Chapter 5-2 Shots Fired
とある裏路地、空き缶や紙屑が散乱してすえた匂いが漂い、所々では息を潜めるホームレスや孤児がひっそりと座り込んでいる。路地を挟む建物は3,4階程の高さがあり、すでに沈みつつある太陽の光は路地を照らしてはいない。
表通りはレンガで地面を舗装されているが、路地は灰色のコンクリートでただ塗り固めれているだけ。汚れやタバコなどといったゴミがこべりついてはシミやくすみ、ヒビがそのまま残されている。
そんな地面に自由落下していた拳銃のマガジンが叩き付けられた、既に弾は空になって軽いのか一度だけ地面から跳ねて転がった。
その空マガジンを踏み越えて路地を駆けていく黒いパンツに黒いジャケットをなびかせたアレクセイの姿がそこにあった。
荒い呼吸を繰り返して獣の様に食いしばり、息を吸う時に口を開けば肉食獣のように錯覚する白い八重歯が垣間見える。
路地を駆け抜けながらVP9の空マガジンを手首の動きだけで抜き捨て、素早く腰から抜いた新しいマガジンを差し込んで再装填した。
背後を振り返ると視線の先、曲がり角やどこからか響いてくるイストレフィの兵士たちが吠える罵倒の声。アレクセイはすぐに前へと向き直って走り続ける。何度も何度も曲がり角を曲がって巻こうとする。だがどう進んでも背後や横、前方から彼らの声や気配、妙な動きが感じられる。確実に包囲網が作られ、それは着実に狭めていき彼を捉えようとしていた。
道は塞がれ、生きるための選択肢も狭まれ。向かうべき道も、やるべきことも絞られていく。そして残るのはひたすらに純粋な生存という目的、後ろ髪を引くものは何一つとしてない。立ち塞がり、駆ける脚を掴む者は撃ち、立ち塞がる一切を確実に殺し尽くす。それは誰かを殺すか、自分を生かすか、ただの一点を遂行するしかできない不器用なアレクセイにとってある意味最適化された、複雑さの廃絶された都合がよい状況とも言えた。
彼は最早息を切らしかけて転ぶことすら心配になる足取りで走り続ける、勢いよく曲がり角でカーブすれば壁に肩をぶつけ、VP9を構えていてもどかぬ者には警告する余裕も無く押し退かす。
やがて追跡者たちであろう声は前方を除いた三方から聞こえ続ける、もはや選択の余地は無いまま前へ前へと彼は疾走する。
ギリギリと歯軋りして厳しい目つきのアレクセイはVP9をホルスターに押し込み、左手でMPXのハンドガードを持ち上げる。マガジンを抜かれたままボルトは弾切れでストップしている。腰からプラスチック製の装填された中の9mm弾が見える新しいマガジンを引き抜き、MPXに差し込んで銃側面のボルトリリースボタンを叩いた。
「バシンッ」という勢いの良い音が排莢口から響き、前進したボルトが初弾をマガジンから薬室に送り込んだ。
右手でギチリとグリップを握りしめて引き金の側面を人差しが撫でる。左手はハンドガードの下から伸びるフォアグリップを根元からハンドガードを人差し指と親指で抑えつつ掴む。MPXをやや傾けて排莢口のボルトとセレクターがフルオートとなっているのを確認。
ドットサイト越しの厳しく無駄な動きの無い視線と銃口が前方に向けられる。一連の動作をする中でもアレクセイは走り続けている、だが段々と進む先から喧騒が聞こえ始める。
それは笛や太鼓といった楽器、また多くの人々が喋ったり大声でがなる声が織りなす騒音。だがどうやらそれらはロシア語でもアルバニア語でも、スペイン語でもないアレクセイにとって馴染みの無い、中国語の様だった――。
その時のアレクセイは必死にイストレフィ―の襲撃者から逃げ延びようと街を進んでいた、そこで偶然にもラーズヴァリーヌ唯一のチャイナタウンに辿り着こうとしてた。しかも今日は祭日であり、チャイナタウンのどこもかしこも人で溢れては出店が構え、客や店員の声が溢れていた。
祭りを盛り上げようと仮装した者たちの演舞が所々で客を集め、また笛や太鼓が彼らに母国を思い出させる音楽を奏でている。彼らは段々と近づいてくる銃声や怒号には全く気が付くことが無かった。
アレクセイは段々と高頻度で中国人を通りの道中で見かける様になりながらチャイナタウンに近づいて行き、その様子から祭りが行われていることを知る。そしてMPXを構え直して銃口を持ち上げたままさらに進んでいく、中国人達もこの街の住人であるので銃を見て叫ぶことはなく、しかし祭りの方向へと躊躇なく進んでいくアレクセイを見る目は不安がありありと浮かべられていた。
すると突然ひたすらチャイナタウンの中心に向かっていた彼の前に人影が立ち塞がる。大柄で薄汚れたシャツを張り詰めたまま着た男、髪は全くないが髭が口を囲んで無骨に険しい顔を飾っている。男は彼の握る銃を一瞥するもその短駆さと童顔を見ると頬を歪めて鼻で笑い、彼に向かって大股の蟹股でゆっくりと歩き始める。
『なんだお前、ここを通るのは間違っているぞ。露助のガキ』
相手は明らかに中国人ではない白人の若い青年、それでも男は唸るような低い声の中国語で語りながら歩く。すると男が前に進もうと右足を前へと持ち上げた瞬間、左足の膝にどす黒い孔が穿たれた。コンマ数秒という刹那に膝裏からは血液や軟骨、撃ち砕かれた膝蓋骨が噴出して地面に降り注ぐ。
痛みが意識に上るより先に男は撃ち抜かれた膝を曲げて前のめりに倒れる、そしてまた一瞬の間を置いてから地面を這う男は激痛に吠えた。されどもう一度甲高い破裂音の轟と同時に倒れた男の側頭部が爆発して泣き叫ぶ声はすぐに沈黙した。
ごく僅かな最低限の動きで男の膝と頭を撃ち抜いたアレクセイは疾走を続ける、その眉間に力のこもった厳しい目は前方へと向けられ続けた。
