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悪役令嬢だけど、主人公とお茶をしていいのかな。駄目でしょ!

 一目惚れイベントが起こるまで、桜茉莉には近寄らない。

 これが当面の私の目標になっていた。


──が。


「お嬢様、お友達が訪ねられてきております」

「お友達? 誰かしら……今日は特に用事はないはずだけれど……」


 せっかくの日曜日なので、家で優雅に読書をしていると──突然の来訪者。

 私は栞を本に挟み、顔を上げる。

 そこにいたのは──桜茉莉。


「はぁああああああああああああ!!?」

「えへへ、来ちゃいました」


 いや、何が「来ちゃいました☆」よ!

 だーかーらー言う相手が違うんだっつの!!

 私は力也の首を絞めながら、桜茉莉を睨みつけた。


「なんて侮辱! 無能力者ごときが私に近寄るなんて!! 無礼! 無礼!!」


 悪役令嬢の性質のせいで、私の口からは思ってもない言葉が垂れ流しだ。

 嬢坂サラは能力至上主義者なので、無能力者の桜茉莉に対する酷い暴言がどんどん私の口から出てくる。

 しかし桜茉莉はそんなのはどこ吹く風だ。

 にこにこ笑って、私を見ている。

 メンタル強すぎない?


「お、お父様は!? お母様は!? 私の両親が容赦しないわよ!! こんな無能力者を家に上げたと知られたらなんて言われるか──!!」

「あぁ、それならついさっきご両親はフランスへ夫婦水入らずの旅行に出かけられましたので、黙っていれば問題はないかと」

「はぁ!?」


 力也はニヤリと口角を上げると、桜茉莉をソファにエスコートする。


「どうぞこちらへ桜様。こちらはお嬢様が好んでいる紅茶でございます」

「わぁ、ありがとうございます!」

「いえいえ。お嬢様をこれからも末永くよろしくお願いします」

「ちょっと! 馬鹿執事!?」

「おっと。ではごゆっくり。お嬢様、嬢坂家の一人娘として、せっかく招いたご客人に失礼のないように」


 そう言い残し、最後に桜茉莉に軽く頭を下げてから馬鹿執事は部屋を出ていく。

 私は馬鹿執事への殺意を必死に体内に貯蓄しながら、冷静さを取り戻す為に紅茶を口に含んだ。

 私の口は今にも桜茉莉を罵倒しようとしているし、私の右手は桜茉莉をどう打ってやろうか疼いている。


「突然訪問してごめんなさい。返事を聞きに来たんです。告白の」

「ぶっ」


 紅茶を噴き出してしまった。

 こんな漫画的リアクションをすることになるとは……。

 私はどう返そうか迷った。

 嬉しかったというのは悪役令嬢的にNGである。

 しかし嬉しかったのは本当であって、本当に彼女が私を好きならばきちんと返事をするべきなのでは?

 いやいや、でも──。

 というか、そもそも口を開けば彼女には罵倒しか吐けない体質なのだ、私は。

 まともな返事など出来るはずがない。

 でも──返事ぐらいはしなくては。

 私はそこである事に気づいた。

 私のベッドの上にあるスケッチブックが目に入ったのだ。

 もしかしたら──口ではまともに話せないけれど、手記ならいけるのでは?

 思いついたらすぐ行動。

 私はスケッチブックと鉛筆を手に取り、ポカンとする桜茉莉に見せた。


〈事情があって、貴女とまともに話す事が出来ません。手記でかまいませんか?〉


 丁寧すぎたかな?

 いや、でもいいか。

 桜茉莉は首を傾げたが、とりあえずは頷いてくれた。


〈告白ありがとう。嬉しかったです〉


 するとぱぁっと顔の周りに花を咲かせる桜茉莉に慌てて落ち着いてとジェスチャーをする。


〈でも、私は貴女と付き合えません〉


 今度はガーンという効果音がつく程の落ち込みよう。

 なんか面白くなってきたな。

 

〈私達は女の子同士だし、貴女にはもっと結ばれるべき人がいます〉


 小鳥遊一とか。小鳥遊一とか。小鳥遊一とか。

 っていうか、これ私が言うべき事じゃないよね……。

 いやでも、ここまで言ってあげないと。

 すると桜茉莉が右手を上げる。

 授業で質問をする生徒を真似たようだ。

 私はのってあげて、桜茉莉にどうぞというジェスチャーをした。


「ごめんなさい。不思議に思ってしまって」

「?」

「──女の子同士だからって、どうして付き合えないの?」

「…………」


 なんとも答えづらい質問だ。

 私は女の子同士だからという事を言うべきではなかったと反省した。

 彼女は女の子が好きなのだろうか? そうだったら失礼な事を言ってしまった。

 でも、乙女ゲームの主人公だよ?

 バッチリ男の子と恋愛してたよね!?

 あ、どっちもいけるとか?


〈ごめんなさい。訂正します。女の子同士で恋愛するのは別に悪い事だとは思ってません〉

〈でも私は、男の子が好きなんです。だから、ごめんなさい〉


 私──というか、嬢坂サラが、だけれど。

 すると桜茉莉はしばらく目を泳がせた後──ポロリと涙を流した。

 あまりにも綺麗に泣くので、思わず見惚れてしまう。


「────、」

「っ!」


 って見惚れている場合じゃない!

 桜茉莉を泣かせてしまったのだ。

 自分に好意を向けてくれている人を傷つけてしまった。

 私はどうしていいのか分からず、戸惑う。

 悪役令嬢の役割はあるけれど、本当の私は山田奈々なのだ。

 自分自身ショックを受けた。


〈ご、ごめん! 泣かないで〉

「……っう、っひぅ。じゃ、じゃあ、あの人はなんなんですか……?」

〈あの人って?〉

「スケッチブックに描いてる女の子ですよ……っ!」

「────っ」


 私は唖然とした。

 まさか見られていると思わなかったのだ。

 私のスケッチブックの中身を。

 桜茉莉は勢いよく立ち上がり、私に頭を下げた。


「困らせて、ごめんね」

「────」


 その時の、桜茉莉はやっぱり誰かに似ていて──。

 あぁ、と思った。

 気付いたのだ。

 この桜茉莉は私の──初恋の女の子に、似ているんだって。

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