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可愛くない兄妹の甘くない異世界ライフ  作者: 刹那理人
第一章 謎の祖父と孫と無慈悲な守護者
3/10

好々爺と王国の過去

 時刻は夜から昼に変わっていた。まさに昼夜逆転(ちゅうやぎゃくてん)だ。

 歩いている人の容姿(ようし)はとても派手で、中世ヨーロッパ風と言った街並み。この偉観(いかん)を凝視した勇輝は脳内でここがどこか答えを導き出していた。


「妹よ、聞いて驚くなよ。ここは······異世界だ!」


 笑顔を浮かべながら『あの時』みたいに、妹に歯を見せ、必死に異世界に対する関心を上げさせようとした。

 だが一切の関心を表さず兄に対して焦燥感を抱いた。


「知ってるけど、お前は馬鹿なの!? 」


「馬鹿じゃないぜ! 異世界に来られたから清々してる!」


 勇輝は前の願いが叶えられたのだからとても喜ばしいことだろう。


「いや、異世界に来たらもう戻れないかもしれないんだよ? 家族や友達とかに二度と会えなくなるんだよ?」


 異世界バカの勇輝に対して怒りの疑問を浮かべた菜乃葉。


 ――だが、彼は笑顔が絶えることなく落ち着いた様子で言った。


「せっかく異世界召喚されたんだぞ? もっと楽しくやっていかなきゃー!」


「楽しめる訳ねーだろ! 現に召喚されたなら召喚者はどこだよ!?」


 確かに菜乃葉の言う通り二人の兄妹は死んで異世界転生したのではなく何者かの召喚によって異世界召喚されたのだ。ならば『召喚者』がいないと辻褄が合わない。だが、二人の周りには召喚者と思われる人物は一人も見当たらない。


「まあ、いつか()えるっしょ」


 この発言は余裕を感じられた。これから、異世界での生活になるので、心が弾んでいる状態なんだろう。

 菜乃葉はため息をしながら首を横に振った。


 ――本当に異世界馬鹿だな、こいつ。


 そう心で思っていたのだ。

 彼女は勇輝のテンションに巻き込まれ、何とか平常心に戻ることが出来た。


 そして、街を歩く老人に二人は質問をした。


「「すみませんー。ここってどこですか?」」


 この質問の内容に不思議な目で見られた兄妹。だが、老人はきちんとこの質問の答えを返してくれた。


「ここは『ドルエン王国』の王都じゃよ」


「おー、なるほどドルエン王国か。そこって世界から見たらどの辺にありますか?」


 老人からしてみては自分のいる国の名前を知らず、その国の場所も知らない。


 だから、老人は二人に対して憐れみを抱いた。そしてもっと詳しくこの国について教えてくれた。


「西の方にあるんじゃが仕方ない。『ドルエン王国』について教えてやる」


 髭を(いじ)りながらそう言った老人。


「立ち話もなんじゃ。店行くから付いて来い」


 二人の兄妹はこの人に話しかけて良かったーと心の中で強く思った。

 老人を先導者として、店に向かう途中で勇輝は家出する前にポケットに入れた財布からお金を出し、老人に質問した。


「この金使えますか?」


 そして、老人に百円玉と千円札を見せた。老人はその百円玉と千円札に若干の興味を示したが、その通貨が使えるかの決断は見た瞬間に付いていた。


「無理じゃな」


「ですよねー」


 結果は知ってましたよ、みたいな顔をしながら老人の言った直後にそう言った勇輝。


「普通に考えたらわたし達の国の通貨なんて他の国で使えるわけないじゃない。本当に馬鹿なの?」


 勇輝を軽蔑したのは菜乃葉だった。兄よりも態度がデカいので、本当に妹なのかがわからなくなってしまう。

 会って間もない老人は兄妹に様々なことを教えてくれてとても親身になってくれる老人だった。


 ――そして、兄妹とその老人は店に入った。だが、問題が一つ発生した。


「字が······読めない」


 食事のメニューらしき字が読めないのだ。二人はこれからの生活は安易なものではないことを悟った。


「言葉が通じても言葉の読み書きは覚える必要があるのか。まあ、異世界定番の設定だよな······」


 小声でそう言った勇輝。自分の場所がわからず、尚且(なおか)つ字が読めないなんてそんな恥ずかしいこと堂々と言えたらそれは真の馬鹿だからだ。あくまでもただの馬鹿の勇輝は真の馬鹿ではないのでその事を言い兼ねた。


