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悪役令嬢だけど、主人公に謝っていいのかな。駄目でしょ!


 ひそひそと周りから声がする。

 それも当然。

 何故なら私は今、思いっきり敵地あうぇーな青空学園の前で仁王立ちをしているから。

 青空学園。私の通う雷雨学園とは相いれぬ信条が売りのこの学校はウチに負けないくらい広い学校だった。

 なんだかこう大きな学校ばかり見ていると、この世界の日本の土地、三分の一はこんなので占められてるんじゃないかって気がしてくる。

 私の付き添いとして力也が怪訝そうな顔で私の耳に口を寄せた。


「お嬢様、桜茉莉、なかなか出てきませんね」

「当たり前でしょ。あいつが住んでる女子寮はこの学校の中にあるんだから。外に出る必要ないもの」

「ほぅ。それは知りませんでした。お嬢様、何故それを知ってるんです?」

「べ、別に。それより力也、アンタが中に入って桜茉莉を呼び出してちょうだい」

「それは構いませんが……このままここにいていいのですかお嬢様」

「なにが」


 力也が何かを言おうとしたが、校内から現れた男の子達によって、その言葉は耳に入る事はなかった。

 その男の子達とは──。


「青空学園、生徒会……」


 そう。桜茉莉の攻略対象──もとい、桜茉莉のモンペ共だ。

 

「ここに何の用かな、嬢坂サラさん」


 芥川要あくたがわ かなめ。温厚な性格で生徒会長。


「雷雨の制服着て、よくここに堂々と立ってられるよね~」


 花島まい。男の娘(男の子だけど能力で女の子に変化している)な生徒会メンバー。


「言っておきますが、桜さんには会わせませんよ」


 篠原結城しのはら ゆうき。不愛想な眼鏡の副会長。


「何しに来やがった」


 小鳥遊一。主人公の幼馴染枠であり私が一目惚れする予定だった

 今こうして彼に会ってしまったので一目惚れとは言えなくなってしまったが……とりあえず私は近いうちに彼とのイベントを経て、彼に惚れてしまうようだ。

 まぁ、桜茉莉が私に告白してきた時点でおかしいのだから、細かい事は気にしない。

 この場にいるのはこれで全員。

 もう一人、未来空輝みくぞら ひかるという攻略キャラもいるが、彼は引きこもり設定なのでいないのだろう。

 私はズラリと並ぶメンバーに悪役っぽく笑ってみせた。


「あら嫌だ。通りすがりですわよ」

「十数分そこで仁王立ちしておいて通りすがりですか」

「いけません? あまりに素敵な外装でしたのでつい見惚れてしまいました」

「光栄だね」


 芥川要が笑ってない笑顔で皮肉を返してくる。

 そこで私はじわじわと自分が悪役令嬢なんだと実感してきた。

 最近は特に桜茉莉が私に告白なんてしてきたから──すっかり忘れかけていた。

 そうだ、私は悪役令嬢。

 あの子が泣いてたって、どうでもいいじゃない。


「……帰るわよ、力也」

「いいのですか?」

「えぇ。このままここにいたら、無能力者の匂いが移ってしまいそう!」


 我ながら、なかなか酷い事を言う。

 攻略対象達からの視線が痛い。

 嫌われるって、なかなか傷つくなぁ。

 力也が私に腕を差し出してくる。

 私はその腕に自分の腕を絡ませた。

 そして力也の能力によって自宅に帰ろうとした時──名前を呼ばれる。


「サラさん……っっ!!」

「────」


 私は振り向いた。

 桜茉莉は息を荒げ、私を見つめている。


「クラスメイトの子から、貴女が来てるって聞いて……!!」

「……桜茉莉さ、っ……あ!」


──しまった、口を開いてしまった!


「無能力者のお出ましね! 汚らわしい! それ以上近寄らないでくださる!?」

「なっ!」


 小鳥遊一が怖い顔で私に掴みかかってくる。

 しかしその前に力也が小鳥遊一の手を払った。


「お嬢様に近寄らないでくださいますか」

「なに!?」


 力也と小鳥遊一が睨み合っている中、私は口を抑えた。

 謝る事すらできない。

 やっぱりこんな所、来なきゃよかった……!

 しかしここで、力也が私の肩を叩いた。


「お嬢様」

「力也……」

「お嬢様は口下手なので、お嬢様なりのコミュニケーションがあるとおっしゃっておりましたね?」

「っ!」


 そう言って、力也が私にスケッチブックを渡してきた。

 私は──力也を見る。

 力也は口角を上げていた。

 絶対こいつ、昨日のやり取り覗いていただろ。

 でも、今だけは、感謝してあげる。

 フォローありがとう。スケッチブックの事すっかり忘れてた。

 彼は最高の私の執事だ。


〈茉莉さん、ごめんなさい。事情があって、それ以上私に近づかないでほしい〉


 出来るだけ大きく書いて、桜茉莉に見せた。

 少し戸惑いながら、彼女は頷く。


〈泣かせてごめんなさい〉

〈文字でしか、謝れなくてごめんなさい〉

「サラ、さん……」

〈スケッチブックに描いてた女の子は、実は私の初恋の人です〉

「っ!?」

〈でも、今はもう彼女には会えません。彼女に伝えたい事があっても、今は伝えられないから私は後悔しています〉

「…………」

〈だからどうしても貴女に謝りたかった。後悔したくないから〉


 どんどん字が雑になっていく。

 気持ちが手を追い抜きそうだった。

 もう頭がごっちゃになって──私は、今の気持ちを簡潔にまとめた。


〈付き合う事は出来ないけど〉

〈友達〉

〈になりましょう!〉

〈あまり近寄れないし、自由におしゃべりも出来ない私でいいのなら〉


 私なりに考えた結果だ。

 これが正解かはただのオタクな私には分からない。

 だけど、バグでもなんでも、私に好意を向けてくれている彼女を強く拒むつもりもなかった。

──むしろ友達なら、どうにかして小鳥遊一を好きになるように出来るかもしれない。

──まだ軌道修正は出来るはず。

 半ば自分に言い聞かせるようにそう心の中で呟いていると、桜茉莉が頬を赤く染める。


「……私、やっぱりサラさんを諦めませんから! いつか、友達から恋人になってみせます!」


──あれ?

──これ……き、軌道修正……出来るよね……?

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