突然彼の視界が開けた。裏路地の細く薄暗い通りが終わり、チャイナタウンで最も広く長い中央の通りに出たのだ、露店や建物の中にある店でも中央通りに対して扉や壁が無いものが多く、店内は外からはっきりと見えるほどに開かれたものが多い。
人と人が肩を擦らせながらひしめき合って通りを蠢いている、露店では店主が大声で客を呼び込み、また客たちもその声に負けぬように大声で彼らに注文する。
そんな中にはイストレフィの者の姿は無く、極々僅かに中国人以外の者も雑踏の中に混ざっていた。だが無数の中国人の中にも只ならぬオーラを微かに漏らし、鋭く隙の無い様子の目つきを持つ者が数名いるのを彼は見逃さなかった。
すると背後からまたもアルバニア語と中国語の怒号が響いてくる。
アレクセイはMPXを持ち上げてサイトを覗き込みつつ背後の裏路地を振り返った。その先には赤いスーツのジャケットを羽織り、AK104を携えた男が中国人の老婆を蹴り飛ばし、もう一人がこちらを見つけて吠える姿。
ドットサイトに浮かぶ赤い点を、AKを肩程の高さに持ち上げようとする赤いスーツの男の胸に合わせる。銃口から放出された一度だけの長い雷の様な銃声が路地に轟く。
レンズの向こうで男が胸に4発の弾丸を撃ち込まれて仰向けに倒れ込む。その隣で老婆を蹴り飛ばしていた同じく赤いスーツの男が、AK104を持ち上げてストックに頬を押し当てて構える。真っ黒い銃口が一瞬煌めく。
7.62mm弾がアレクセイの頬を掠めて背後に抜けていった。
男は引き金を引き続けて銃口は輝きを繰り返す、フルオートで撃ち放たれる銃声は激発音と路地の反響音で二重奏を奏でる。
しかし正面から見てもわかる程に男が構えるAKの銃口と銃身は初弾の時点で大きくブレ、毎分600発のペースで発砲を続けるAKが暴れ出しているのが見て取れた。
弾丸は銃口から真っ直ぐと飛び出してその先に向かうがどれもアレクセイから逸れていき、それは後発の弾丸であればさらに離れた射線を沿っていった。
そして自分の周りを大口径の弾丸が吹き荒らす中、背中を緩やかに丸めた姿勢の構えで須臾に静止して引き金を引いた。今度は3発が1拍子のうちに発射される。
再度MPXの銃声が路地を轟かせてAKを構えた男の後頭部から脳髄と頭骨片が噴出し、さらに首を突き抜けた2発の弾丸の射出孔からは血液が弧を描いて男の背に流れ出した。
頭部と首を撃ち抜かれて絶命した男が背を地面に叩き付けるより早く、アレクセイは突然の銃撃戦に動きを止めて視線を向けてきていた群衆の中に、MPXのバレルを差し込んでこじ開ける様に潜り込んだ。それと同時に先程とは別の方向からアルバニア語の声が聞こえ、銃声までもが次々と撃ち鳴らされる。
阿鼻叫喚の混沌と化したチャイナタウンの通り、人々が縦横無尽に走り回る中に空き空間など存在せず、叫びながら走り出そうとする群衆がぶつかり転がり、なおの事空間を押しつぶす。
その中で悠然とMPXを構えて進み続けるアレクセイの周りにはぽっかりと空間が生じている。落ち着き払いながらも忙しなく蠢く彼の眼球は嵐の様にひっきりなしに動く人々の姿を見つめていた。
その群衆の中に動きの小さい頭部が彼の視界に入る、中国人ではない明らかなアルバニア人の2人。彼らの目がこちらに向く、人々の体で見えないが確実に銃を携えており、アレクセイに向けようと銃口を持ち上げている。
だがアレクセイは既に持ち上げて前方に向けていた銃口を僅かに動かし、照準と射線を最初の男の顔面に合わせる。またも甲高い銃声が通りに轟き、その一瞬で顔に3つと2つの弾痕を穿たれた男たちは後方に吹き飛んだ――。
銃声の響きが鳴り止む暇もなく彼のすぐ左側からアルバニア人が群衆を掻き分けて姿を現す、手にはAK103が握られている。
アレクセイはMPXのグリップとフォアグリップを握る両腕を曲げて銃の左側面を胸に押し付ける、銃口は自ずと左90度に向きその高さは目から胸程に。さらに彼は上半身をやや傾けて銃口を持ち上げる――SMGにおけるCARのHigh positionの構え。
MPXの咆哮が轟いて4発の9mm弾がフルオートで放出される。ストックを使わない上半身を使った反動の吸収、微動だにしなかったMPXの射線は男の胸に真っ直ぐと向けられて放たれた弾丸が胸に吸い込まれていった。
胸骨と肋骨の殆どを直撃と衝撃によるあらん限りのパワーで弾丸は破壊しつくし、さらに突き進んだ結果心臓を粉砕、肺を破砕して背中から飛び出す。1発だけが脊椎を砕き散らして男は無意識に膝をついた。
それでも男の脳味噌は刹那の間でも健在、脳幹が生きよと体に指示を飛ばしている。
MPXを胸から離してやや両腕を伸ばして銃身を斜めにしつつ頭部に向けて発砲。弾丸が眉間にめり込んで後頭部が爆散、衝撃で両眼球があらぬ方向に向く。
続けて彼の右側の群衆からマチェットを掲げた中国人の男が飛び出してくる、その姿が視界に入ったころには両手を伸ばしきった程の距離であり、銃口を向けるには近すぎて間に合わない。
彼はMPXを大きく振り回し、男のマチェットを握る右手首の外側をバレルで叩き、さらに勢いを利用しつつ内から外へと大きく回す。そして上半身を仰け反らして腰の高さに構えたMPXを撃ち放ち、反動で銃口が持ち上がることによって4発の弾丸が縦に中国人の胴体を抉る。男が被弾した衝撃で動きを止め、膝を付く前にストックを肩に当てて構え直し、顔面に向かって瞬く間に3発撃ちこむ。
構え直して発砲したアレクセイは右90度に疾くと向きを変える、その視線の先に銃を構えるアルバニア人2人がある。