「おじいさん、私字が読めないです!」


 ――うおー! 真の馬鹿は俺の妹だったのか!? そう内心で驚いた勇輝。だが、どさくさに紛れて勇輝も老人に打ち明けた。


「俺も読めません」


 やはり兄、勇輝が真の馬鹿だった。

 兄妹揃って字の読み書きが出来ない事実を知った老人は思っていたより驚かなかった。自分のいる場所がわからない時点でこのぐらいのことは推測していた様な顔をしながら老人は言った。


「仕方ない。ワシの孫にお前さん達の字の指導係を任せるかのう」


 そう聞いた瞬間、二人の兄妹はこの老人に声を掛けて正解だったと改めて思った。


「まあ、とりあえず本題に入ろうとするかのう。この王国、『ドルエン王国』の名前の由来について話すぞ」


 本題を忘れかけていた二人だが、老人の真剣に話そうとしている態度を見て、一語一句真剣に聞くことにした。


「大昔、七人の『最強』と言われていた勇者が国を震撼させていた一体の龍に立ち向かったんじゃ。七対一で勇者側の方が有利的なものに見えたんじゃが、龍の強さが異常でな。いつの間にか七人の内五人の勇者はやられてしまっていたのじゃ。そして出来るだけ使うのは避けようとした最後の切り札を二人の勇者は使おうと覚悟を決めたんじゃよ。なにかわかるかな?」


 真剣な話の中、急に疑問を投げかけられ若干焦る兄妹。だが、異世界大好き過ぎる勇輝はこのパターンは大体これ! というものを脳で導いていた。


「自爆······ですか?」


 心の中では自信満々に言えたのだが、実際になると老人に弱々しく答えを返した。


 そして老人が正か誤の判定をし、さっきの話の続きをした。


「その通りじゃ。二人の勇者は勝ち目がないことに気付き、全く同じタイミングで体内の全ての魔力を体外に放出し、大爆発をしたんじゃ。もちろん『最強』と言われている勇者の自爆の威力は絶大で洞窟だった場所が一瞬で荒野へと変わり龍も姿を消したらしい。そしてその二人の勇者の名が『ドル』と『エン』。

 その二人の勇気ある行動を(たた)えて、二人の名前を組み合わせた『ドルエン王国』が完成したってわけじゃよ」


 長々と国の由来について話してくれた老人。国の由来は意外と複雑なものでなく、単純なもので、二人も話の内容を理解出来た。そして、勇輝が老人に疑問を投げかけた。


「なるほどー。『王国』ってことは今も王がいるんですよね?」


「いるにはいるのじゃが今の国王、カルバネラ三世は病気でな、あまり王政が上手くいってないのじゃよ」


 憂い顔をしながらそう言った老人。国民にとって王政が上手くいっていないことは重要な問題なのだ。この老人の話を聞いて、王国の状態はあまり良くないことに二人の兄妹は気が付いた。


「と、なると王国はピンチということですか」


 手を顎に当てながら物珍しそうな態度でそう言った菜乃葉。


「国王の病気は治らないものなのですか?」


 真剣な眼差(まなざ)しを老人に向け、次に言い放ったのは勇輝だ。二人ともこれからはこの王国『ドルエン王国』で暮らすことになるから王国の状態を少しでも良いものにしたいのだろう。そして二人は今、一文無しである。そのため王国の状態を良くした時の銅貨、銀貨や金貨などの報酬にも期待をしているらしい。


 だが、それはそんなに上手くいくものではない。


「国王の病は重くてのう、治る方法は『一つだけ』あるのじゃが······」


『一つだけ』という単語を聞き逃さなかった二人。少しだけ現れた希望の光に賭けてみた。


「「その方法とはなんですか?」」


 同時に老人にそう聞いた兄妹。

 老人は兄妹の国王を助けたいという気持ちは理解したのだが、この方法を教えていいか躊躇(ためら)った。


「この方法は危険じゃぞ?」


 さっき以上に真剣な態度で二人に警告した老人。しかしそれでも勇輝はその方法を知りたくて仕方ないようだ。


「危険なら――」


「教えてください!」


 勇輝は菜乃葉の言葉を遮るようにしてそう言い、彼女は嫌な顔をして彼を睨みつけた。そして、老人はため息をした後でこの二人に唯一(ゆいいつ)の方法を教えることにした。



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