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Along with the killing  作者: キャラメル伯爵
20/29

Chapter 4-4 Kill Everyone

 ――クラスニークルーグとの会合翌日、デルヴェッキオの屋敷――



 ライターの「キンッキンッ」という金属音を鳴らし、デルヴェッキオは紙タバコに火をつけた。

 そして余裕綽々な態度で紫煙を吐く。部屋には護衛が3人、側近の男が1人が立っている。

 

「今日中にムハレムに話をつけに行く、準備を進めておいてくれ」


「了解です」


 側近はスマートフォンで部下に連絡する、控えていた部下たちが武装し始めて移動の為のコンボイの準備を進める。


 ――


 デルヴェッキオの屋敷を囲む鉄柵に沿って走る道路、その屋敷から反対の路肩に青い清掃業者と書かれたバンが停車した。

 屋敷を守る鉄柵とそれを支える石の柱、その上部には等間隔で監視カメラが取り付けられている。

 停められたバンのドアが一斉に開かれる。比較的軽装備なロスファナティコスの隊員達が降り立った。彼らの提げた銃器はサプレッサー付きMP5A3、サプレッサー付きSIGP226。

 降り立った隊長のアガピトは周囲を見渡す、隊員たちはリラックスした態度でグリップを握って銃を提げている。


「エミリアノ、そこにいる鳩を殺して捕まえてこい。フィトはその辺にある金網を切って取ってくるんだ」


 アガピトは道路を歩く鳩、屋敷とは別の建物を囲う金網を指差し、指示を飛ばした。

 エミリアノとフィトは頷き素早く動き出す。

 エミリアノは気配を殺し切り、鳩を掴むと指先で首の骨をへし折った。フィトはニッパーで金網を切り取って数本集めた。

 2人の集めたものをアガピトは受け取る。そして死んだ鳩の喉や羽に針金を突き立て、生きてただ立っているように見える鳩の死体を作り出す。


「全員屋敷の間取りは頭に入ってるな、状況開始だ」


 隊の中で一番素早いMP5を背負ったドロテオが鳩の死体を受け取る。屋敷の鉄柵によじ登り監視カメラの前に、カメラの視界を潰す様に慎重に固定した。

 そして次々と隊員達が鉄柵を乗り越えて敷地内に踏み込んでいく、先発した隊員数名が敷地内に銃口を向け、僅かな揺れも迷いも無い眼でサイトを覗き警戒する。


「カジェタノとイラリオ、お前らはここで待機しろ。ドロテオとエミリアノは俺についてこい、他はフィトについていけ。作戦通りに後でフィトたちは我々と離れ、別に動いてサポートしろ」


「「了解」」


 P226を構えたアガピトを先頭にした隊列、彼らは屋敷内に音も無く忍び込んでいった。

 

 ――屋敷内のセキュリティールーム――


 無数のモニターに監視カメラの映像が流れている部屋、中には退屈そうにトランプに興じる警備の男達がいた。

 モニターを見ていたひとりの男が異常に気が付き、前屈みになって凝視すると無線のスイッチを押した。

 

