5話 優しい彼氏
明日実(25)と栄太郎(26)の週末。
わたしの彼氏はひたすらに優しい。
職業が保育士だから?元々の性格?
わからないけど、兎に角優しい。
なにかの飲み会で出逢い、顔が好みだった。
食べ物の好みが合わないかもと感じだけど、その感覚の違いもうまくやっていけるような気がした。
キスされて良い雰囲気になったけど、早く帰ると言ったわたしを駅まで送ってくれた。
途中手を振り払っても、ずっと話しかけてくれて、連絡もくれた。
家に早く帰りたいのは早寝だから眠かったからで、手を振り払ったのは人と手を繋ぐのが気持ち悪いからで、でもそういうわたしが印象悪いことしても理由も聞かずに、ただひたすらにそばに居てくれる。
なんでだろう?
わたしたちは正反対だ。
わたしは固い食べものが好きで、土屋くんは柔らかい食べものが好き。
わたしは無表情、土屋くんは喜怒哀楽がすぐわかる。
わたしは冷たくて、土屋くんはあったかい。
「映画見に行かねー?俺みたい映画があるんだけどなー…?」
「…いいよ」
土屋くんは週末になにをするかを提案してくれる。
その提案を通すか当日のわたし次第。
「TSUTAYAじゃねーか!」
栄太郎は待ち合わせ場所がおかしいと思ったとレンタルショップに連れてこられたことを嘆く。
「私ン家で朝まで映画マラソンだよー…3本ずつ選ぼ?」
「いや、映画館…プリティ戦隊デコポン!を見たいんだけど」
「土屋くん…またアニメ…」
「いやいや!子供たちみんな見るんだから話し合わなくなっちゃうんだよ!見ないなんて逆にださい!」
「ふーん…?3本ずつね」
別にプリティなんたらを見たくないわけじゃない。
土屋くんが3シーズンDVDを貸してくれたから物語も知ってる。でも私は…映画館には行けない…。
明日実はスマホを見つめる。
「はー…しょうがないな。新作で見たいのあるかな」
これを何回も繰り返しても、栄太郎は楽しそうに部屋で映画を見てくれる。
ちなみに土屋くんはアニメ、戦隊モノ、感動系、アクションが好きで、わたしはVシネ、スプラッター、ホラー、時代劇が好き。
でも相手が借りたものでも面白いと思うし、また観たいと2度目を借りたこともある。
借りた映画を3本見終わって、休憩がてらに家の周りを散歩する。
その間に、観た映画の感想を言い合ったりしながら日が暮れて、家に帰って続きを見る。
「先お風呂はいって、ご飯食べながらまたスタートしよっか」
「寝落ちできるもんね」
「明日実、先入りなよ。ご飯作っとく」
「ありがとう。昨日煮物大目に作ったからさ、それとー…オムライス作ってよ」
「明日実、オムライス好きだなー!でも煮物に合うかな?」
「わたしは気にならないよ」
オムライスは別に好きじゃない。柔らかいし。
でも土屋くんがケチャップで描いてくれる絵が好きだ。
「お風呂お先に!煮物温めるね」
明日実はドライヤーを引き出しから取り出して、机の上を少し片付ける。
「おー。あのさ、ケチャップ使い切っちゃった、ごめん」
栄太郎は片付いたテーブルに二人分のオムライスを置いた。
「いいよ。可愛いね、なに?」
オムライスに描かれているのは、ウサギに羽が生えたような生き物に見える。
「プリティ戦隊デコポンにでてくるはっさく2号だよ!」
「…実は映画館に行かなかったの怒ってたりする?」
明日実は無表情で悪びれもせずに聞いた。
「怒りはしないよ!ただ映画好きなのに、映画館はいかねぇなと不思議に思ってさ」
栄太郎はただ笑う。
「…映画館って電話がきても取れないでしょ?それが嫌なの」
自分が取り逃したくない且つ、望まない電話がこの世に一つある。
「ふーん?…たしかに、明日実っていつ電話しても取ってくれるよな」
「そうだっけ?」
早寝なわたしに夜に電話をしてこないから、取れるだけだと思ったが口に出さなかった。
わたしは土屋くんが脱衣所に入るとき、覗きに行く。
彼の腕を見たいから。
前に土屋くんの腕に落書きが沢山あったから、何故か尋ねたことがある。
「その日なにかを頑張った子には手にハートを描くんだ。そしたらみんなからもいっぱい描いてもらっちゃった!」
いいなぁ…この顔。
土屋くんの笑顔は可愛くて、見てると安心する。
魔法にかかったみたいだ。わたしも真似しようと思った。
だからわたしはつらいとき、足の甲に大丈夫とペンで落書きをする。
それは秘密のおまじない。
効果が薄れないように、いつでもその腕を思い出せるように、それを覗きに行くのだ。
今日も彼の腕はカラフルな線がある。
きっと、みんなに好かれている。
嗚呼、なんて優しい人なんだ。
明日実はあけみですが、あすみで変換してるので、あすみと呼んでます。(なに)
そろそろ、明日実も栄太郎を呼び捨てにしてほしい。