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悪役令嬢だけど、主人公と友達になっていいのかな。駄目でしょ!

「サラちゃんサラちゃん、一緒に中央公園に行こう!」


──休日、桜茉莉がまたもや私の家に上がり込んできた。

 私は暴言防止用の大きな×が書いてあるマスクを装着し、ため息を吐く。

 あれから私の悪役令嬢体質は桜茉莉が私に一メートル離れておけば発動しない事も検証済みだ。


〈茉莉さん。確かに友達になるとは言ったけど〉

〈友達だからって毎日家に来られると困るよ。今は両親いないからいいけれど〉

「え、あ、ご、ごめんなさい!」


 しゅんと俯く桜茉莉に私はどうしようかと傍にいる力也にアイコンタクトをする。


「たまには桜様の提案を受けてみては?」

「だ、駄目よそれは! 私が桜茉莉と仲いいなんて万が一誰かに見られて広まったら、雷雨の奴らになんて言われるか! 嬢坂サラとして、それは断固拒否します!」

「とはいっても、桜様は女子寮ですし、その女子寮は青空学園の中です。ならば、密会の場所はここしかないかと」

「……密会って言うんじゃないわよ。仕方ないわね」


 力也との秘密会議が終了した。


〈中央公園へはいけません。雷雨の人にバレたら私の立場がなくなってしまう。本当にごめん〉

〈でも、この家なら事前に連絡をくれたらOKです。断る時もあるけど許してね〉

「え!? 本当!? じゃ、じゃあ、携帯のアドレス……!」


 私は仕方なく桜茉莉と携帯のアドレスを交換した。

 まぁ、これで突撃訪問はないだろう。

 両親がいるなら説明して断ればいいのだし。

 

「じゃあ、お茶をご用意いたします。失礼します」


 力也がお辞儀をし、部屋を出ていった。

 桜茉莉は「二人きりだね」と頬が赤い。

 言う相手が違う……とはもうツッコまない。

 

〈とりあえず、座って〉

「うん」


 ふっかふかのソファに桜茉莉が座る。

 なんだか緊張しているようで、顔が固かった。


「あの、サラちゃん」

〈何?〉

「その、お願いがあって……あの、女の子の絵が描いてあるスケッチブック見せてくれるかな」


 私は目を見開く。

 桜茉莉はただただ懇願するように私を見ていた。

 まぁ、もう中身バレてるし……。

 私はベッドの枕の下に隠してあった一段とボロボロのスケッチブックを桜茉莉に渡した。

 桜茉莉はパラパラとそれを眺めて……。

 桜茉莉がスケッチブックを捲る音しか聞こえなくなる。

 するとそこで力也が紅茶を運んでくる。


「お嬢様、ふぁいとっ!」


 小声でウインクをして馬鹿執事は去っていく。

 なんだあいつ。

 すると桜茉莉がスケッチブックを閉じた。


「全部のページに同じ女の子が書き込まれてる。本当に好きなんだね」

〈まぁ、忘れないように〉

「その人は……」


 桜茉莉はそれ以上言わなかった。

 誤魔化す様に笑う。


「いや、やっぱりいい。スケッチブック、ありがとう」

〈私から質問、いいかな〉

「うん」

〈なんで私の事好きなの?〉


 これは本当に疑問だ。

 桜茉莉が嬢坂サラを好きになるはずがない。

 嬢坂サラは容姿はいいものの、能力至上主義者だから散々桜茉莉を罵ってしまうし……。

 それなのに何故、この桜茉莉は……。


「スケッチブック、いつも中央公園で描いてるでしょ? サラちゃん」


 見られていたのか。

 まぁ、そりゃそうか。スケッチブックの中身を見ているのなら、桜茉莉は中央公園で見た可能性が高い。

 何度か公園にスケッチブックを忘れたりした事があるからだ。


「たまたま公園に行った時に見かけたの。雷雨の制服だったから、どんな人なんだろうなって思ったら……凄い一生懸命絵を描いてて、すっごく気になっててさ。何度か公園に貴女を見る為に行ってた。だって、サラさん、スケッチブックに絵を描いてる時、凄い幸せそうな顔してるんだもん」

〈嘘。そんな顔してた?〉

「うん。私思ったの。あんな顔出来る人が悪い人なはずないって。それで、サラさんがスケッチブック忘れて公園を出ていくの見てしまって……それでつい……」


 見てしまった、と。


「知らない女の子がいっぱいいて……モヤモヤして……それで、なんでモヤモヤしてるんだろうって考えていったら、貴女が好きなんだって気付いた。理由は分からないけど、私は貴女にいつの間にか惹かれてたみたい」


 そんなに何度も好きだとか惹かれてるとか言われたら照れてしまう。

 桜茉莉は私の顔を見る事が出来なくなったのか、自分の膝に視線を集中させている。


「で、今こうして一緒にいると、やっぱりサラさんは優しいと思った」

〈えぇ〉

「だって、無能力者だと思ってる私に告白されたのに、ちゃんと向き合ってくれようとしてるでしょう。それが伝わってくる。どんどん好きになっちゃうよ」


 私はくすぐったさでスケッチブックを破り捨てたくなる。

 褒められ慣れてないから! 好かれ慣れてないからやめて!

 とりあえず、ありがとうとだけ書いて見せる。

 あのさ、これ本当に小鳥遊一ルート終わるのかな。

 何やってんだよ幼馴染枠の小鳥遊一っ! 

 ずっと桜茉莉を見てきたんだろ!? 片思いしてきたんだろ!?

 いやこれ、本当にやばいのでは。

 悪役令嬢ルートなんて乙女ゲームにあるわけ……いやあるかもしれないけど。

 でも、このキスサイにはない。

 私はやはり自分に好意を向けてくれているこの子を、小鳥遊一とくっつかせなければいけないのだ。

 そう自分に言い聞かせているというのに、桜茉莉はそんな私を嘲笑するかのように、私の向かいのソファから移動して、私の隣に座る。


「この方がいいな。もっと近くにいたいっていうのは、駄目かな」

「っ!」


 私の右手が桜茉莉を打とうと暴れる。

 悪役令嬢体質発動だ。

 しかし桜茉莉にそれを話すわけにもいかない。

 桜茉莉を見ると、とても傷ついた表情だ。

 う……離れてなんて言えない……。


──結局。


「ぶっ」


 力也が笑いを必死に抑えている声が後ろから聞こえてくる。

 私は後で力也を殴ろうと決意しながら、遠い目をしていた。

 私の両手首には手錠が嵌められていた。

 こうでもしないと桜茉莉の頬を打ってしまうからだ。

 だけど他に、縛るものはなかったのだろうか。

 桜茉莉は嬉しそうに私の隣でクッキーをはむはむと食べている。

──ま、嬉しそうなら、いっか。

 私はため息を吐いた。

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