ぷろろーぐ
「嬢坂サラさんっ!」
苺みたいなほっぺも。
宝石が溢れる原泉みたいなその瞳も。
小鳥みたいなその声も。
──全部、全部、理想の女の子って感じ。
そんな彼女が。
本来、見るべき男の子達ではなく。
私を真っ直ぐに見つめて。
こう言った。
「好きですッ! 貴女の事、大好きですっ!」
私は、頭が真っ白になってしまって、何も言えなくて。
その強く私を見つめる光に手を伸ばしてしまいそうになったけれど。
口は私の意思とは関係なく、動いてしまう。
「何を言ってるのかしら? 私で一君に告白する予行演習? とんだ皮肉屋さんね、貴女!」
──と、主人公の頬を打ってしまった。
言っておくけれど、この言動は本当に私の意思ではない。
私が、乙女ゲームでいう恋敵という役割を与えられたから、主人公に対してはこういう言動しか出来ないのだ。
打たれた主人公はキョトンと私を見ている。
いや、キョトンとしたいのは私の方なのだけれど。
「一は、ただの幼馴染だよ」
「え?」
「私は、貴女しか、見えないよ。見てないよ」
その言葉に、私は心臓が一気に飛び跳ねた。
──どういうこと?
──この子、もしかして、バグを起こしているの?
私がそう思ったのも、まぁ色々と事情があるわけでありまして。
それを話す前に、とりあえずこの子をどうにかしなければ。
そう私が考えている間にも、主人公はどんどん私に近寄ってきて、あまつさえ、私の両手を彼女の両手で包む。
「──何度も言うよ。大っ好き」
はにかみながら、そう私に告白してくる主人公にもはや恐怖を覚える。
そして私は──逃げた。
逃げるが勝ちという名言を残した先人に、拍手を送ろう。
私は悪役令嬢。
私が、この世界でそんな役割を与えられた以上──。
──彼女と結ばれることは、絶対にないのだ。