視線とは垂直方向に横歩きながら彼らのシルエットを照準でなぞり、重なった瞬間に引き金を引いて4発ずつ浴びせた。排莢口から金に煌めく円筒状の空薬莢が薄い煙を伴って吹き上がっていき、マガジンの中の残弾が0になる。
マガジンリリースを押すと同時に手首のスナップで空マガジンを抜き捨て、左手で新しいマガジンを腰から引き抜いた――。
しかしその瞬間再びマチェットを持った中国人が飛び出してくる。その数十センチはある鈍く光る刃は人の脂で塗りたくれているようだ。
彼の頭部目掛けて大きな刃が振り下ろされる。しかし引き抜いたマガジンを小さなナイフの様に握って受け止めた。刃を持った男の右腕を引き下ろして右手で掴み、マガジンを握り直してカランビットナイフのように逆手に構える。逆手マガジンで股間を強打すると男は苦悶の表情で体をくの字に折った。
それから逆手のマガジンで上から男の右手首を捕らえ、右手でマチェットを下へと引き剥がして逆手に握る。そのまま奪ったマチェットで男の右大腿内側を切り裂き、続けて左手のマガジンで極めていた男の右肘関節も斬り上げる。
男は叫びながらも左腕でアレクセイの頭部目掛けてフックを放つ。それをマチェットを逆手に握った右前碗で受け止め、ぐるりと手首を回してマチェットの根本で男の手首を切り裂く。その時には左手のマガジンで男の首の後ろを引っかけて後ろに下がれないようにロック、手首を切った刃の勢いを利用して動けぬ男の顎と首の段差に刃を右フックの動きで押し込んだ。
刃の通った跡からは止めどなく鮮血が溢れ出し、男は泣き叫びながら首を押さえて倒れ込む。
アレクセイは斬り上げたマチェットを握る右腕を持ち上げたまま背後を振り返る。
振り返った彼が対象を目で捉えた時には右腕を大きく振り下ろし、手の中で順手に持ち替えたマチェットを思い切り投擲していた。刃物はそれ自体の重さもありゆっくりとした回転ながらも勢いよく飛翔して、群衆の中から現れた赤スーツの男の鎖骨を割って胸の上部数十センチまで深く突き刺さった。引き裂かれた皮膚と僅かに覗く鎖骨、また刃との間からは血が我先にと体外へ噴出している。
痛みではなくマチェットが刺さったその衝撃そのものと、自分の体に刺さった画それ自体に驚嘆して男は地面に転がった。
そしてマチェットを投げた右手はVP9を引き抜いて左下方に銃口を向け、雑踏の中でVz26を携えていた中国人の膝を撃ち抜く。と同時に振り上げた左手に逆手で握られたマガジンで人波から不意に振るわれた錆色の柳葉刀の根元を受け止め、さらに続けて反対側から振るわれた剣撃をも引いた左手の逆手マガジンで抑え込んで左脛を撃った。それぞれの撃たれた脚は射出孔から血と筋肉、骨片をねばつき絡ませながら真っ赤に噴出させた。
膝を撃たれた中国人は地面に背をしたたかに打ち付けて倒れ込み、脛を撃たれた者は崩れ落ちて膝立ちになった。
アレクセイは左手に逆手のMPXマガジンを、右手にVP9を握りしめてCAR(Center Axis Relock)システムのライトと拳銃を用いたExtended positionを応用した構えをとった。
右腕を大きく曲げて肘はほぼ肩の高さに上げ、左腕も曲げつつ肘を前方に突き出す様な形に。マガジンを握る左手が手の平を外に向ける形で拳銃をやや斜めに傾けて握る右手首を押さえている。
膝を破壊されて叫びながら床に倒れた男の顔を撃ち抜く、顔面の一部が「ボコッ」と窪んで後頭部が地面に叩きつけられる。続けてその背後に現れた男の胸と顔を撃つ。胸骨を破壊して肺を破く1発目で動きを止め、頬骨を粉砕して後頭部から脳を引き摺り出した2発目で倒れる。
真っ黒のジャケットの裾を翻しつつ振り返って背後の同じように目についた男の胸と頭部を撃つ、男達は視界に現れては頭部の後ろに真っ赤な波紋を撒き散らせて消えていく。
さらに体を回転させて元の向きに戻るが上半身の捻りを利用し、下半身に回転力を与えて左足のバックキックを膝立ちになった男の胸に放つ。男は短い呻き声を上げて吹き飛んだ。
アレクセイは振るった左足を前に踏み込んでやや前屈みな体勢に。構えをExtendedからApogeeに切り替える。真っ直ぐに伸ばしたVP9を握る右腕を腕同士で十字を描く様に横に倒した左腕で下から支える。
前方の奥に見えた男の腹と胸に一発づつ、頭部に一発を1秒以内に撃ち込み、一瞬の間を置いて蹴り倒した男の持ち上がり始めた頭部の額を撃ち抜く。
VP9のマガジンにはあと3発、薬室に1発。
アレクセイの周りから人込みが離れてぽっかりとした空間が生まれ始める、しかし前や左右からは銃声と怒号、微かに見える中国人以外の顔と赤スーツ。
彼は横へと走り出しExtended positionの左肘で群衆の中をこじ開けるようにしてと飛び込む。人波の中の奥へ奥へと突き進んでいく。
突然右から銃声が轟き音源の方向から血と肉が飛び散り覆い被さってくる、白シャツ短パンの一般人らしき男性が首を押さえて目を見開きながら体を硬直させて倒れてくる。
それを軽やかかつ素早く避けてから大きく姿勢を下げて、膝を付かぬまましゃがみこんだ姿勢で左に真っ直ぐと右腕を伸ばして発砲。MP7を構えた姿の男の首に穴が開く、胸骨の真上で首の付け根に穿たれた弾痕から血が噴き出し咄嗟に手で抑えている。
正面に向き直ってM1A1で左右を歩く一般人を射殺している男の眉間を撃つ、両腕を真っ直ぐと突き出して拳銃を構えた上半身が固まったままぐらりと倒れる。それと同じタイミングで左から現れた男の左大腿の付け根をマガジンで打ち付ける。続けて右側で首をさえている男に向けて薙ぎ払う様な右腕でVP9を発砲、左眼球を射抜き脳を吹き飛ばして左前腕で大腿を打たれた男の拳銃を握った右前腕を抑える。
