいのかさっぱりなので、勇者の様子を覗くことにした。
今日はもう仕事も無いし、時間もあるのでじっくりと見れる。
ちなみに、今はもう夜遅い時間だから大したものが見れないんじゃないかと思うだろうけど、その辺は大丈夫。
勇者がどんな一日を過ごしたか、録画された映像みたいに巻き戻すことが出来るんだ。
時間については制限が無く、その気になれば前に勇者が世界を救った旅を全部見れる。
ちょっと変な能力だけど、他にいくつか貰ってるし、こうした小さい能力の方がじいさんから後でまた能力を貰えるって聞いたから、このままで良い。
何でも、一人ひとりに授けられる能力には決まりがあって、全部で10の容量分貰えるそうだ。
ハーレムとかはその中で3くらい容量を使うらしい。(勇者はこれで大きい能力を沢山作れる能力を授けてもらったそうだ)
今の所俺にはまだ半分容量が残っているから、それを上手く利用しないと。
石となった花畑の調査に向かったらしい勇者達は、道中でもありきたりなラブコメっぷりを発揮していた。
正直、その辺は全く興味が無いから早送りをする。
しばらくして石の花畑に着いた勇者達。
近くに精霊らしき存在が現れて、勇者に向かって何か言っていた。
あ、早送りしたままだけど・・・まあいっか。
これからの行動を見ていたらたぶん分かるだろう。
あ、今度は精霊も交じって勇者の取り合いが始まった・・・。
何だかこういうのは同じ事の繰り返しで、見てて飽きるよな。
まだルクスさんとルチアさんの二人の方が少女漫画チックで新鮮だよ。
で、勇者達は移動を始めた。
行き先は分からないけど、とりあえずこの町には向かっていないらしい。
良かった・・・ルクスさんもルチアさんも、勇者とかなんて忘れてお互いがくっつけばいいんだ。