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明日、優しく咲けたなら  作者: 今昨明 晶
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1話 殺人妄想彼女

1話目は主人公の明日実とその彼氏の栄太郎のお話です。

明日実は人を事故死させる妄想があるけれど、普通の女の子です。


女の子はお花。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。

だから優しくしてあげないとね。

お母さんの口癖だった。


休日の緩やかなお昼過ぎ、俺の部屋で俺が作ったオムライスを彼女が食べている。

「それでね、屋上でバレーボールを見つけて」

普段はあまり喋らない彼女がたまに一方的に話す時がある。

セミロングの黒髪にキュッとつり上がった瞳を流す、白い肌と小さな口元に黒子が可愛いのだが、表情はあまりない。

「先輩と咲凜(えみり)とね、バレーしたんだけどね」

俺はソファに持たれて、まるでホラー映画でも観ているようにクッションを抱きながら彼女の話を聞き流そうとしている。

「ボール飛ばしすぎて、下に落としちゃってね」

カチャカチャと皿に当たっていたスプーンの音が止まる。

「地上でバウンドして、誰かの頭に当たって死んだの」

彼女の目が恍惚と光る。

この瞬間、俺はクッションを強めに抱いて息を飲むのだ。


お母さん…本当に女の子はお花ですか?


「そうなんだ…明日実(あけみ)の会社、高層だもんな」

「うん」

俺の返しに頷いて、彼女はいつも通り静かに無表情でオムライスを食べ続けた。

これは彼女の妄想だ。


俺は土屋 栄太郎。26歳。職業は普通の保育士。

彼女は天野 明日実。年は一個下。普通のOL。

普通のOLのはず。いや嘘。彼女には人を事故死させる妄想癖がある。

明日実とは付き合って三カ月。出会ったのは半年前、新年の大型の飲み会だ。

三兄弟の次男、男子校出身の俺は酒の力を借りることで女にアプローチできるテンションになる。それはまぁ一か八かみたいな変な勢いだ。

職場は女性が多いが、口説く気は全く起きないし、どちらかと言えば怖い。

明日実の顔が凄く好みだったから、酔ったノリで近寄ってキスをした。

無表情だった彼女の俯いた顔がさらに可愛くて、心拍数が上がっていった。

それからたわいのない話をして、二次会に行くか行かないかで明日実は帰るほうを選んだ。

「送るよ、JR離れてるし」

「…ありがとう」

駅までの夜道は人通りが少なく、二人きりだった。

元々酔ってなかったけれど、キスもこともあったから調子に乗って手を繋いでみた。

一瞬で思いっきり、振りほどかれた。

「ごめん…」

俺が謝って、彼女は無表情のまま視線を返しただった。

んー、チャラそうにしすぎたかなと反省した。

強引にどこかに連れ込まれるとか思われたのかな?

5分もかからない道は、終わった!と思った俺には長くて、気まずすぎて反対のホームだと嘘をついて、一本見送って帰った。1人の女の子を送った男からの連絡なんて誰も間に受けないかもしれないが、ちょっとした気持ちの足掻きで知り合った何人かの女の子に当たり障りのない連絡した。

誰か1人でも引っかかればいい。

そう思って寝た。

翌朝、何人からの返事と一緒に明日実からの連絡が来ていて驚いた。

その後、何人かとやり取りをしたり、2人で食事行ったりをして、最後まで連絡が途切れなかったのは明日実だけだった。

春になって、花見に一緒に行って、酔っ払った力で告ってしまった。

「いいよ」と普段と同じトーンで明日実は言った。

俺はすごく嬉しかった。だけど、この時はこんな妄想癖があるって知らなかったんだ。

付き合い始めて、ポツリポツリと彼女は誰かが急に死んだ話をするのだ。

普段、無表情に近い明日実が人を死なすと嬉しそうな顔をするのが正直怖い。

口に出さないこともあるが、考えごとをしていて目元が笑うときは100%誰かを殺していると思ってる。

それがどんな時でも。

ベッドの中で最中に、急にその表情をされると、背中がゾクっとするし最後まで頑張れ俺と思って目を瞑る。

そして俺は殺されるぐらい下手なのかと落ち込むのだ。

いや、明日実が妄想で俺を殺してるかは知らないが、別の男を殺していても…それはそれで問題だ。


「花?」

明日実は栄太郎の手元を見て聞いた。

オムライスを食べ終えて、録画していた映画を見始める。

その間、栄太郎は内職をしようとしていた。

「ああ、明日6月誕生日の子たちのお誕生日会やるから、飾りの花をね…」

紙だけどねーと栄太郎は笑う。

「懐かしい…私もやっていい?」

「もちろん、助かるよ。やり方わかる?」

「うん、今土屋くんの見てたから、」

ほら、と1つ作ってみせる。

「上手だね!」

「そう…?土屋くんのと比べたら子供が作ったみたい…」

明日実は苦笑した声を出した。

「そんなことないよ…!」

花の王冠を明日実の頭に置いて栄太郎は笑う

「女の子はみんな花だからね!」

「……ちょっと」

明日実はムッとしたが、これは照れた顔だと思ってる。

彼女の表情に少しでも変化がある時が攻め時だと俺は知っている。

「あははは。かわいいよ、明日実」

キスをして、もう一度顔色を見る。

そこには普段の彼女がこちらを見返している。

本当にこの顔が好きだ。ずっと近くで見ていたいと思うが、何もしないで顔が近いと俺の方が赤くなってしまうので引くしかない。

変な汗をかきそうになり、栄太郎は息を吸った。

「私は花というより、実かな。アケビってアケミともいうんだよ」

頭から花冠を下ろして、明日実はそう言った。

「アケビねー、食ったことないや」

栄太郎は息を吐きつつ、アケビを検索した。

熟すとパカっと実が裂けるから「開け実」と呼ぶらしい。

「へぇー…」

栄太郎はスマホに対して感心した声をあげて、映画に目を向けている彼女の横顔を盗み見る。


熟したら…、どんな中身がでてくるのやら。


読んでいただきありがとうございました。

明日実と栄太郎は付き合うまでの物語もいつか書きたいです。

顔だけじゃなく他にも好きな部分はあります。


アケビを食べたことがないので、書いてる間に食べたいです。

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