表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

二人の兄妹と険悪な過去

初めて小説を書いてみました。

感想等貰えると嬉しいです。

 漆黒(しっこく)の夜空に浮かぶ輝かしい満月、それを中心に取り囲む満点の星々。


「もう、こんな世界嫌だ!」


 美しい夜空に向かって、知らないマンションからそう叫んだのはごく普通の高校二年生である神谷(かみや)勇輝(ゆうき)だ。

 彼は黒髪、黒目の容姿はB級レベル、身長は百七十八センチとやや高めの十七歳だ。


 現在時刻は午後八時、そんな勇輝は母親と喧嘩し、現在の状況に至るわけだ。

 だがその喧嘩の内容は意外にも些細(ささい)なことだった。

 それは(さかのぼ)ること三十分前の出来事だ。


「あんた、もうそろそろ大学に向けて真面目に勉強した方がいいんじゃないの?」


 そう言ったのは勇輝の母親だ。

 この発言をほぼ毎日放っている。

 そしてスマホを(いじ)っている勇輝は怒り気味の母親の質問に億劫おっくう)そうに答えるのだ。

 この親子の下りは神谷家の恒例行事にもなっている。


「わかってるよ」


 そして母親の顔に少しずつ怒りマークが付いていくのだ。彼はもう何度も母親を怒らせている。ある意味――達人だ。


「毎回毎回、私がこの質問をすると適当な返事しかくれないじゃない! 大学行く気はあるの?」


「あるよ」


 スマホを片手にまた一言の適当な返事を返した。ここまでは毎回のことなのだが今回は少し違っていた。いつもなら呆れて会話を止める母親なのだが、


「わかったわ。次の中間試験で学年二十位以内じゃなかったらスマホを捨てる」


「――はあー!?」


 なんと条件付きでスマホを捨てると言い出したのだ。これは学生にとって重いダメージ。しかも条件がテストというものなので、いざ、テスト! という時の胸の鼓動はいつも以上に激しくなるだろう。

 そして勇輝は驚きと怒りが混じりあった表情をしていた。なぜなら彼にとって『スマホを捨てられる』ということは『スマホがない間の退屈』を意味するからである。


 そんな退屈ならば勉強ぐらいしろ! と言いたい所だが、彼は勉強が苦手というわけではないが勉強が大嫌いなので家にいても勉強しようと決心してから三十分ももたない。


 ならゲームとかすれば良くない? とか言う疑問も浮かび上がるが彼は飽き性なので、買ったゲームは全て飽きてしまったらしい。


 彼はゲームよりアニメとラノベが大好きだ。ならばアニメ見て、ラノベを読めばいいと思うが、アニメ見すぎ、ラノベ読みすぎでこの二つは両親から禁止令が出ているらしいので手が出せない状況にある。

 よって彼はスマホを(いじ)ることしかやることが無いのだ。


「ふざけんなよ! アニメ、ラノベ禁止令食らって、更にはスマホかよ!? それに俺は今まで学年六十九位が最高なんだぞ? 三百人ぐらいいる中で学年二十位以内とか無理難題にも程があるだろ!? 俺は無理ゲーの主人公じゃねえんだぞ!」


 母親の提案に断固拒否したが、母親は聞いてくれなかった。だが、この母親の行動はある意味『矢刺しさ』なのだ。

 その矢刺しさを勇輝は無視してスマホを片手に、ポケットに財布を入れて家を飛び出し、見知らぬマンションの屋上で叫んでいたのだ。


 勇輝は四歳の時から様々なアニメを見て、ラノベも読んでいた。

 中でも異世界系が大好き、いや愛しているらしい。

 だから彼の今の願いはただ一つ。


「――神様! 俺をこんな世界から解放して異世界へと召喚してくださーい!」

 

 また叫んだ。その瞬間屋上の扉から音がした。


「やべー! もしかして管理人さんに聞こえてた!? これはまた怒られるオチかよ······」


 そして扉が開いた。勇輝は扉の開く音にびびり額に汗をかいている。

 一方その時、管理人さんは机に向かってぐっすりと鼻から風船を出していた。


「お前はここでなに叫んでんだよ」 


 勇輝は聞き覚えのある声に後ろを振り向いた。そこには身長百六十センチ程の身体(からだ)に赤いリボンが付いた白い半袖のセーラー服を着ており、膨らみかけの胸がいい感じにフィットしている。髪の方は長い可憐な茶髪が妙に目立っており、凛とした綺麗な青い瞳の輝かしさは月にも負けないぐらいの光を放っていた。

 姿を表したのは勇輝の妹である神谷菜乃葉(かみやなのは)だ。

 彼女は容姿端麗(ようしたんれい)学業優秀(がくぎょうゆうしゅう)の中学二年生で歳は十四歳、クラスの人気者らしいので勇輝にはもったいない程の妹だ。


 彼は姿を現したのが妹の菜乃葉であることに安堵(あんど)し、額の汗を拭った。


 ――だが二つの疑問が浮かび上がった。


「なんでお前がここに居るんだよ? てか俺の叫んだ内容聞いてた······?」


 焦りながらも菜乃葉に質問した。

 彼女は少し怒り気味にその質問に答える。


「わたしが部屋で動物のかわいい動画を見てる最中に下から『あのくそバカ追いかけて』とか言う母さんの声が聞こえたから仕方なくわたしが追う羽目になったのよ。叫びの内容なんて聞かれても大したことないでしょ?」


