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雪は降り続きました。
風をともなう激しい雪は人々の家を鞭うち、森を雪と氷で固め河を凍らせました。
冬らしい冬だと皆は口にしましたが、いつまでもやむ気配のない雪と続く寒さに霜のはりついた窓から不安げに外をみるようになっていました。
秋までに用意した薪も食べ物も、すでに底がつきそうです。このままではお年寄りや幼い子どもたちはひとたまりもありません。
いつもなら日差しに暖かさを感じるころなのです。けれど春の王女も厚い雪に阻まれて、居城から出ることに手間取っているようです。四季の塔を目指して出立したとの知らせが、人々の耳にはなかなか届かないのでした。
王さまは使いの者を塔へと差し向けましたが、塔の扉は固く閉ざされ来訪者を拒みました。
そうこうしているうちにも、春になるべき日が目前に迫ってきました。
終わりの見えない冬に頭を抱えた王さまは国中におふれを出しました。
誰でもよい、冬の王女を四季の塔から連れ出せた者には褒美を授ける、と。
我こそはと名乗り出た幾人もが、王女を連れだそうと試みました。けれど、ほとんどが塔まで行きつけないか、たどり着けたとしても、凍り付いた扉はびくともせず、凍えて動けなくなるまえにほうほうのていで逃げ帰ってくるのが関の山でした。
そんなことが繰り返されるなか、城へひとりの者がやってきました。
それはローブを引きずる腰のまがった者でした。フードを目深にかぶり、よろける体を若者に支えられた老婆のように見えました。
王さまは、てっきり久しく見かけることのなかった魔女かと思い衛兵たちを呼びました。衛兵たちに取り囲まれた老婆は声を発しました。
「どうかわたくしを王女さまのもとへとお遣わしください」
声の若さに王は驚きました。よく見ると、フードからつややかな金の髪がこぼれています。
「そなたには、できると?」
フードが、がくりと動きました。うなずいたものなのか、体がかしいだのか王さまには分かりかねました。けれど、続けて語る言葉を注意深く聞きました。
「このような見苦しい姿でもお許しいただけるのならば、どうか王女さまに会わせてくださいませ」
ローブの下から差し出された指は黒くなっていました。重い凍傷にかかった指です。隣で支える青年が悲し気に肩を抱きよせました。
おそらくは指ばかりではなく、足も凍傷で不自由なのだろうと王さまは察しました。不自由な体をおしてまで、王女に会いたいという熱意に王さまは一縷の望みを託すことにしました。
「わかった。みごと首尾よく果たしたときには、そなたの望むものをなんでも与えよう」
ローブの頭は左右に揺れました。
「何も、なにもございません。ただ、王女さまにお会いできるのならば」
「ならば、我もともに参ろう。つい先ほど、春の王女がこちらへ向かっていると知らせが入ったばかりだ」
王さまは皆に出かける準備をするよう言い渡しました。