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椿の呪い  作者: 如月檸檬
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カエデとツツジ。

白い息が視界の端にうつる。絶対に受かってる、そんな確固たる自身とは裏腹に胸はひとりでどきどきとうるさい。自分の番号を脳でしっかりと確認した途端、心の底からホッとした。一緒に受けた先の友人も受かっていたらしく、相変わらず無垢で丸っこい瞳を私に向けて、たいそう嬉しそうに笑って飛び跳ねていた。

それから友人と友人の母親と3人で最寄り駅近くのスペイン料理店に入り、お腹を満たしてからまた高校へ戻り入学に関して説明を受けた。

制服や教材を買い、重い荷物を何度も持ち直しながら家に帰った。「受かってたよ。」と母に一通メールを打ち、スマホを閉じた。さっさと服を脱ぎ捨てて入浴を済ませ、自室に引きこもって目を閉じる。ああ、これからどうなってしまうんだろう。漫画や小説みたいに、すぐにでも学校生活が始まればいいのに。

気付いたら夢の世界を泳いでいた。しかしあまりに早い時間に寝てしまったせいで、真夜中、ドアのガチャリと開く音で目を覚ましてしまった。気まぐれにベッドから足を出し、部屋を出て帰ってきたばかりの母に声をかけた。

「おかえり。」

しかし、返事はやはりなかった。沈黙の中彼女がスマホの画面を弄り続けるのを少しの間見つめ、寝直そうと水道水を飲んで部屋に戻った。

それから数日、課された春休みの宿題をしたり引退した部活に顔を出したり、友人と遊びに行ったりしていたずらに時間を浪費した。気分はずっと良かった。寂しさなんて案の定感じなかった、むしろ開放感とこれからへの期待に胸をふくらませていた。

そうして登校初日、新品の制服に腕を通して髪もいつもより気合を入れて整え、これまでよりずっと早い時間に家を出た。バス停はいつも通り家のすぐ目の前。やっぱり知らない間に冬が帰ってしまったらしい、気付けば桜のつぼみが花開き、冬より柔らかな日差しが空気を暖めている。慣れない電車に揺られている間も、イヤホンで自分の世界に心地好く溺れていた。

周りにいる自分と同じ制服の知らない人達になんとなく緊張しながら、高鳴る胸を確かに感じ正門をくぐる。今日から、私はこの楓翔高校の生徒だ。満開の桜が風に揺れてほんのり甘い香りがした。今までの淀んだ空気など、ここには存在しなかった。ホームルームで自己紹介を済ませ、あれよあれよと言う間に帰宅の時間になった。終わったと思うと途端に気疲れがドッと全身を覆う。リュックを背負って教室を出ると、こちらも少し疲れの見えるあやめが笑って手を振ってきた。

「一緒に帰ろ。」

「うん。」

帰り道、二人でそれぞれのクラスについて話をしていた。まだまだわからないことばかりだけれど、それでも期待はまだふくらむ一方だ。

「ねえ、つつじのクラスはかっこいい人いた?」

「え?……ううん、別にいなかったよ。」

あやめは中学の頃からそれらしい恋愛に憧れていた。高校に入学して、少女漫画のような恋をすることを夢見ていたのだ。それできっと少し敏感になっているのだろう、いつ彼女の理想の恋が始まるかわからないのだから。

「そう簡単にはいないよね。」

笑いながら眉を八の字にしたあやめは、私が男だったら好きになりそうな、活発で明るく性格もよくて可愛らしい女の子だ。きっと高校では素敵な恋が出来るんじゃないだろうか、と勝手に思っている。

「そういえばつつじ、部活何するの?吹奏楽?」

「あぁ……どうしようかな。まだ決めかねてるけど、吹奏楽はやらないと思う。…大変だしさ。」

そっか、とあやめは曖昧に笑う。

「まぁ、そうだよね。私はね、マネージャーとかしたいなって。なんか青春!って感じするでしょ?えへへ。」

「マネージャーかぁ。ちなみに何部の?」

私が軽くそう尋ねると、あやめはうーんと腕を組んで唸ってから、少ししてふわっと口元を緩めて笑った。

「まだわかんないや。体験入部とかして、決めようかな。」

「うん、いいと思うよ。私も体験入部で色々見てみるつもり。」

最寄り駅で降りて、二人でバスに乗って帰る。部活もクラスもバラバラになってしまったら、こうして二人で帰ることも減ってしまうんだろうか。お互いの隣にいるのは、全然知らない人になるんだろうな。

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