「こちら監視室、7番カメラが鳥らしきもので見えない、確認に向かってくれ」


『了解』


 ――


 7番カメラから一番近い巡回中の警備の男が応答する。ライフルを、ベレッタ製AR70を携えて動き出した。

 カメラを目指して鉄柵の内側を沿って歩く男、鉄柵近くの外で清掃業者のバンを見つけるが気にもかけない。


「あぁ、あれか……ん?」


 監視カメラの前に立つ鳥を見つけ。凝視していた男だが、違和感を感じて近づいて行く――。

 次の瞬間男の背後にある草むらから音も無く手が伸びた。その手は口と首を押さえて声を漏らすことを許さぬまま、草むらに男を引きずり込む。

 背後から捕らえたカジェタノは男を抱えたまま草むらの中に倒れ込む、そしてマチェットを右手で引き抜くとグリップの縁ギリギリに刃を喉仏に押し当てた。


「――! !」


 男は冷たい刃の感触にくぐもった声を微かに漏らす。カジェタノは男の反応を見て大きく笑みを浮かべ、口角を歪めた。

 左手で口を押えると右手でゆっくりとバイオリンの弓の様に、マチェットを引いていく。刃はバターを切るように喉仏の上を滑っていき、段々と食い込んでいく。

 刃と喉の肉の間からは真っ赤な血が噴出し始め、押さえた口からも血が溢れて溺れる寸前のような声が漏れる。


 ――


『警備1名殺害』


 アガピトの無線機にカジェタノの報告が送られてくる


「了解」


「急ぐぞ」


 屋敷の内装は白が基調であり、廊下には飾り付けられた柱。壁に設けられたスペースには壺や石像など美術品も置かれていた。

 アガピトとフィトが率いる2つの隊列。彼らは慎重に壁に沿って進む、先頭の者は進行方向に銃口を向けて進み。2人目は拳銃とSMGをローレディのまま、その後ろについていく。そして3人目は後方に目を向け、警戒しつつ隊列の最後尾を務めていた。

 彼らは廊下を低姿勢ながら音も無く、素早く移動する。

 背を見せた敵が居れば背後から一瞬で近づいて行き。それから左手で口を押え、右手のナイフで2度、肋骨の隙間から心臓を突き刺す。

 心臓に深く突き刺されたナイフが抜かれ、筋肉の塊たる心臓がその切り口を塞ごうとする。だが溢れ出す血液の濁流がこじ開けていった。

 心臓に彫り込まれた筋肉の唇、そこから真っ赤な血液が止めどなく流れ出す。

 内臓間の隙間、体内の隙間という隙間に流れていき内臓各種を圧迫。そして送られるべき血液が失われて壊死していく、それは脳味噌も同じである。

 出血は体内に広がっていき、胸から体外に流れる量は少ない。故に周りを汚すことも少なかった。

 背後から胸にナイフを刺突された男達は急性失血死、もしくは出血性ショックで気を失う。それから静かに体を引き摺られていき、気絶した者はトドメを刺されて物陰に隠されていった。

 やがて彼ら2つの隊は分かれ道に行き当たる、そこから繋がるのはデルヴェッキオの部屋と、監視カメラの管理が行われているセキュリティールーム。

 立ち止まったアガピトとフィトがアイコンタクト、フィトがセキュリティールームへと向かっていった。

 アガピトは背後の部下にも目配せし、前進を再開してデルヴェッキオが待機する部屋に向かう――。

 だがその時、曲がり角からAR70を提げた男が姿を現した。

 男は視野の端でアガピトの姿を捉え、焦点を合わせようと顔を向ける。

 しかしアガピトは元々曲がり角に向けていた銃口を、小さく素早く男の胸に合わせて引き金を2度引いた。

 胸の中心、シャツに2つの黒い穴が開き、男の体が大きく揺らぐ。それをアガピトが襟首を掴んで床に引き摺り下ろし、真っ黒に冷め切った眼で顔を捉えたまま、サプレッサーの銃口を眉間に押し付けてトドメを刺す。

 「バスンッ」という高い圧力で空気が吐き出される音、倒され寝ている様に目を瞑った男の眉間に穴が開き、僅かに血の線が射入孔から伸び始める。

 頭部を穿たれても変わらず目を瞑った男の後頭部、そこからゆっくりと血溜まりが広がっていった。

 アガピドが敵を引き摺り下ろすと同時に、堅牢に固めた上半身でMP5A3を構えたドロテオが前方に飛び出した。そして曲がり角の先を半身で覗き込んで確認する。

 