 この発言から勇輝は叫びの内容が聞かれていたことに気が付き脳裏でクスクスと笑う菜乃葉の顔を浮かべながら、顔を赤くし反対の言葉を入れた。


「大したことなくねえよ!」


 顔を赤くしてそう言っている様子を見て、菜乃葉が怪しい()みを浮かべた。


「お前の真似してあげよっか?」


「――?」


 彼は菜乃葉の発言の意味を理解出来ず首を傾げた。だが、数秒後にその発言の意味を理解することになる。


 菜乃葉が大きく口を広げて、


「――神様ー! 俺をこんな世界から解――」


「やめろー!」


 恥ずかしさのあまり菜乃葉が叫んでいる途中に勇輝が彼女の元へと駆け寄り、口を封じ込めその叫びを(さえぎ)った。


「やっぱりお前、俺の叫び聞いてたな」


「何か恥ずかしいことでも?」


「恥ずかしいことだらけだよ! あと何でお前制服姿何だよ?」


「そんなのどうでもいいじゃん! お風呂もうすぐ入ろうとしてたのにお前がそれを邪魔してきたんだ!」


 こうやって兄妹で仲良しそうな会話をする勇輝と菜乃葉。だが、昔は口も聞かずで険悪な雰囲気ばっか(ただよ)わせていた兄妹だった。





 勇輝が小学一年生で六歳の時、菜乃葉は三歳で歳は三つ離れていた。勇輝はよく菜乃葉のことを軽蔑(けいべつ)したり、(いじ)めたりとにかくあの時の勇輝は『クズ』だった。そして菜乃葉は勇輝のことを嫌い、話すことさえ(こば)むようになった。


 だが菜乃葉が小学四年生で、家族と動物園に来ていた時、菜乃葉は興奮し先走り、気づけば周りには知っている人が誰もいなくなっていた。恐らく、みんなが目を離した時に先走ったからこうなったのであろう。いわゆる『迷子』に直面した菜乃葉は必死に家族を探した。


「――お母さーん! ――お父さーん!」


 大きな声で両親を呼んだが、その声は両親には届いていなかった。 

 気がつけば頭上には雲が出てきており、菜乃葉の頭に弱々(よわよわ)しく一滴の雨が降ってきた。その一滴の雨から少しもしない内に雨が強くなり、気が付けばびしょびしょに()れていた。

 ――そして瞳が曇ってきて、(なみだ)を浮かべた。


「お母さん、お父さん······」


 弱々しくそう言って、両親が来てくれることを望んだ。しかし両親が来る気配はない。

 周りには手を繋ぎながら走っているカップルやらがたくさんいた。そんな中、涙を流しながら歩いていると、


「菜乃葉! こんな所にいた! 早くお母さんとお父さんの所に急ごう!」


 初め、菜乃葉は誰、この男の子? と内心で思っていた。

 涙を拭い、ボヤけていた視界が段々と明確になって行き、男の子の顔を見ることができた。もちろん誰かもすぐに気が付いた。


 ――声をかけたのは兄の勇輝だった。


「菜乃葉、怪我とかないか?」


 息切れしながらも(うれ)い顔を浮かべて必死に妹の状態を知ろうとしていた。


「特にないよ」


 それに対し、菜乃葉は(うつむ)きながらも自分の状態を単刀直入に話した。


 菜乃葉が自分の言葉にきちんと答えて、怪我も一切していないという状態に勇輝は安堵(あんど)の表情を浮かべた。


「とりあえずお前、体冷えてんぞ。早くお母さんとお父さんの所に急ごう」


 菜乃葉は訴えに軽く頷いた。

 そして勇輝は妹の手をしっかりと握り、雨の中走り両親の元へと急いだ。

 実は兄としての行動をきちんと彼は()れていたのだ。

 そんな中、菜乃葉は疑問をもっていた。


「ねえ、なんでこんなに私に親身になってくれてるの?」


「何でって言われてもなー、()いて言うなら」


 と、前置きをして唐突(とうとつ)な質問に雨が降っている中、笑顔で歯を見せ、手を強く握って、走りながら兄らしい答えを返した。


「――お前にこれ以上嫌われたくないからだよ」


 菜乃葉にとって『本当のお兄ちゃん』に会えたと感じ、この刹那(せつな)の出来事はいつまでも忘れないようにと『ある日の動物園での思い出』として自分の脳裏(のうり)に刻んだ。


 そして勇輝にとっては久しぶりの妹との兄妹らしい会話をした瞬間だった。中学一年生の勇輝はさすがにもう、妹である菜乃葉を軽蔑したり、苛めたりするのをやめ、何度も謝ってきたのだが、無視されて許してもらえなかった。


 ――だからこの機会を期に謝ってみようと勇輝は決心した。


 多少雨は避けられるだろう場所を二人は発見した。そこで覚悟を決め『無視されたらどうしよう』などの憂い事は全て捨て、菜乃葉に謝罪(しゃざい)した。


「――菜乃葉、今まで軽蔑したり、苛めたりして本当に悪かった。もう俺は、中学一年だ。お前を傷つける様な行為はもうしないから許してくれ」


 ······五秒程の沈黙が続いた。その中で唯一音を立てていたのは雨が地上に当たる音だった。その音以外の音を認識した時は、髪がびしょびしょに濡れながらも笑顔を見せ、涙を流していた菜乃葉が視界に入った時であった。


「いいよ。そして『迷子』の私を見つけてくれてありがとね。お兄ちゃん」


 一つの『迷子』から二人の兄妹の仲はだいぶ深まった。

 勇輝は今まで口も聞いてくれなかった妹がこんなに呆気(あっけ)なく『お兄ちゃん』と呼んでくれる日が来るだなんて思ってなかった。


 だからその時の菜乃葉の発言と笑顔がとても眩しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