男の右腕を左前腕で抑えてからVP9を握った右前腕で挟み込んで捻るように拳銃を引き剥がす。男は咄嗟に拳銃を奪われた右手を伸ばしてアレクセイの左手首を掴んだ。だが掴まれながらも自分の手首を回して、相手の手首を逆手のマガジンで抑えて極め、体勢を崩しさせて胸を大きく晒す様に腕を開かされた男の右頬にVP9の銃口を突きつけて撃つ。左こめかみが爆散して髪の毛や粘っこい血と脳漿が巻き散った。VP9のスライドが後退したまま停止する。
そして正面から突っ込んできた中国人の男が包丁を振り下ろしてくる。柄から先の刃が長方形をした麺切包丁が脳天目掛けて振るわれた。
右腕を突き出して弾が切れたVP9の露出したバレルとフレームで刃を挟み込んで受け止める、そして手首を捻って刃を捕らえると引き込みつつ左に流し、近くになった相手の右手首に左肘を振り下ろして包丁を捨てさせた。
男は手首の痛みに小さく悶えるも素早く立ち直って大きく振りかぶった右ストレートを放つ、それに合わせてアレクセイも右腕を敏捷に突き出して相手の拳にスライドをリリースしたVP9の銃口を打ちつけた。「パキャッ」という中指、薬指が粉砕する音と感触が生じる。
「――!」
男は拳を引きつつ険しい表情で目を瞑って咆哮を上げる、すぐに目を開いて左腕を振るって拳の底で鉄槌を放つ。それを左前腕で受け止めて下に流して相手の顔を見据え、喉へ銃を握った右腕の正拳突きで銃口を甲状軟骨目掛けて叩き込む。
男は目を見開き崩れ落ちる、開かれた口から唾液が零れる。
『待って、助けて……』
嗚咽交じりの擦れた中国語が男の口から漏れる。
手首のスナップで空のマガジンを抜き捨て、左脇にVP9を挟んで新しいマガジンを差し込む。銃を掴み直して左手の人差し指と親指でスライドを掴んで引き、男の額を発砲炎て焼きながら撃ち抜き前頭骨を爆砕した。後頭部から血と脳漿の真っ赤な汚濁が噴出する。
そして男の死体を踏み越えて走り出す。
VP9をホルスターに押し込み、MPXのグリップを握って銃口を持ち上げた――。
空気を裂く音が背後から鼓膜を震わせる。
アレクセイは大きく屈みながら後ろに振り返る、直ぐ上を彼の黒い髪を数本切断しながら剛腕と鉈が猛スピードで通り過ぎた。背後から鉈を振るった男は大きく踏み込み彼の目の前に現れる。
数歩後ろに下がってMPXの左側面を胸に押し付け、ストックバットプレートを二の腕に押し当て、左前腕と二の腕でマガジンハウジングを抑える。胸の高さに固定された銃で男の右膝を斜めから撃ち抜いた、薬室にとどまっていた最後の弾丸が発射されてボルトは後退して停止。
男は膝を折って体勢を崩すものの歯を食いしばって再び鉈を振るってくる。その右腕を前蹴りで押し返して鉈を弾き飛ばした。そして傷だらけになったマガジンを差し込みMPXを持ち上げてチャージングレバーを引き、両手をついて振り返る男の左眼球と鼻筋を一発で撃ち砕いた。
やや前屈みにMPXを構えて止めを刺した直後、彼の背中に体が小さく浮き上がる程の衝撃が走った。背の皮膚を小さく弾けさせた9mm弾の直撃による倒れ込みそうなほどの衝撃に苦しみの声を漏らし、それでも踏み止まって射線と視線を被せつつも真後ろに振り返る。背後では人波に大きな亀裂が走ってその中から赤スーツのイストレフィの部下たちが雪崩れ込んできていた。
セミオートに切り替えたMPXで2度3度と引き金を一瞬の間に引き、また一瞬の間を置いて標的を切り替えて撃ちながら後退していく。
「ガガンッ」注意して聞かなければ1度に聞こえる2度、3度の銃声を轟かし、赤スーツの上から胸に1発と顔面に1発を撃ち込む。銃を構えているのは皆同じだが彼らの構えとこちらから見える銃口の位置から最も危険な者を推察して優先的に射殺。機械的な水平移動を繰り返す銃口と銃身で撃ち続ける。胸を撃たれて動きを止め、頭を撃たれて仰け反りながら倒れ込んでいく男達。
群衆が避けて生まれた空白の道に死体が6体転がる。胸や腰、頭部と1人につき3つの弾痕。そして地面で跳ねる金色の薬莢が18。
アレクセイは大通りを形作る店の並びに沿って後退しつつ発砲する。横に目を向けるとガラス張りの店の中で中国人の男達が拳銃やショットガンを取り出している。アレクセイは彼らが構えるより先にガラス越しに、後方へと歩きながら首を中心とした頭部、首、胸を撃ち抜いていく。
頭部を撃たれれば驚嘆の表情で崩れて倒れ。首を討たれれば血が噴き出す銃創を手で抑えてくるりと床に倒れ、胸を撃たれれば一瞬静止して膝から崩れ落ちていく。
やがて灰色のコンクリート製の壁に辿り着き、大通りの中心と反対側に銃口を向けようとMPXを動かす。
突然群衆を掻き分けて飛び出してきた大柄の男、アレクセイが反応して銃を向けるより早く大きな両手でMPXのハンドガードと彼の側頭部を掴んだ。頭部は男の手にすっぽりと収まり、強靭な筋肉から生じるパワーで彼を壁に擦りながら持ち上げる。
男は右手でMPXを壁に抑え、左手で掴んだ頭部を壁に打ち付ける。
鈍い湿ったような打音、苦悶の表情と小さな叫びを漏らすアレクセイ。左側頭部から真っ赤な血が顎を伝って垂れ落ちる。さらに男は突き上げるような右膝蹴りを腹に打ちこみ。左前腕で首を壁に抑えつつ衝撃で持ち上がった彼の顔面に右肘打ちを叩き込む。強打された鼻から鮮血が噴き出し、頭を仰け反らせた。
額から垂れる血と肘打ちの衝撃で視界がぼんやりと霞む。
それから男は両手で彼のスーツの襟と胸を掴み、背後へと大きく投げて地面に叩きつけた。彼は背中から地面に打ち付けられて勢いで転がり伏せになる。
男が彼の背後に立って両肩を掴んでから右前腕で彼の喉を潰しつつ首をロックし、左手で後頭部を抑えるバックチョークに持ち込む――。