「クリア」


 曲がり角の先をサイト越しに凝視するドロテオ、アガピドは疾くに彼の横を通り過ぎて先を行く。

 やがて彼らが幾つかの扉の前を横切った後、2枚の扉が守るデルヴェッキオの部屋の前に到達した。


 ――屋敷内のセキュリティールーム――


 警備の男がぼんやりとした意識の中。監視カメラの映像に注意を向けつつ、紙で包まれたマリファナの煙を吸う。またその合間に呼吸を繰り返す。

 残り2人の男達も拳銃をテーブルに置いたまま、椅子の上でくつろいでいた。

 不意にドアを叩く音が鳴る、セキュリティールームの男達が一斉にドアに視線を向けた。

 

「誰か手を貸してくれ、バカが1人倒れたんだ!」


「なんだと?」


 カメラの前に座る男が別の男に、指でドアを指して開けろと伝える。

 暇をしていた男は仕方ないといった態度で立ち上がり、ドアノブを回して引いた。

 ――その瞬間、男の後頭部が爆散した。着弾の衝撃で男の頭部は後ろに仰け反り、倒れ込もうとする。だがそれよりも早く、ドアが蹴り開けられると同時にフィトが踏み込む。

 ドアを潜って左から右へと照準、射線を走らせ、カメラの前に座る男の胸に一瞬で3発撃ち込んだ。

 それから男の頭を撃ったプラスが、部屋の右から左に銃口を向けつつ踏み込み、椅子に座った男の胸に2回発砲した。

 座った男は2度椅子の上で体を跳ねさせ、俯きに沈黙する。

 最後にヒルが踏み込んだ。

 そしてフィトとプラスが監視カメラの確認を行い、ヒルは椅子に座ったまま微動だにしない男達の眉間を無造作に撃ち抜いて回った。

 


 ――


 デルヴェッキオが居る部屋のドアの前。銃口をやや下げて構えたアガピト、ドロテオ、エミリアノが並んだ。

 エミリアノが2人の横を通り過ぎ、アガピトと向かい合ってドアの傍に待機する。

 それからアガピトが後ろ向きに手を開いた、ドロテオはそこにフラッシュグレネードを置いて渡す。

 フラッシュグレネードを受け取ってピンを抜き、P226をホルスターに押し込むと、右手を上げてカウントを始めた。


『3、2、1、0――』


 0のタイミングで右手を握りしめ、素早くかつ静かに小さくドアを開ける。と同時にドアの隙間にグレネードを投げ込んだ。

 数秒後、甲高い爆発音が轟き。その瞬間にエミリアノとドロテオがそれぞれ左右のドアを蹴破った。

 部屋にいるのはデルヴェッキオを除き、彼の側近も含めて5人のスーツを着た男達が立っていた。

 真っ先にドロテオが飛び込み、ドアから右側にMP5の照準を走らせる。そして目と耳を押さえた男2人の体にフロント、リアサイトが重なった刹那に引き金を引き、5発と7発の9mm弾が銃口から吐き出された。

 ほぼ同じタイミングで金に輝く空薬莢も、チェンバーから跳ね上がるように蹴り出される。

 一秒にも満たない刹那、激甚な勢いで弾丸群が男達の体を貫通し、滑る流体的な血潮を射出孔から放散させつつ壁に突き刺さる。

 そして突き飛ばされた様に男の体は後方に飛躍し、壁に血と背を打ちつけ擦らせて座り込む。

 次に飛び込んだエミリアノは、P226を構えた両手を真っ直ぐに突き出し、呻きながら壁に寄りかかる2人の男に向けて2発、3発と発砲した。

 1人目――1発目が右頭頂部から飛び込んで頭頂葉と側頭葉を粉砕、2発目は胴体からもぐりこんで第10肋骨、腸管を打ち破る。

 2人目――右上腕、脇腹、胸部を弾丸が音速未満の速さで難なく刺し突き、男は顔を上げぬまま脱力して床に転がった。

 それから最後に踏み込んだアガピト、素早くP226を腰のホルスターから引き抜いて構え。拳銃を抜いて銃口を持ち上げる途中であった側近に向けて3回引き金を引いた。

 胸に2発が潜り込み。最後の1発は頸部を、皮膚と筋肉、血管を突破して赤い血液を噴出させた。側近は真っ赤になりながら、首を押さえてデルヴェッキオの足元に倒れ込んだ。

 

