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プロローグ2

今回もよろしくお願いします。

 5年経った月日の中で色んな事をリティさんから学んだ。


 この世界がセイズと呼ばれていることやセイズの常識。


 セイズに跳梁跋扈している魔物と呼ばれる魔力を持つ生物との戦い方。


 今住んでいる家がある場所はグリンフォーレの森という凶悪な魔物のいる人の近寄らない場所だということ。その時には何故リティさんがこんな場所に住んでいるのかは教えてくれなかった。いつか教えてくれるかな?


 家事に関しては父子家庭のため下地があり、要領よく覚えていったため一番褒めてくれた。今まで褒められるということがなくて最初はすごく照れて困惑していたけど、そんな気持ちとは裏腹に感じの悪い態度を取ってしまったりした。

 

それを慈愛の籠った目で見つめられながらやさしく頭をなでられた時にはもう好意と呼ぶべきものをリティさんに抱いていた。止めはちょうど一年が経った頃に自分の身の上を話したときに、涙を流しながら抱きしめてくれた時だった。泣きながら俺に「クーヤは泣いてもいいのですよ」と言われたとき、この身の上話や、父親がなくなったときにすらショックは受けても涙など出なかったのに、この言葉をくれたときに俺の心の中の何かが壊れたんだ。いや、直してもらったのかもしれない。

その時のことを思い出すのは恥ずかしいが大声でリティさんに縋り付いて泣いていた。服も涙と鼻水で汚してしまったのは今でも穴があったら入りたい。


そしてそれが来たのはここ最近俺の役目になっている周囲の魔物討伐を終えて、そのうちの一匹を夕食のおかずにと持って森に唐突に開けたところにある家のドアをくぐった時だった。


「ただいま戻り」


『久しいな、脆弱な人間の童よ。つかの間の夢は楽しめたか?』


その声が頭に響いた時、全身から嫌な汗が止まらなかった。呼吸も浅くなっていく。たまらず担いでいた魔物を手放して膝をついた。


『では誰かに愛されたいという願いに引き続き、次の願いもかなえてやろう』


そんな言葉が頭に響いたとともに体がまるで自分のものでないかのように動かなくなっていく。


『人間など全て死んでしまえばいいという願いをな』


それは当時の俺が幼稚な考えで思い浮かべていたもの。自分も周りもいなくなればこんなに苦しい思いなんてしなくてもいいのに、と。


「クーヤ?どうかしましたか?」


 そしてなかなか家の中に姿を見せない俺を心配してか、リティさんが様子を見に来てしまった。


 「リティ……さん……、逃……げ……」


俺が言葉に出来たのはそこまでだった。それと同時に五感はあるのに完全に体は俺の意思とは関係なく動き始めていた。


 『久しいな、人間の魔法使いよ。この時が来るのを心待ちにしていたぞ』


 俺の口から発せられている声なのに俺の声と頭で響いている声とが重なって聞こえて、なんとも気持ち悪く感じる。


 「その声、まさか……大魔王ゾディエグゼ、だというのですか……?そんな……、まだ封印は破られていないというのに」


 『くくく、封印など破らずともすり抜ける方法などいくつかあるというものよ』


 「そうだとしましても、何の痕跡もなく、私に気取られることなくなんて」


 リティさんにかなりの焦燥が伺える。汗なんて掻いているところ今まで見たこともないのに先ほどから顔の輪郭を汗がなぞって顎から床に落ちている。


 『そのために5百年もかけたのだ。全ては貴様ら人間に受けた屈辱を晴らすためにな。そしてその最たるものがお前だ』


 大魔王ゾディエグゼ?封印?それがリティさんがこんな人の誰も来ないような場所で暮らしていた理由?


 『秘密裏に器をこの世界に呼ぶのに5百年のほとんどを費やした。そして召喚した器をお前に育てさせ、その間に我が力と魂をお前に気付かれぬよう慎重に、丁寧に、余すことなくこの器へと移した。もはやその封印の中には中身が空の体しか入っておらぬ』


 何がそんなにおかしいのかと笑いが止まらなくなっていく大魔王。それに比例して険しくなっていくリティさんの顔。


『さあ、それでは始めるとしよう。人類を滅亡させる夢を!その一歩を!童にはその光景を特等席で見せてやろう』


 「クーヤはまだ生きているのですか!?」


 『ああ、こやつの魂はまだ生きているとも。全ての人間を滅ぼした時にその魂を消滅させるつもりだよ。それまでは人間が自らの体の行いで死んでいくのを味わってもらうつもりだ。夢の過程まで楽しんでもらえるよう配慮している我に大いに感謝してほしいものだ』