その瞬間、彼の斜め後ろにあった男の後頭部が吹き飛んだ、顔面からは鼻が消失して弾痕が穿たれている。顔の直ぐ傍で発砲されたVP9の銃口からは硝煙が昇り、男の顔の弾痕からは黒々とした血が垂れ始めた。
アレクセイはなんとか男の腕を引き剥がしてから咄嗟に引き抜いたVP9をホルスターに突っ込んでMPXを構え直す。地面に鼻血を落としながら大きく咳き込み、肩で深く呼吸を繰り返す。
僅かなその間、俯いて肩を上下に動かして呼吸をし、眼前に垂れる黒い前髪からは汗が滴る。だがその奥に覗く目は鋭さを失わず、情けなく目尻が下がることなく厳しく眉間に力を込めたまま鈍くかつ煌々と虹彩が光る。
MPXを持ち上げて人込みに紛れて銃を構える赤スーツの頭を2度射抜き、路地に飛び込もうと曲がり角に近づく。
MPXの銃口を路地に向けるより先に何者かの左手が伸びてきてハンドガードを掴み、曲がり角の奥へと引き摺り込まれた。そして目の前に憤怒の表情で立つ中国人が現れ、その男が握るチェコスロバキア製CZ82が2度発砲される。32ACP弾が防弾ベストに叩きつけられて、下腹部の一部が衝撃により針で突かれた風船の如く稲妻状に引き裂かれた。
胃の中身を全て押し出す様な痛打に歯を食いしばるも口腔から唾液が分泌される。
男の鼻に掌底を叩き込み銃から手を引き剥がす、素早く持ち上げて男の背後でVz58を握る別の男の両眼に2発の弾丸を叩き込む。腰の裏からP290を引き抜いて胸の高さで銃側面を胸に軽く押し付ける様に持ち上げて鼻を抑える右の男に向ける、そして片腕で腰の高さに持ち上げたMPXで不意に左側に現れた男の腹を狙う。
左右に放たれた9mm弾がそれぞれの男の顔と腹を撃ち抜き。頭部は脳味噌をコンクリートに撒き散らしながら壁に叩き付け、下腹部からは血と尿が混ざった液体を垂れ流して男が膝を付く。疾くP290をホルスターに押し込んで腹を抑える男の顔を撃ってから路地の先に視線と射線を向ける。
路地の奥から赤スーツの男達6人が走ってくる姿が視界に入る、彼らは曲がり角で中国人二人が殺されるのを見るや否や銃を持ち上げ始める。アレクセイは曲がり角から後退して角から銃と顔を覗かせる形で彼らの顔に向けて発砲した。首から下は走るが頭部は後ろ髪を掴まれたように上体を仰け反らせて倒れる5人――そこでMPXのボルトが後退したまま停止した。体を180度回転させて壁に背を押し付ける、と同時にMPXとライフルスリングを繋ぐ金具を外した。
背を押し当てている壁沿いにある店のドアが開き、手にノリンコ製NP42を持った男が現れる。アレクセイは手の上でMPXを滑らせる様に持ち替えてハンドガードを両手に握り、ストックを突き出してバットプレートを男の顎に叩き付ける。すかさずMPXをバットの様に持ってから反対側の路地から現れた男の手に振り下ろして拳銃を地面に落とす。もう一度振り返って今度は銃自体を顎を抑える男の顔面に投げつけ、VP9を引き抜いて銃を落とした男の脇腹と側頭部を片手で構えて撃ち抜く。発砲する瞬間、顔にMPXを叩きつけられた男のNP42を握る右袖を掴み、反対側の男を射殺して直ぐに相手が立ち直るより早く相手の体を背中に乗せて一本背負い投げで地面に叩き付ける。
地面に転がった男の側頭部、耳にVP9の銃口を突きつけて止めを刺した。
地面に向けていた視線と銃口を持ち上げて立ち上がる。
その直後に何処からか右胸を撃たれて店内を透かして見せるガラスの壁に背中を叩きつけられる、さらにもう一発が左胸に直撃してその衝撃で肋骨に亀裂を走らせた。2発の弾丸を受けて後方に弾かれた背中でガラスが打ち破られ、砕けて飛び散るガラス片と共に店内に投げ出された。
丸テーブルと丸椅子が置かれた店内の床に叩き付けられて仰向けとなる。
胸の激しい痛みを抑えつつ立ち上がるより先に店外へ銃口を向けて、仰向けで人込みから姿を現した射撃者に向けて3発発砲。
仕返しの様に胸部に2発撃ち込み、頬にトドメの一発を叩き込む。
身をよじって立ち上がろうとすると厨房から出てきた老人がショットガンを携えている姿が視界に入る。片手と膝を床に付けながら斜め上に向けたVP9で老人の顎から脳幹を一発で射抜き粉砕。
なんとか胸を押さえながら立ち上がると今度は大柄の中国人らしき老婆が、突進してきて体を抱えられて壁に叩き付けられる。アレクセイはすかさず膝蹴りを胸に打ちこみ、持ち上げたVP9の銃口を老婆の頸椎に寄せて撃ち、続けて後頭部に寄せて撃つ。射出孔から血と粘液を垂らして体から力の抜けた老婆を押し退かす。
急いで店内の奥に走って厨房に入りる。するとその先から赤スーツの男の左半身が覗いた。
真っ先に左肩を撃つ、と同時にみっちりと黄ばんだ元々は白かったであろうコックコートを着た巨漢が現れる。咄嗟に体を90度回転させると眼前を彼の顔程の大きさがある角張った刃の肉切り包丁が回転しながら勢いよく飛翔した。
そして彼の背後に忍び寄ろうとしてた眼鏡の痩せこけた男の顔面に直撃、全体が長方形に見える刃の角から眼孔に包丁は突き刺さり。刃の三分の一が顔面にめり込んで真っ二つに切断された眼球の切断面から、透明のゼリー状な硝子体がにゅるりと絞り出さた。亀裂の様な裂傷からは鮮血が止めどなく、湧き出る様に流れ始めて男は仰向けに倒れた。
アレクセイは体の回転に連動する様に構えをVP9を握った両腕を伸ばすApogee positionから。両腕をほぼ90度に曲げて右肘を顔の高さに上げ、VP9を斜めに構えたExtended positionに形を変えてコックの額を撃った。