「な! 何だ貴様ら! ?」


 「――バスッバスッ」驚愕の表情で3人を見回したデルヴェッキオの額に、2つの弾痕が穿たれた。

 無造作に片手でP226をデルヴェッキオに向けて発砲したアガピト、拳銃を提げながらスマートフォンを取り出してアロンソに連絡する。


「たった今始末した、撤収する」


 3人は弾倉を交換し、ドアの近くにもう一度隊列を組んで並ぶ。

 そして彼らは部屋を出る。道中に出会った敵を一人残らず殺し、フィトの部隊と合流して、屋敷からロスファナティコスは逃亡していった。

 彼らの侵入した鉄柵の傍にある草の陰、その一部は赤黒くテカついて光を鈍く反射させている。地面には15個以上のパーツに細断された人体があり、四肢や耳、顎までが切り落とされ、暗い朱色に濡れながら積まれていた。


 ――


 ロスファナティコスの隊員達がバンに乗り込み、街の中へと消えていくのを。屋敷近くに止めている車の中から見つめている者がいた。

 その男は彼らと入れ替わりに正面から侵入し。慌ただしく異常事態に対応しようとしていた警護の男達を、サプレッサー付きのロシア製MP443で静かに背後から射殺。

 やがてサルヴェッテイの人間の誰よりも早く、デルヴェッキオの亡骸と対面した。

 男は護衛の死体には目もくれず。食いちぎられたトマトの様に脳味噌の一部をヒラつかせ、血潮を後頭部から垂らすデルヴェッキオに近づく。すると右手を持ち上げ、人差し指から赤い宝石が嵌められた、金の装飾が少ない指輪を抜き取った。

 男――ニコライ・ラスコーワは満足げな笑みを浮かべ、ポケットに指輪を仕舞う。



 ――次の日、ホテル・カストリオティ地下のカジノ――

 

 

 カストリオティの地下、そこにはクラブとカジノが合わせられた秘密の場所が存在する。その半分のエリアは数十人のストリッパーがダンスする幾つかのステージ、そしてそのステージを囲むように賭けが行われるテーブルが多数配置されている。

 また残りのエリアは煌びやかなライトアップが忙しなく動き回るダンスホール。

 スーツを着崩した若い男、女が踊り。薬を吸い、また注射している。それらに酒は欠かせない。

 このカジノ・クラブエリアの壁や床は深い赤色。絨毯も赤く、吊るされたシャンデリアを含む照明も淡い赤であった。

 その空間全体に及ぶ赤いデザインを細かな金と黒の装飾が豪華に飾り付け。クラブの各所には赤と金のドレスを着た女性スタッフが、局部を隠すことすら許されぬドレスを着たまま、酒を運ぶ等のサービスを行っていた。

 カジノの客は派手なドレスと厚化粧を纏った女性、肥え太りチップを抱えたスーツの男達が特に目につくだろう。

 彼らはギラリと輝く目を開いてチップやサイコロを放り、酒を飲み、スタッフを捕まえると部屋に戻っていく。

 ディーラーを務める女スタッフ達、彼らは完璧に作り上げられた愛想笑いを客に振りまきつつ、サイコロを投げてはゲームの結果を述べる。

 ストリッパーのダンサー達。彼らはステージの上でポールを活用したり、また体一つで派手で淫らなダンスを披露し続ける。

 街中のクラブとは異なり、ステージや彼らの無能な下着に金を捻じ込む客はいない、だがその代わりに値踏みするような目で客たちはストリッパーたちを見つめる。そして退場した後に近場のスタッフに声を掛け、指名したストリッパーを部屋まで呼ぶのだ。

 だがここで脳の緩み切った連中による騒ぎは起きない。クラブの各所には赤いスーツのスタッフであり、警護でもある男達が拳銃をショルダーホルスターで提げて立っているのだ。

