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悪役令嬢だけど、主人公の事ばかり考えていいのかな。駄目でしょ!

「お帰りなさいませ、お嬢様。随分お早いお帰りですね」

「え、えぇ。ただいま」


 私が現代世界にアンバランスな豪邸に帰ると、私専属の執事である風間力也かざま りきやが私を出迎えた。

 

「生憎、夕食の用意は──」

「いえ、夕食はいりません」

「え? あ、あのサラ様が!? 何かあったので!?」

「な、何もないわよ! 人を食いしん坊みたいに言わない事! 次言ったらクビよクビ!」

「ですが、何かあったのですか? 体調が悪いとか?」

「本当に何もありません。私の部屋に入ってこないで」


 私は口うるさい執事を強引に押しのけ、自室の鍵を閉めた。

 あの馬鹿執事は勝手に部屋に入ってくる時があるからだ。


「……ふぅ」


 疲れて、ベッドでそのまま寝転んだ。

 ゴロゴロ身体を転がして、宇宙をイメージした天井を見上げる。

 瞼を閉じれば、思い浮かぶのは──。


『私は、貴女しか、見えないよ。見てないよ』


「────、それ、攻略キャラの台詞じゃん……」


 頬が熱くなる。

 心臓が昂る。

 まさか私、ときめいてしまってる?

 いや、違う、そんなはずはない。

 私は、ただ……生前も、今も、告白された事なんてなかったから……。

 悪役令嬢なんて、好意を向けられる対象なんかじゃなかったから……。

 だから、突然告白されて、動揺しているだけだ。

 そうに違いない。

 でも、なんでだろう。

 桜茉莉はゲームでもお馴染みの容姿なのに……あんな表情は見たことがない。


『好きですッ! 貴女の事、大好きですっ!』


 あんなに、真っ直ぐに好きって言われたら、誰だって落ちてしまう。

 それにしてもあの子、なんだか、どこかで──。

 そこで私は桜茉莉の事しか考えられなくなっている事に気づいた。


「い、いやいや、私は嬢坂サラ、私は嬢坂サラ……!! 悪役令嬢で、好きになるのは小鳥遊一!!」


 じゃないと、来世のオタ活人生が!! 新たなる推しカプに会えない!

──でも。


「……桜、茉莉か」


 バグだろうか。

 もしかして主人公も私と同じ転生した人間とか。

 ……いや、そう判断するのはまだだ。

 とりあえず、私が今すべき事は──。


「いいんじゃないですか。桜茉莉」

「はっ?」


 突然降ってきた声に私は間抜けな声を上げる。

 見れば馬鹿執事が私のソファに優雅に腰かけているではないか。


「な、何、してんの? 馬鹿なの? 鍵締めてたよね?」

「お嬢様は僕の能力をお忘れになったのでしょうか」

「いや、お前が能力を使って私の部屋に入るほど馬鹿じゃないって思ってただけなんだけど」


 思わず素の口調で話してしまう。

 しかしこの風間力也は小さい頃からずっと一緒にいるため、そんな素の私にも驚かない。

 というか、こいつ、なんで桜茉莉の事を?

──まさか。

 私はあり得ないと顔を青ざめる。


「ねぇ、もしかしてだけど」

「合ってますよ、お嬢様」

「まだ言ってないんだけど……」

「僕がお嬢様を一人で下校させるわけないでしょう。今まで毎日尾行しております。これからもね」

「うっわ……」


 悪役令嬢にはプライバシーもないのか。

 いや、この執事が変態なだけなのか。

 この執事の能力は《瞬間移動》という、捻りもなにもないものだ。

 先ほどは能力を使って私の部屋に移動してきたようだ。

 尾行にもおそらくその能力を駆使して私に気づかれないようにしたのだろう。

 私はそんな馬鹿執事に嫌悪の視線を送ると、馬鹿執事は何故か頬を赤らめた。


「話を戻しましょう。いいじゃないですか、桜茉莉。情報によると嘘がつけず裏表のないいい子だとか」

「……そんなの、知ってるわよ」


 だって彼女はプレイしていた乙女ゲームの主人公だから。

 私が一番知ってるに決まってる。

 そんな私に力也は目を見開いた。


「知っていた? そ、そそそそれはつまり、お嬢様は前から桜茉莉の事を!?」

「何勘違いしてるの。なんでそんなに嬉しそうなの? ただの風の噂よ馬鹿」

「そ、そうでしたか。ちっ。それでお嬢様。どうするつもりで?」

「え?」

「──桜茉莉の告白ですよ。お受けするのですか?」

「…………」


 私は何も言えなかった。

 勿論断るのは決まっている。

 しかし、どう断れば──。

 断る時、あんな真っ直ぐな瞳を見てしまったら、固まって何も言えなくなってしまうに決まってる。

 だから主人公の恋愛対象をどうやってあの小鳥遊一に戻すか、だ。

 嬢坂サラは小鳥遊一ルートにしか登場しないキャラだから、この世界はキスサイの小鳥遊一ルートのはず。

 時期的に嬢坂サラが小鳥遊一に一目惚れするイベントが近々あるはずだが──。 

 それを使って私が小鳥遊一に猛アタックし、桜茉莉に「あれ? 何このもやもや……もしかして私、一の事好きなの!?」というお決まりの地の文を吐かせるしかない!

 

「よし、待ってなさいよ小鳥遊一っ!」

「なんで小鳥遊一なんですか。桜茉莉でいいじゃないっすかー」

「いや、なんでアンタはいちいち桜茉莉を推してくるのよ……」

「俺、桜茉莉×嬢坂サラ推しなんですよ……尊い」

「は? なんか言った?」

「いや、なんでも」


 ごにょごにょと何か呟く馬鹿執事に眉を顰めつつ、私は拳を握った。


 とりあえず、小鳥遊一とのイベントまでは桜茉莉には会わないようにしよう!

 本来ないエンドを迎えた場合、私は転生出来ないかもしれないのだから。

 ま、私が桜茉莉に落ちるなんて事、あるはずないんだけどねっ!

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