そして先に肩を撃たれた男が叫び声を上げながら体勢を崩して、角かだ全身を露わにするが倒れず、手にはG32が握られている。アレクセイはすかさず走り寄って距離を詰めてから右足で踏み込んで、相手の右胸のシャツを掴んで右足裏を相手の右足首に引っかける小外刈りで地面に引き倒す。そして厨房の奥に向き直ろうと倒れた男に背を向ける途中、流し目で店外を一瞬見てから倒れた男の顔を撃った。
裏口の鉄製ドアを蹴り開けて裏路地に出る、閑散とした人間3,4人が並べる程の広さの路地。
刹那の瞬間にVP9からマガジンを抜き捨てて新しいマガジンを差し込む。
眼前に伸びる路地の先には十字路がある、誰も何も無い道が真っ直ぐと延びているが左右へも通じている。
ゆっくりとやや右よりに銃を真っ直ぐに向けたまま歩いていく。左右の壁には時折裏口らしき錆び果てたドアがあり、また大きなゴミの集積箱が鎮座している。
このまま真っ直ぐと進めば逃げ切れる可能性は高い、彼は混乱の最中にあるチャイナタウンから一刻も早く離れたかった。だがそれが許されないことを空気から敏感な感覚で悟る。表通りから漏れる喧騒から切り離されたように奇怪な静けさに満たされる路地。
アレクセイは素早く両腕を曲げて胸近くでVP9を構えて、直ぐ右隣りのドアの鍵をドアの淵ごと3発で撃ち抜き、体当たりで押し開けて奥へと飛び込んだ。
奥へと開け放たれたドアと彼がつい一瞬前まで立っていた場所を様々な弾丸が吹き荒らした。
アレクセイはふらつきながら建物に飛び込んで壁に肩を叩きつけ、それでも立ち続けてVP9を構え直す。薄暗い控室らしき場所を抜けてドアを慎重に開ける、そこには幾つもの台が並んだ麻雀遊技場となっており、中年から老人までの主に男性らが麻雀に興じていた。
今では奥から漏れる叫び声と怒鳴り声を聞いて、次々と立ち上がって表や裏から出ようと混乱状態となっている。
遊技場の壁向こうに先は細い通路が繋がっている受付があるら、そこからアルバニア語の声が聞こえてくる――。
その細い通路から赤スーツの男達が雪崩れ込んできた、先客たちを気に掛けることもなく銃を発砲し始める。客たちが巻き添えを喰らって血を撒き散らしていく血みどろの遊技場。アレクセイは真っ先に姿を見せた赤スーツを着た男の顔を撃ち、続けて現れてくる男達に片手で銃撃しながらすぐそばにあった階段を駆け上がっていった。
彼の駆け上がった階段の壁は弾痕まみれとなり、木製の手すりは砕け散って殆どが無くなる。すぐさま赤スーツを着たイストレフィの男達が階段に集まり、一斉にライフルや拳銃の銃口をその先に向ける。
荒々しい呼吸をするMP5KA5を構えた男が真っ先に階段を駆け上がり、それに続いてAK103を持った男、M1A1を握った男、さらにMP9を構えたユリアナが一気に上がっていく。
階段を上がると右側にだけドアがある真っ直ぐな廊下が現れ、壁から天井までは木製で作られてどこを触ってもギシギシと鳴る。廊下の壁に連なる手前から2つのドアは大きな部屋に繋がっており、そこから曲がり角を越えた先にまた2つのドアと、板張りで封じられた窓がある。
2人のライフルを持った男が一番手前のドア左側と正面に立ち、M1A1を持った男がドアノブに手をかけて突入のスタンバイをする。さらに彼らの背後をユリアナと別の2人のライフルを持った男達が通路の奥に向かって進んでいく。
最初の扉近くに待機した男達が目配せでタイミングを合わせる、M1A1を持った男がドアを小さく開けて後ろ向きに蹴り開け、もう一人のドア正面に立つMP5KA5を持った男が突入し、ドア左脇に立っていた男が2番手で突入してM1A1を持った男が最後に乗り込むというシナリオを共有する。
ドアが蹴破られた、鍵はかかっておらず勢いよく開き、同時にMP5KA5を持った男が踏み込もうとする。しかしドアが突然内側から閉められ、MP5KA5がドアに強打されて男は驚きに硬直した。
その直後に閉められたドアに連なる壁――木製の所々腐食して、荒れ果てている――から粉塵と破片を飛沫させながら弾丸が飛び出した。
開けられたドアの後ろに潜んでいたアレクセイはドアを激しく蹴り飛ばして閉め、素早くドアから反対側の壁沿いに離れつつVP9をドア付近目掛けて一気に撃ち放った。
8発の9mmJHP弾が壁を容易に粉砕してありのままの形状で3人の男達に浴びせられた、首や胸、腹から腰へと着弾した弾丸が皮膚を引き裂き内臓を激しく揺らして小さな弾痕から捻りださせようとする。
後退しながらVP9を発砲し続けていたアレクセイは銃のスライドがストップすると、銃を投げ捨てて床に飛び込む様に倒れ込んだ。そのコンマ数秒後に彼の頭上を5.56mm弾と7.62mm弾が嵐の様に吹き荒らして空気を細切れにする。吹雪の如く壁から木片が撒き散らされていく。
射殺された3人より先に進んでいたライフルを持った2人がドアと壁を一切容赦なくフルオートで掃射し続けて破壊していた、壁は砕け穿たれて穴だらけに損壊して部屋の中が覗き見えるまでになる。
そして2人は交互に素早く弾倉を交換して一瞬だけ目を合わせ、激しくも規則正しい呼吸を大きくする。
1人がドアを前蹴りで吹き飛ばして真っ直ぐと銃口と視線を向けて踏み込み、もう1人はその真横に銃口と視線を向け、お互いが突入した長方形の部屋を左端と右端を始めにクリアリングしようとする。
部屋に踏み込んだ男の足元からアレクセイが飛び出す、手にはMPXを体に繋ぎとめていた黒いライフルスリングが両手で握られている。男は咄嗟に反応してSCAR-Hを発砲するが、銃の側面をスリングで抑えられて銃口を向けることができない。
