ぷろろーぐ~主人公の語り~
私の話をしよう。
私は山田奈々。ただの就活が迫った大学生だった。
いや、「ただの」という言葉は私に合わないかもしれない。
訂正しよう、私は「腐った」大学生だった。
腐った、というのは勿論腐女子的な意味だ。
小学生の時に姉の部屋でたまたま見つけたBL本を読んでしまってから、私の人生は大きく変わった。
気付いた人もいるかもしれないが、上記の話は過去形だ。つまり過去の話。
某小説サイトで「悪役令嬢もの」というジャンルがあるが、今の私はそれだ。
薄い本の新刊の締め切りが本当にギリギリで、三徹した。
そして寝る前にと熱々のお風呂に浸かった後から記憶がない。
次の瞬間には、私はこの世界で産声を上げていた。
──そう、私は恐らくお風呂の中で眠ってしまい、死んだ。
──そしてこの世界に悪役令嬢【嬢坂サラ】として生まれ変わったのだ。
死後の世界なんてお花畑だとか、三途の川だとか、色んな説を見かけたけれど──。
今でも現世で死後の世界を考察している研究者の皆さん、答えは「乙女ゲームの悪役令嬢」です。
なんてくだらない事を話している時じゃない。
とにかく私は嬢坂サラとしてこの世界に産まれた。
悪役令嬢というからには、それなりに裕福な暮らしをしてきた。
とはいっても、キスサイ(生前プレイしていた乙女ゲーム「KissしてPsychic!!」の略称)の世界観は「超能力社会の現代」だから、どこかの異世界にトリップしたような価値観の違いは特にない。
ちょっと家が金持ちなだけで、私に能力があって、入学した雷雨学園が能力至上主義者で「無能力者は能力者の玩具」っていうクズな思考を持つ奴らの集まりなだけだ。
あと、主人公である桜茉莉と話す時は勝手に身体が動く。
そしてここが重要なのだけど、この世界に産まれたすぐ後に「神様」を名乗る声が聞こえたのだ。
その「神様」が言うには、この世界はいわゆる次の転生の試練だという。
つまり、私は本当の事を言うと、「悪役令嬢に生まれ変わった」のではなく「生まれ変わる為に悪役令嬢になった」というのが正しいのかも。
このゲームを無事に終わらせることが出来たら、現世にまた新しい人間として生まれ変わる事が出来るとあの声は言っていた。
突然死んだので私にも勿論未練はある。
特に新刊。せっかく三徹して頑張ったのに出せないなんて辛すぎる。
早く生まれ変わってオタク活動をしたい。
ここで一応私の役割【嬢坂サラ】についても言及しておく。
この世界はそれぞれの人間が超能力を持っているのだけれど、持ってない人もいる。
現代という事もあって、流石に「能力関係なく人間平等」の考えが定着してきたものの、
「無能力者は存在する価値なし」という考えを持つ人も一定数いる。
その一定数が集まる高校が雷雨学園。
嬢坂サラはその雷雨学園の生徒会メンバーだ。
ちなみに主人公は青空学園という「能力関係なく入学を受け入れる」という考えの学校の生徒会メンバー。
ややこしくなったが、とりあえずは青空学園と雷雨学園は仲が悪くて私と主人公はそれぞれの学校に所属しているということ。
そして私、嬢坂サラは主人公が攻略するべきキャラの一人の「小鳥遊一」という主人公の幼馴染キャラに一目惚れする設定である。
つまり私はその一というキャラを好きにならないといけないし(最悪演技でも)、主人公が一に告白する邪魔をしなければいけない……。
私は「神様」の声を聞いた時、自分のそんな役割をしっかり思い出し、覚悟を決めたのだ。
──決めたはずだったのに。
──知っての通り、私は何故か主人公に告白されてしまった。
──私、一体どうすればいいの?