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椿の呪い  作者: 如月檸檬
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リンドウ、ツバキ、ツツジ。

次の日もその次の日も、体験入部期間が終わるまで私は毎日書道部に通い続けた。少し寂れた書道部の部室には、いつも椿さんと、もう一人二年生の背の高い先輩、ふたりだけしかいなかった。凛堂さん、というその先輩は椿さんと仲がいいらしく、クラスも同じだそうだ。明るく活発で、聡明なショートカットの綺麗な人だ。凛堂さんも椿さんと同じように私によくしてくれた。

「つーちゃん、もう書道部に入るの?」

私を可愛らしいあだなで呼んで、凛堂さんは首を傾げる。短い髪がさらりと動いた。

「はい。他に見たいところもないし、この五日間すごく楽しかったので。」

「ほんと!?やったね椿!今度3人で歓迎パーティしよっか、お菓子とか持ち寄ってさ!」

私の返事に飛び跳ねて喜び、凛堂さんは椿さんをぎゅうっと抱き締めた。私より背の小さい小柄な椿さんは、凛堂さんに抱き締められると潰れてしまいそうだ。

「ありがとうね、つつじ。お菓子パーティいつがいいかな?あ、その前に入部届け書いてもらわなきゃ。凛ちゃん、先生からもらった書類、持ってる?」

椿さんは、凛堂さんを凛ちゃん、と呼ぶ。凛堂さんは下の名前を呼ばれるのがあまり好きではないのだと、いつかぽろりと零していた。凛堂さんは唸りながら鞄からファイルを取り出し、紙を指先でぺらぺら捲っていく。

「あ、あった。これこれ。」

細長い指先が紙を一枚引っ張り出して、私に差し出した。どうやら部員名簿の申請書らしい。

「ここに学年とクラス、名前も書いてね。3人いればセーフだから、これで書道部も無事存続だね!」

にこ、と嬉しそうに笑って、凛堂さんは私にシャープペンシルを貸してくれた。シンプルなデザインの、書き心地のいいシャープペンだ。

「よろしくお願いします。」

名前を書き終えた書類を凛堂さんに返し、シャープペンもペン先をこちらに向けて手渡した。凛堂さんは書類を確認してから、また私に明るく笑いかけてくれた。

「うん、よろしくね!」

「よろしく。」

その後生徒会に書類を提出しに行った先輩ふたりと別れ、一人で家路についた。まだ1週間しか経っていないのに、もうあやめと話すことが減ってしまった。もう、部活は決まったんだろうか。

「あ、つつじ!」

ちょうど思い出していた彼女の声が、後ろから勢いよく鼓膜を揺らした。振り向くと、知らない女の子たちと一緒にいたらしいあやめが、人懐っこい笑顔で私に手を振りながら駆け寄ってくる。

「あやめ、」

久しぶりだね、なんてあまりにも気が早いように感じて言葉に詰まった。駆けてきたあやめは楽しそうに笑ったまま、私の言いかけた言葉をなんの違和感もなく掛けてきた。

「なんか久しぶりだね!つつじ、もしかして部活決めたの?」

「…うん、書道部に入ったんだ。あやめは?」

「書道部!いいね、平和そう。私はサッカー部!かっこいい人いっぱいいるし、マネの先輩も優しくて楽しそうだったんだ〜。ちょうど先輩たちと帰ってたんだ!」

あやめは後ろを振り向いて軽く手を振ったりお辞儀をしたりしていた。私もつられて後ろを見、軽く会釈をしておいた。確かにサッカー部、って感じだ。みんな活発そうで、運動部らしい肌をしている。

「私と帰ってていいの?別に先輩と帰っても良かったのに。」

なんの悪気もなく、疑問だけを含めて彼女にそう尋ねてみた。あやめは一瞬きょとんとした顔をしてから、そんなこと、とでも言うふうにからりと笑顔をつくる。

「だって、つつじ今何してるかなーって、ちょうど考えてたから。これから部活も大変になるし、今を逃したらますます会えなくなっちゃいそうだなって。」

どうやらあやめも私も同じことを考えていたらしい。改めて言葉にされると、ここ1週間感じなかった安心感を感じる。あやめには遠慮も無駄な警戒心も必要ない、それはあやめにとっての私も同じ…だと思っている。

「そうだよね。なんかそう考えると、ちょっと寂しくなるなぁ。」

「やめてよ、部活ない日とか…ほら、テスト期間とかはさ、一緒に帰ろ?」

うん、そうしようか。そう言葉を返してふと視線を上げた。夕焼けが雲までオレンジ色に染めている。遠く地平線はかすかに紫色にそまっている。きっと中学の頃から空に大きな変化なんて無いはずなのに、こうして新しい環境で見上げてみるとなんだか昔とは何もかも変わってしまったように思えるのはどうしてなんだろう。

隣にいるあやめを見て、それでも変わらない平穏さに静かに頬をゆるめた。


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