アレクセイは右手を回してスリングをライフルのマガジンに絡め、男の右腕を自分の左腕で抑え込みつつスリングで銃を持ち上げて腕の動きを縛る。その動きに引き寄せられるように下がってきた男の首に左手でスリングを回して捉え、腕と頭部がまとめて抑え込まれるような形になる。そこへ鳩尾に膝蹴りを打ち上げ、また前後に振る様な左足の蹴りで男の両脚を内側から広げさせ、バランスを崩させてから肩で体当たりして部屋から押し出した。
部屋から出た瞬間には援護を務めていた男が持つAK101のハンドガードを激しく弾く様に蹴り飛ばし、スリングで拘束した男を壁に叩きつけた。そして一瞬でプッシュナイフを右手で引き抜いて、拳を振る様な動きでプッシュナイフの刃を男の下がってきていた首の頸動脈を斜めになぞった。鮮血が冠水したマンホールの様に溢れ出し、男は声にならない呻き声を上げつつ身をよじって倒れる。
それからもう一人に疾く距離を詰めてAK101のバレルを掴み、右腕の深屈筋を深く切り裂いてグリップを握る手の筋肉を無力化し、左手で薙ぎ払うようにライフルを引き剥がして捨てさせる。続けて相手の右膝を内側から蹴りつけて足を開かせ、やや前屈状態で体勢を崩させた。
そして右手のプッシュナイフを手の平から垂直に伸びる形に握り直し、男の鼻に裏拳の如く叩き込んで手放す。葉のように左右に緩やかなカーブを描く刃は、上下に鼻腔を広げるように深く食い込んだ。右手で襟首を掴みながら左の肘打ちを突き立ったプッシュナイフのグリップ底に叩き込み、続けて左手で服の肩辺りを掴んで右肘打ちを思い切り打ちこんだ。鼻孔に食い込んでいたプッシュナイフの刃がさらに奥へと突き立てられ、鼻孔を中心に縦の大きなヒビが鼻骨、上顎骨に深く刻まれた。
男は甲高い鳴き声のような叫びを通路に響き渡らせて顔を手で覆う。
その瞬間に腰の裏からP290を引き抜いて、下顎に銃口がほぼ触れる位置で上に向けて発砲し、脳幹を吹き飛ばして頭頂部から飛散させた。
完全に生命活動を停止した男がゆっくりと後方に倒れようとしてる刹那の瞬間、その死体の背後にMP9を構えたユリアナを目に捉えた。
右手で死体を突き飛ばすと同時にP290をユリアナ目掛けて発砲するが、彼女はアレクセイが死体を突き飛ばし始めた段階で別の部屋に飛び込んだ。アレクセイは両手でP290を構え直す。
激しい破裂音が通路内を満たす様に轟き、アレクセイの胸部の脇付近に激しい痛みを感じる。その部位に視線を向ける間もなく2発目が左上腕をジャケット、ワイシャツを引き裂いて肉と筋肉を抉り千切り飛ばした。3発目が胸の中心に防弾チョッキ越しにジャケットとシャツを焦がしながら捻じ込まれ、吹き飛ばされた彼の軽い体は通路の壁に叩きつけられておもちゃの人形のように地面に投げ出された。P290が音を立てて床に転がる。
彼の体の上を弾丸が止めどなく駆け抜けて通路の壁に数多の弾痕を刻んでいく。
アレクセイは溢れんばかりの汗を額から垂らしながらなんとか手をついて立ち上がろうとする、激痛が走った脇に手をやるとシャツが裂け、肋骨の上に張る皮膚が巻き込まれるように焦げ付いて千切られていた。
ユリアナは部屋に飛び込むや否や走りながら片手で壁越しにMP9を乱射し続けていた。
その中で3発が運よく彼に直撃し、弾切れしてすぐ部屋から出たユリアナは彼目掛けて砲弾の様に走り寄ると同時に弾が切れたMP9を投げつける。
アレクセイは顔面に迫る投げられたMP9を振るう腕でギリギリ弾く、それでもユリアナは真っ直ぐとこちらに突っ込んでくる。立ち上がりつつSCAR-Hを拾って前方に向けた。
鼓膜を揺さぶる激しく重い激発音が雷の様に轟き、銃口から7.62mm弾が次々と発射される。しかしユリアナは無傷、走り寄っていた彼女はアレクセイが発砲する寸前に両脚を畳んで床を滑って彼の眼前に辿り着き、両手でバレルを押し上げて射線を自分から逸らしていた。
彼女は続けて肘を彼の膝に打ち下ろし、さらにアッパーを顎に叩き込みつつ立ち上がって、肩を押し付ける様に体当たりする。突進を真っ向から受ける形になったアレクセイは背を壁に叩きつけられる。
ユリアナは頭突きを彼の額に打ちこんでSCAR-Hを手から剥ぎ取る、危うい姿勢ながらも左手でグリップを握って右手で上からハンドガードを抑える形で腰撃ち。
だが発砲される直前にアレクセイがハンドガードを掴んで射線を逸らし、右のストレートを彼女の鼻に叩き込んだ。鼻血を吹いて大きくユリアナは頭部を仰け反らせ、手をライフルから離すと回転ドアのような勢いで体を回転させてハイバックキックを彼の側頭部に放った。
頭部にキックを直撃させられた彼の体は吹き飛び、1回転して床に投げ出されて叩きつけられる。ユリアナが一気に走り寄って立ち上がろうとする彼の脇腹を蹴り上げた。体が宙に浮いて彼は嗚咽を漏らし、くの字に体を曲げる。ユリアナはさらに近づいて行く。
アレクセイは彼女が自分の直ぐ傍に立つと左踵で彼女の右踵を引き込む様に蹴り、やや右足が広げられるとその大腿に右足底を押し付けて地面に引き倒した。
脚を絡めとられて倒れるユリアナの胸に蹴りを打ち込み。アレクセイは壁に背中を押し付けつつ口から唾液と胃液、血を糸を引かせながら垂らして、肩を上下に揺らしながら激しい息遣いで立ち上がる。疲労困憊の表情ながらもしっかりと両目を開き、ユリアナの姿を捉え続けている。
ユリアナは飛び上がるように勢いよく立ち、獣のような牙を剥いた咆哮を上げながら彼に向かって突進した。彼女は眼前まで距離を詰めて左フックを放つもしゃがんで避けられ、右ストレートを打つと左手で逸らされる。今度はアレクセイから腹に向けてパンチが斜め下へと放たれたのを左手で逸らし、彼がパンチの勢いでやや体を前に進ませたと同時に右膝蹴りを腹に打ちこむ。
