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紅椿  作者: 杉野御天
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ルイの事情②

ひとしきり買い物をしてわかったことがある。江理子は何かを買う時に値札を見ずにレジで初めてその値段を確認する。

それがどんなに高い額でも江理子は何食わぬ顔で支払っていた。


ルイは気になっていたことを口にした。

「エリコさんは、お金持ちなんですか?」

店内を物色していた江理子の手が止まる。

江理子は少し考え答えた。


「さぁ、わかんない...そういえば、そんなこと考えたことがないわ」


「そ、そうなんですか...」


ルイは母親がいつもお金に困っているのを見ていたので、江理子のこのような買い物の仕方が信じられなかった。

もちろんルイにはお小遣いなどは当然なかった。


たまに、500円を渡されて、自分だけの晩御飯を買いに行かされる程度だった。


「ありがとね〜、ルイちゃん、付き合ってくれて」

「い、いえ、私も楽しかったから...」

「じゃあまた今度ね!楽しみにしてるわ」

「はっ、はい!」


緊張した面持ちでそう告げて、ルイは江理子と別れた。

道中、ルイは不安に駆られた。


次にエリコと会う約束を取り付けたはいいが、ルイにはお金がなかった。

かと言って母親には頼れない。ルイの母親は何の為に必要な金かを必ず聞いてくる。エリコに会うためとはとても言えなかった。


「そうだ」


ルイは電話を取り出すと、ある番号にかけた。

「はい」

電話に出たのは、男だった。

「ぐすっ、し、シュウくん、今から会えない?あたし、○○駅にいるの...」

突然泣き出したルイに、電話の男は慌てた。

「どうした??」

「とにかくすぐ来て...会いたいの...」

「...わかった、俺が行くまでそこを動くなよ!」


プツッ


電話が切れると、ルイは途端に無表情になった。

泣いていたのはルイの芝居だった。

男はみんな、ルイの涙に弱いことを、本能的に知っていたからだ。

しかも先ほどルイが電話をかけたこの「シュウ」という男は、正義感が強く、「ルイを守れるのは自分しかいない」と思い込む、ルイにとっては非常に都合のいい男だった。


ルイは電話を見ながら冷めた声でポツリと呟いた。


「あんたの代わりなんて、いくらでもいる」


すべてはエリコに会うためよ...

エリコに会うためなら何でもするわ


しばらくして、シュウが血相を変えてこちらにやってきた。

ルイは咄嗟に芝居を続けた。


「ああ、よかった、シュウくん、あたし寂しくて...」

そう言ってルイはシュウの手を握ると、その手を胸の膨らみにわざと押し付けた。

そして何も言わず、上目遣いでシュウを見つめる。


ハッとした様子でルイを見ていたシュウだったが、ルイの上目遣いにゴクリと喉を鳴らすと、何も言わずホテル街に足を向けた。


(「ちょろい、ちょろいわ」)


ルイは心の中でほくそ笑んでいた。


ホテルに寄り、事が終わるとすぐにルイはシュウの腕にすり寄った。

「あたし、今月もママにおこずかいもらえなかったの、だから...」

「わかった...いくらいるんだ?」


シュウはルイと付き合いが長く、ルイの事情や母親の性格を知っていた。シュウの同情心を煽り、ルイはお金を無心する魂胆だったが、この正義感丸出しのシュウという男は、自分がいいように利用されている事など思いもしなかった。

ただ純粋に、「頼られている」と思い込んでいたのだ。


「えへへ、シュウくん大好き!」

「ああ、俺も大好きだよ//」


馬鹿な男...

男なんてみんな同じよ!

ちょっと甘い言葉を聞かせると、ゴキブリみたいにホイホイ湧いて、あたしの思う通りになるんだから......


(ああ、エリコ、早く会いたい...)


今日はどうする?ごはんでも行く?などと話しかけてくるシュウの声は、ルイにはもう届いていなかった。





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