Chapter 1-3 Day After Day
――――クラブ・フィーバー――――
黒いアウディが建物の路肩に寄せて静かに停車した。
アレクセイはそのまま運転手と話すことも無く車を降りて見上げると目の前には派手な建物が大きな”クラブ・フィーバー”のネオンを下げている、車が駐車したのは店の真正面だったがそう長居するつもりもなく文句を言う人間もいない。
店の要所要所には赤やオレンジの蛍光灯が点滅し毒々しい存在感を放っているきらびやかなものであった。
彼が歩いていくと店の入り口で灰色のスーツを着た大男が腕を組み彼にに訝しんだ視線を送りながら扉の前で立ち塞がる、だが彼が近づいていき顔がハッキリわかるとクラブへの道を開けて視線を外し完全に無関心となり男にとって既に彼は認知する必要の無いただの透明人間となっていた。彼の存在は事前に集金係としてクラブ側に伝えられている。
扉をくぐり紫の照明が微かに効いた薄暗い通路を抜けていくと大きな洞窟のような光の少ない空間――クラブのメインスペース――が広がっている所々サイケデリックな印象を与える紫やピンクのライトが照らしているが全体的に色調は暗い。中央には楽屋まで繋がったステージ、通路を出てすぐ右にはバーのカウンターがあり数々のカラフルなボトルとグラスが置かれている。
やつれた顔のした中年や視線をキョロキョロさせている青年たちがカウンター前で椅子に腰掛けグラスを傾けている。クラブ内は大音量でテクノミュージックが流れ中央ステージ上で下半身の下着だけで女性たちが不自然に大きな乳房を揺らしながら臀部を振っている。
それを男たちはニヤついた顔でビールを飲みながら眺め、中にはさらに気分を高揚させ紙幣をストリッパーが着ている下着に次々と捻じ込んだり舞台に投げ込んでいる者もいた。アレクセイは少し顔を赤らめながらクラブの風景を横目に通路を出て直ぐ左の壁沿いを歩いてく。
突き当たりの赤いカーテンをくぐると今度は壁沿いに多くの個室が設置されたエリア、客が気に入った娘を見つけると給料の多くをはたいて個別接待用のこのスペースで楽しむ。そして彼らのボーナスも引き出されるのだ。
――うう、すごい落ち着かない――
幾つかの個室はカーテンが閉められ客に使用されているらしく声がかすかに漏れている。彼は少し速足に通りを進んでいった、そして独特のむせ返る纏わりつくような空気が漂う中を抜けstaff onlyと書かれた扉をくぐると壁にいくつものポスターやその張った跡、それに機材や資材段ボールが散在した廊下に出た。廊下にはいくつか扉がありその中には楽屋と書かれているものもある。
だがそれらを無視して歩いてくと突き当りの扉の隣にまたもや男が立っている、店の前にいた男と同じようなマッチョな警備員、筋骨隆々の上半身でシャツがぴっちりと張り付いて筋肉の形が分かるほどだ。
だが先ほどと同じく男は事情を察して脇にどき扉を開いて彼を奥へと促した。