とりあえず彼女の事は放置で
男は喫茶店から出ると電話をしているようだが、当然内容はわからない。
「失敗したな」
田中は呟く。
「え?何を?これからどうするの?」
軽く慌てる俺に対して
「黒髪ロングに声を掛ける時、俺一人で行くべきだった。あの男からしたら俺らが声を掛けた時に顔をを見られてしまってる」
「今更だし、どうするんだよ」
最初からこんな調子とか、先が思いやられそうだ。
「とりあえず、雨だし傘があるからどうにかなるとは思う。俺はあいつが動き出したら後を付けるから、とりあえずコンビニで新しい傘を買ってきてくれないか?どこまで覚えられてるかわからないけど、同じ傘だとまずいと思う」
「もし、追跡中で黒髪ロングが一人だけいたら、俺はそっちを追跡する?」
田中は少し考えて
「いや彼女は放置で。この男を追跡したほうが安全だと思う。まさか自分が付けられてるとは思ってないはずだから」
確かに、もし犯罪的な何かがあるなら、彼女は別に見張られてる可能性がある。
それが警察か、この男の仲間かはわからないけれども。
「この男が警察の可能性は?」
俺はふと思って聞いてみる。
「警察なら、動きがないのに自分からは動かないと思うし、基本的に犯罪捜査を一人行動ではしない」
そうこうしているうちに、男は歩き始めた。
「とりあえず、このビニール傘だと顔が透けるから、お前の傘と交換で。買えたら連絡してくれ」
そう言いながら、田中は飛び出して行った。
コンビニで新しい傘を手に入れた俺は田中に電話をする。
「今、商店街の中。ゆっくり歩いてるから、すぐに追い付くと思う」
田中と合流した俺は前を歩く男を伺うが、特に後ろを警戒しているようにも見えなかった。
「これだけ人が多いと追跡も楽だな」
俺の言葉に田中も頷く。
男はどうやら駅に向かってるらしい。
「帽子ぐらい被っとくか」
田中は商店街の中にある帽子屋を指差す。
「このまま追跡してるから、帽子買ってきてくれないか?」
俺は黙って頷き、手を差し出す。
「お前に付き合ってるんだから、帽子代出せよ。後、傘代も」