アレクセイが激しい呻き声を上げて一瞬体を浮かせてから体を庇うように頭を下げる、そこに右フックを左下へ捻じ込む様に放つ。負けじと彼が右のパンチを打ってくるのを畳んだ左前腕と上腕でガードし、右ブローと左ブローを交互に捻じ込んで顎に左アッパーを叩き上げる。
強引に背中を真っ直ぐに伸ばされることになった彼の顔面目掛けて右ストレートを放つが、しゃがんで避けられて拳が壁を貫通して粉塵と破片を撒き散らす。その避けた頭部に左フックをもう一度打つ、そして数歩下がってから前蹴りを彼の胸に叩きつけた。
彼の体が車に衝突されたような勢いで壁に叩きつけられ、すでにボロボロになっていた木製の穴だらけな壁を打ち壊して部屋の中に飛び込んだ。
後を追ってユリアナも壁の穴を越えて部屋に入る、立ち上がりかけていたアレクセイに向かって突っ込んでから両脚を捉えて諸手狩り、加えて彼の体を持ち上げて宙で回転させて前方に放り投げる。
背中から床に倒れ込んだ彼に走り寄って右正拳を叩き下ろす。
しかしアレクセイはそれを素早く腕を掴んでやり過ごし、驚愕したユリアナが続けて放った左正拳も手首を掴みつつ捌いた。
それからユリアナの右腕を掴みつつも左ひざで挟み込んで腹を左足底で押し込み、右手で彼女の左手を掴みながらも右足底で右上腕を抑え、自分の後方に彼女の体を放り投げるスパイダーガードを放った。
したたかにユリアナは背を地面に叩きつけられて叫び声を上げる。
アレクセイは腰から左手でスピアポイントナイフを抜き、彼女の顔面に両手で押し込もうと振り下ろす、涙を浮かべたユリアナがギリギリのところでナイフを止めた。彼は右手をナイフから離して肘打ちを彼女の顔面に叩きつけ、怯んだ彼女の右足を掴んで引っ張り込むとズボンの裾から微かに見えた足首のアキレス腱に深く突き立て、横に引いて切断する。
甲高いユリアナの叫び声が部屋を越えて建物に響き渡った。
さらに右肩に体重をかけて思い切りナイフを突き刺して柄まで捻じ込み、手が真っ赤に染まる。
その時部屋の外から声が聞こえ始める、イストレフィの増援か別の中国人たちが彼に向かってきていた。
アレクセイは右肘鉄をユリアナの顎に横から叩き込んで気絶させ、ナイフを突き刺したま手放して走り出す。部屋を出て一番近くにあったP290を素早く床から拾い上げた瞬間、奥の階段からライフルを持ったイストレフィの男達が駆け上がってくる。
彼らに背を向けて全力で駆けていき、行き止まりにある封じられたくすみ切ってひび割れた窓に顔を両腕で覆いながら突っ込んだ。ガラスが音を立てて砕け撒き散らされ、彼の体が建物から飛び出して離れていく、その体は隣の建物のベランダを覆う鉄製の柵に叩きつけられる。
両腕でなんとか掴もうとするも滑り落ちて路地に放置されている廃車のボンネットに激しく着地し、地面に向かって転がるように滑り落ちた。
白いシャツは所々が赤で染まって血が滴り、脇腹をきつく手で抑える。
ふらふらと立ち上がって左右を見回し足を引きずりながらも、力を込めて握るグリップの感触を確かにして路地を後に人込みの中に消えていった。
――ダイチェ・チェロベーク美術館、地下――
黒と金が基調とされた地下の隠された空間、地上と同じように静寂が染み渡ったその気品を感じさせる場所。聞こえてくるのは囁き声のようなスタッフと客のやり取り、そして銃を操作する鉄やプラスチックの摩擦音。
部屋の全体はぼんやりと最低限の照明で照らされ、ライトで煌めく銃器が収められたガラスケースが浮かび上がっている。
その空間の中で悠然と立つムッシューの姿があった。黒いスーツに真っ白い手袋を付けた両手を前に握り、部屋を見回して問題が無いかと落ち着いた表情で目を光らせている。
すると一瞬、彼の見回す首の動きが止まり、何かを感じ取ったように首を小さく傾げる。
真っ黒にデザインされていながらノブは金に塗られたスタッフ専用のドアを早歩きで潜る、その落ち着いた身のこなしは彼がやや急いでいることを誰にも悟らせなかった。
そしてモニターが数えられない程壁に埋め込まれ、4人のスタッフが機械のような動きで視線を巡らせているセキュリティールームに入る。
「何かが?」
ムッシューは視線を向けぬままセキュリティチーフに声を掛ける。
「丁度今連絡しようと、見てください」
チーフがモニターの一つを指差す、その表情は困惑と共に緊張した様子。
「ほう……」
そのモニターはダイチェ・チェロベーク美術館の敷地内でも、建物を囲う庭園の入り口付近を映していた、植物の緑と道を形作るミルク色が画面の殆どを占めている。しかしよく見てみると何かがその中を真っ直ぐに動いていた。その真っ黒く小さい動く何か、それはアレクセイ・サハロフであった。
「拡大してください」
ムッシューは焦ることも無くスタッフに指示を飛ばす。
画面がゆったりと歩くアレクセイの姿を中心に捉えたまま、倍率を上げてその姿を大きくする。
所々が裂けてボロボロの黒いジャケットを羽織り、その下から見える白かったであろうシャツは殆どが赤く染まっていた。そして彼の手には拳銃――ムッシューには仕事柄遠目でも一瞬で判別できたがCZ製P-10が握られている。
やや前屈みにモニターを見ていたムッシューは姿勢を正し、チーフに顔を向けた。
「全館の警備に連絡を、問題はありません。そのまま通して差し上げなさい」
そう言い放ったムッシューの目が一瞬モニターを見る、そこには足を止めてカメラを見つめ返すアレクセイの亡者如く荒れた姿と、剣闘士を彷彿とさせる殺し屋の眼光があった。