 無論感謝などするわけがない。有難迷惑なんて言葉では片付けられない悪趣味な所業だ。


 『では手始めに自らに愛とやらを教えてくれた女を殺すという感触から楽しんでもらうとするか』


 そう言って手を前に掲げる。それと同時にリティさんが叫んだ。


 「障壁をここに!」


 普段無詠唱で魔法を使うリティさんが短縮詠唱で魔法を発動させる。その瞬間幾百もの魔力弾と呼ばれる塊がリティさんへと殺到する。1000発ほど撃ち込まれたのではないかと思ったところで着弾の際に余波で家を吹き飛ばし土煙を発生させリティさんの姿が見えなくなる。


 俺の体を操っているゾディエグゼは余裕の態度で煙が晴れるのを待っている。そして見えてきた姿は息を荒げながら膝を付いているリティさんのいまだかつて見たことのない苦悶の表情だった。魔力障壁も俺は訓練で一度も破れたことがないのに見る影もない。


以前戦闘技術の一環として魔法を教わった際に魔法を発動させる方法として、無詠唱で発動させる方法と、短縮詠唱で発動させる方法、通常詠唱する方法と魔法陣を描きながら詠唱して発動させる方法がある。

そしてその発動に時間がかかる順番に威力を上げることが出来るのだが、戦闘においてその利便性は威力を上げる順序とは反比例する。特に魔法陣を描くことには途轍もない集中力を要するためとてもではないが動き回りながら使うことはできない。


なのにゾディエグゼの魔力弾は、俺にとってはるか高みの魔法の使い手であるリティさんの短縮詠唱での魔力障壁を数を撃ったとはいえ無詠唱での魔法で突破するとは。一発にどれだけ魔力が込められているのか。


『くくく、この体に我が力と魂が思いのほか馴染んでおる。強い個体を召喚するのは気取らせないために出来なかったのだが存外拾い物だったな』


「はぁ……、はぁ……、くっ」


リティさんは荒くなった息がまだ整わず、苦しい表情を浮かべたまま。


『反撃せぬのか?それともこの童に情が湧いて傷つけることができぬのか?くくく、では嬲り殺しといこうか。それもまた一興よ』


 俺の所為でリティさんが攻撃できないのか?それでもって俺の体がリティさんを殺す?それを俺は見ているだけ?


冗談じゃない!


『では魔力弾で空中を踊り狂いながら死ぬがよ、い!?』


俺の全存在を掛けてリティさんを殺させやしない。その結果俺という存在が世界から消滅しようと構うものか!


「リティ、……さん、あな、たを……、死、なせ……る、く、……らい、なら……、オ、レ……ご、と、……」


『ば、馬鹿な!?肉体の主導権を!?ええい、忌々しい!傍観しておればよいものを!最早貴様などどうでもいい。消えてしまえ!』


何とか自身の体を止めはしたものの、自らを殺すような動きは到底出来そうにない。ゾディエグゼに肉体の主導権を奪われないように精神を保つだけで精一杯だ。きっとここで意識を失くしたら、俺という存在は消えて無くなるのだろう。


「今、の……、う、ちに……殺、し」


「クーヤ!」


リティさんの悲痛な叫びが聞こえる。正直目を開けることも出来ない。


「クーヤ……。ゾディエグゼ!私が無為に5百年を過ごしていたわけではないことを証明して見せましょう!」


そう聞こえた時、膝を付いて前屈みにになって下に向いていた顔の瞼越しに目の前が光っていくように感じられた。


「魔の王よ、邪悪なる者よ、汝が魂、聖なる光に、灼かれて潰えよ!セイント・レイ!」


魔法の詠唱が聞こえ終わった直後地面から体を先ほどまでとは別の意味で目を開けることのできない光が俺を包んだ。


『この我が、たかが人間の童に動きを止められ、たった一人の魔法使いにより消滅させられるなど!ありえぬ!断じてありええええええぇぇぇ……』


その断末魔と共に、俺と鬩ぎ合っていた何かが消えていった。と同時に体の制御が戻ってきた。けどそのまま前に倒れてしまう。


「クーヤ!」


リティさんが走り寄ってきてゆっくりと抱き起してくれる。


「リティ、さん。あいつは……」


「大魔王が復活した際に今度は封印ではなく完全に討滅できるように開発していた魔法でゾディエグゼだけを倒すことが出来た、と思います。それよりもクーヤ、大丈夫ですか!?」


その言葉を聞いて、安堵してしまった俺は急激な眠気に耐え切れず、意識を手放してしまった。


お読みいただきありがとうございました。

魔王は前座回でした。

次回からイチャイチャさせていきたいと思います。

といってもイチャイチャはクーヤの愛の告白のために後半の少しくらいでしょうけど(;^_^A

4話はリティアリア回の予定です

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