 テーブル上の各所に置かれた色鮮やかなチップは止まることもなく、忙しなく居場所を変えていく。

 そんな堕落の極みの様な空間の中、襟を開けたシャツの上から灰色のスーツを着ている一人の男――ニコライが、賭けが行われている一つのテーブルに座っていた。

 彼はリラックスした表情と身のこなしで、テーブルの上で転がるサイコロを見つめていた。

 そして1ゲームが終わる。

 配当が渡され、ディーラーが次のゲームを始める。


「スネークアイズに50だ」


 ニコライはそう宣言し、改めてチップをテーブルに置く。そしてポケットからスマートフォンを取り出してコールし始めた、その相手は――。


 ――


 カストリオティ上層階、険しい形相のムハレムがグラスにウォッカを注いでる中、スマートフォンが鳴り始めた。

 彼はスマートフォンを手に取る、画面にはクラブのマネージャーの名前が表示されていた。


「なんだ!」


 開口一番にムハレムは怒鳴りたてる。だがいつもなら真っ先に流れてくるマネージャーの謝罪が聞こえてこない、それにムハレムは直感で訝しんで、さらに眉間に皺を寄せた。

 

「おいおい、まだ何も言ってないのに怒鳴るなよ。ここのスタッフも大変だな、結構儲かってそうなのに、俺もずいぶん持っていかれたんだぜ?」


 明らかにいつものマネージャーではない声と態度。表示された名前を確認する、だがそこには間違いなくクラブマネージャーの表示。


「ニコライ・ラスコーワだ、会合で見たことぐらいはあるよな? おい切るなよ、大事な要件があるからな。あと悪いがこいつを借りるのにマネージャーには、トイレで少し休憩してもらってる」


「なんのつもりだ……」


 ムハレムの激しい怒りが声から滲み出る、それからギリギリと歯軋りをしながら返答を待つ。


「生憎と俺の携帯も監視されている可能性があってな、それとこうでもしないとあんたは話もさせてくれないだろう」


 ニコライはいつも通りのへらへらとした態度で声を発し、その片手間でギャンブルを続けていた。


「舐めた口を聞くな三下の蛆虫がっ! !」


「てめぇこそ痴呆の老人みたいに何度も怒鳴ってくるんじゃねぇ、やかましい」


「貴様……」


「もう一度怒鳴って、今度こそこの話を台無しにしてみるか? それともあんたは親父の死に関わる話を聞きたくないのかね?」


「なんだと……?」


「それと俺個人も関わる話、というかお願いだな」


「続けてみろ、内容によってはお前がこのホテルから生きて出ることはないぞ」


「いや、どんな事だろうと俺は出られるさ……だがそんなことはどうでもいい。それよりこのままだとお前はいずれ殺されるぞ、あんたの父親を惨たらしく殺したのと同じ奴にな。そしてこの街からはあんたらイストレフィが丸ごと消える」


「どういう意味だ」


 冷水を浴びせかけられたかのように意識が覚醒し、感情が抑えられ。ムハレムの思考がハッキリとし始める。表情からは憤怒の色が消え、冷静な思案する男の顔になった。


「当然カルテルがって話じゃない、俺たちクラスニークルーグいや、その幹部と部下の思惑でな」


「ヘレナ・マーガレットの事か……?」


「彼女だけではない、アレクセイ……レオニードヴィチ・サハロフのことだ」


「アレ……誰だ?」


「ヘレナの護衛、一番のお気に入りだ。最近街に来た若い男でまだガキ――会合で彼女の傍に立っている奴だ」


「あぁ、あいつか。見た覚えはあるぞ」


 脳裏に浮かぶヘレナの背後に立つ少年の姿、低い背ながらも黒いスーツに重々しい銃を提げていた。


「やはりこれを言っても無駄か、期待もしてなかったが。レオニードヴィチ・サハロフ……この名前から思い出すことは本当に無いか?」


「無い、一体何が言いたい? それと親父が殺され、俺達が狙われていることに何の関係がある」


「違う、ヤツが狙うのは組織じゃない、お前たち家族だろうな」


 ニコライの声色が微かに変わり、落ち着いたものになる。


「お前はユーゴ紛争終結直後、NLAの指揮官と大口の武器取引を行っただろ。だが渡したのは大量の銃器だけでなく、多くの恨み――取引相手である指揮官からの恨みも買っていた、殺し屋たちの所在地も取引条件として差し出したな? それにこいつは掟違反じゃないかな?」


