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突如の異世界召喚

 過去を思い返しながら二人の兄妹は互いに笑っていた。


「んなこともあったね。お前わたしを散々(いじ)めてきた『クズ』だからな」


「もう、それは昔の話だろー」


 勇輝(ゆうき)は否定せず弱々しくそう言った。

 笑いながら菜乃葉(なのは)は自分のスマホで時間を確認した。そして思っていた以上に時間が経っていたことに気が付いた。


「――げっ! まじかもうこんな時間じゃん! 早く帰らないと母さんに私も怒られちゃう! 」


 焦った菜乃葉の額には地味に汗が見られた。


「『も』って俺は(すで)に怒られる設定になってるってことかよ」


 苦笑いしながらそう言った勇輝。


 だが菜乃葉、(いわ)く、あんな些細なことで家を飛び出したから母親はとても怒っているらしい。なので無理もないかと内心では思っていた。


「取り敢えず、さっさと家に帰るぞ」


「え、いや、俺は帰らねえぞ」


 そう会話した兄妹は互いに意見が食い違ったので、菜乃葉は強引に勇輝の腕を掴み、家へ力尽くでも連れ戻そうとした。

 一方、勇輝はその力に抵抗し、体重を前にかけた。

 だが実際は妹に手間を掛けさせた兄が素直に謝ればいい話なのだが、


「嫌だー! 嫌だー!」


 そう(わめ)いて家に帰りたくない素振りを振るった。

 菜乃葉が姉に見える程、その時の勇輝は不甲斐なかった。

 ――本当に不甲斐なかった。


「お前の名前、勇輝だろ? 漢字で書くと勇者の『勇』に光輝の『輝』だよな? それとは違って全く勇気出してねえし、輝いてねえじゃねえか」


 ここで菜乃葉は頭を回転させ、勇輝の名前の方に目をつけて説得させようとした。

 にも関わらず、勇輝は『絶対』に家には帰らないと心に決めていた。


「お前はその力の強さと口の悪ささえ無ければ本当に完璧だったのにな」


 夜風が吹く中、菜乃葉にとっての禁句の一言を自然と言ってしまった勇輝。


 ――あ、これヤバいかもと菜乃葉の曇った表情を見て思った。

 だが、菜乃葉の曇った表情は段々と和らいでいった。


「まあ、そうかもね。確かにわたしお前に口悪いし、力尽くな面もたくさんあるよね」


 いつもなら、言葉で反撃して来る妹が珍しく反省していることに疑問をもったが、そんな妹が思った以上に可愛くて、勇輝は優しく頭を撫でてあげた。


 菜乃葉の髪の毛に勇輝の手が触れて、十秒程経った。


「お前、いつまでわたしの頭を撫でているわけ?」


 勇輝の手を払いながら菜乃葉は言った。


「ごめん、つい」


 菜乃葉は『つい』という言葉に疑問をもって、勇輝を鋭い目で見つめた。


「もしかしてお前シスコン?」


「断・じて・違ーーう!」


 焦り、赤面しながら勇輝は手で風を斬る素振りを見せながら反対した。


「んまあ、とりあえずさっき反省したなら俺のちょっとしたお願いを聞いてくれ」


 勇輝の顔色は赤から普通の肌色に戻り、さっき菜乃葉がしていた様な怪しい笑みを浮かべた。


「······!?」


 菜乃葉は兄に如何わしいことでも頼まれるかと思い警戒心を最大限に上げ、赤面した。

 そして勇輝がお願いをぶつけた。


「俺の事は『お前』じゃなくて『お兄様』とか『お兄ちゃん』のどちらかで呼べ!」


 自分的の決めポーズを決めながらそんな頼みをした。

 兄に対してここまで口が悪いと妹と呼べるか不安になったからであろう。


 だが夜風が静かに吹くだけで沈黙が続いた。


「――いや、なんか言ってくれよ! 決めポーズ決めた俺がかっこ悪いじゃねえか!?」


「あー、あれダサポーズじゃなくて決めポーズだったんだ」


 ポーズを見ていた時の菜乃葉の目は冷淡だったので笑ってはくれないだろうなーと思っていたが、からかわれるとは思っていなかった。

 菜乃葉は兄の頼みが卑猥なことじゃなくて安堵したが、この頼みにも深く反対をもった。


「いや、確かに反省はしたけど『お兄様』ってお前に『様』を付けるほどの価値は無いし、『お兄ちゃん』はお前には何かピンっとこない。まあ、もっとマシな兄になったら考えてあげてもいいけど」


「いや、お前昔は俺の事を『お兄ちゃん』って言ってたよな!? もうマシな兄だから――」


「断固拒否する!」


 菜乃葉は勇輝が喋っている途中で言葉を遮った。


 そう会話した後で、さっきの反省が嘘の様に勇輝の腕を強く掴み、さっき以上の強引さで連れ戻そうとした。



 ――そして屋上の扉がガチャンと閉まった。



 二人はマンションを出て勇輝は『絶対』に家には帰らないと心に誓ったものの、菜乃葉に抵抗する気力さえ失い彼女の隣に並び早歩きをして家に帰ることにした。


「ここを曲がったらもうすぐ家かよ······。まあ逃げててもどうにもならないか······」


「そうだよ。たまには正論言うんだね」


 勇輝の言葉に菜乃葉は久しぶりに共感した。

 彼が正論を言うのは一年に二回程なのでこれは珍しいことなのだ。



 そして二人は運命の『角』を曲がった。

 ――曲がった先に見えた光景に二人は凝視する。


「「え――家がないっ!?」」


 二人揃ってそう言っていた。

 二人の家はこの『角』を曲がったらすぐにあるはずなのにその家が消えていたのだ。


「私達、道間違えたのかな」


 憂い顔をして勇輝に同意を求めているのが菜乃葉の表情からして丸見えだった。


「あ、ああ。多分間違えたんだよ」


 だが、兄妹二人して道を間違えるはずがないので二人の額には汗が滲んでいて、焦っている様子を見せていた。


 二回目のチャレンジを二人はしたが、やはり家は見えない。


 気が付いたら時刻は九時を回っていた。


「もう、私もお前と一緒に怒られるの確定じゃん! 道に迷ったことを口実に出来ないかなー。てか母さんは何で夜の八時に、私にお前を追いかけることを頼んだんだろう。まじありえない!」


 そう怒りの言葉を菜乃葉は長々と放った。元々勇輝の家出から始まったことなので彼を睨んだが、彼は鋭い嫌な視線を感知し、目を逸らした。

 いつも学校の帰り道のはずなのに『道に迷った』何て言ったら余計に怒られるであろう。なので仮に菜乃葉が家に帰ったら彼女も怒られる。


 それを察して菜乃葉も家に帰りたくなくなった。


 だが二人は家を目指した。

 そして三度目のチャレンジ運命の『角』を曲がった時だった。


「――っ!」


 二人の周りに急に光が満ちた。

 その眩しさに二人はその光景を一瞥(いちべつ)したが、いつの間にか見知らぬトイレらしき所にいた。


「「ここはどこだ」」


 二人合わせてそう言った。

 だが、勇輝はゴクリと息を飲みながら心の中であることに気が付いた。


 ――周りには女子ばかりで、トイレらしきとこって······。


「まさかここ女子トイレ!?」


 そう叫んだ瞬間、勇輝は会って数秒の女子から「キャー!」と嫌がられビンタをくらい、「ごめんなさい!」と言いながらトイレを後にした。そして菜乃葉も続いた。


 外に出た。そこには『異世界』という単語以外では何と言っていいのかわからない世界観が広がっていた。

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