Chapter 1-2 Day After Day
一人の女性がデスクを背に窓から景色を眺めている。
光を反射しキラキラとした銀髪は腰に届くほど長くスラリと伸びた背丈は180cm程でハッキリと分かるほどの美しいくびれは彼女に幻想的なシルエットを形作っている、そんな肉体を彼女はビジネスウーマンのような灰色のスーツで覆っていた。彼女の名はヘレナ・モグリッジ、クラスニー・クルーグの幹部であり支部長のようなものだ。俺はノックもせずにドアを押し開けていたが扉の前で金髪の男に直面していた。はだけた白いシャツそして首から覗く金のネックレスにその上から黒いスーツを羽織っている姿、普通の人間から見ればいかにも関わるとロクなことがなさそうな野蛮な風貌の男だ。
ふと一瞬目が合うと男の眼には怒りが浮かんでいるようだったがしかめ面のまま足早に通り過ぎて出ていった。
そのまま俺は部屋のデスクへと歩いていく。部屋の中には大きなデスクと黒い革のソファがテーブルを挟んで二つ置かれて壁には大きな絵画が飾られ磨き上げられた床は部屋自体に崇高な雰囲気すら醸し出させていた。
俺はヨセフ・ポドロフスキー。ヘレナの右腕であり多くの業務を管理しているいわばこの組織の副官だ。気配を隠そうともせず歩み寄って俺がデスクの前に立っても彼女は振り返ることもない俺は後頭部を掻きながらとりあえず声を掛ける。
「それで、ヘレナどういうことだ?」
そこでやっとヘレナは振り返り見返してきた彼女はいつも通りの妖艶な底知れぬ恐怖すら感じられる薄っすらとした笑顔を浮かべていた。
「あいつにも説明してなかっただろ。全く、ぜひ俺に分かるよう言ってくれよな。あのガキ、何だ」
「今までの者と一緒。ここで新しく雇うことになった能力のある人間。ただそれだけ、いつもどおりよ。それに今日の仕事の出来であなたにも判断できるでしょう? 」
――全く聞いたことも無いあんな奴を急に雇うと言い出して説明がこれだけかよ――
それでも納得いかないが俺は諦めた様子で両手を上げ降参の意志を示す。
「分かった、あいつの素性なんかどうでもいいさ。使えるんだな?」
「私の見る目が当てにならないと言いたいの? 少し傷つくわ」
あからさまに悲しそうな表情と残念そうな声色で返してくる。全くいつもこの調子だふざけたフリして絶対に自分の意見を通そうとしやがる。
「まあ実際は見込みがある、という感じなのだけれど」
「クソ、分かった。使えるなら使う、じゃなきゃアルバニア人の連中に売り払ってやる。生きていればな」
そう言う俺はヘレナと同じく外の景色へ視線を移した。
――全くよくわからん面倒事が始まっちまったのか――――。