「……」


 否定無き肯定を示す沈黙。


「お前はそれを殆ど気にもかけず、記憶にも残らなかったようだが。それがアレクセイの父親――レオニードサハロフの妻が報復として殺される切っ掛けになった」


「まさか……」


 取るに足りぬと頭の隅からも吐き出そうとしていた過去が、首をもたげて牙を剥き出しにして彼の目の前に姿を現した。


「そう、直接の仇である指揮官を父親が捨て身で殺し。息子のアレクセイは間接的な仇であるあんたとその家族を報復のために皆殺しにしようとしてる。アルバニア本国で厳重な警備を掻い潜り、組織の老いたトップを殺すのはそう簡単な事じゃない、相当殺しの技術が優れた者じゃないと無理だ」


 ムハレムは電話を耳に当てたまま、俯き考え込む。自分自身の行いによって、気が付かぬ間に追い込まれ、苦しまされてきたという可能性が生じてきていた。


「恐らくこの街に来たのは偶然だと思うが。あんたにとっては運悪く、ヤツにとっては幸運にも、遅かれ早かれ殺そうと思っていたターゲットに巡り合っていた訳だ。しかもあんたはその過去の一件で街を支配する大幹部までに上り詰め、大成功を収めているときてる、殺そうと思わないはずがないよな?」


 その時異常を察知した部下に知らされ、ユリアナがオフィスに入ってくる。


「それにヘレナはこの話を知っている。なんせ俺がここまでの事を調べて伝えたからな、その上で彼女はヤツを利用してあんたを追い詰め、彼女も裏からあんたらの首を締め付けてる。そういえば知ってるか? デルヴェッキオの奴だがもう死んでる、奴は俺達に裏切りを誘ってきたが断られ、ヘレナはそれを即座にカルテルに漏らして間接的に始末させたようだぞ」


 ムハレムの電話を握る手に力がこもり、高級なスマートフォンがミシミシと小さな叫びを上げ始める。


「俺はあの2人の好きにさせるつもりは無い、何としてでも俺が組織を掌握してやる……これで伝えるべきことは全てあんたに伝えた、警告もした。もしこっちに何かあってもこの話を頭の中に置いて方針を考えてくれ、少なくとも俺はあんたにとって悪いようなことは引き起こさないつもりだからな」


「どいつもこいつもふざけやがって! 貴様なんぞ知るか!」


「全く傲慢だな、いい感じでボスの貫禄が身についてきたか? どれだけお前が俺に息巻くろうが、あいつは人生掛けた使命に従って殺しに行くだろうな。奴はターゲットのモーテルにたった一人で乗り込んで部下を皆殺しにし。メキシコに住んでいた頃、またその以前に一体どれだけの殺しをしてきたかわからない、感情の無いたった一つの目的だけをインプットされた最悪の殺し屋だぞ。最後にお前が親父と同じ運命を辿った後、全てを台無しにするだろうな」


 ニコライは投げやりに告げる。


「そんなような殺人マシンが来ようが、お前が俺の邪魔をしようが何もかもが無意味だ。使い捨てのゴミ共が……」


「まあよく考えることだな、今後の行く末がお前さんの一挙手一投足で決まると言っても過言じゃないだろうよ」


 そう言い放ち、一方的に電話を切る頃にニコライはカジノの換金所に居た。そして手持ちのチップを全て現金に換え、わざと入り口の監視カメラに挨拶してホテルを後にした。

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