電話
ルイは、警察署の前で江理子が別れ際に「また何かあったら連絡して」と差し出してきた電話番号が書かれたメモを取り出した。
電話をかけるのは、母親が外出している今しかなかった。母親のいる前で電話をすると、ケータイを取り上げられてしまうのだ。
まだ外から帰ってきたばかりで、夜ごはんも食べていなかったのにも関わらず、しん、とした部屋に取り残されたルイは、孤独に押しつぶされそうだった。
ガラスコップに活けた椿を見る。
「エリコ、あたしを助けて...エリコ」
一体何から助けて欲しかったのか。
ルイは祈るような気持ちで江理子に電話をかけた。
江理子はその頃、プレゼントを旦那に渡して、旦那からはブランドものの財布をもらい、ごはんも食べ終えて、ケーキを取り出そうとしていた。
突然鳴り出したケータイに江理子は驚いた。
「誰かしら?」
画面を見ると知らない電話番号がそこにはあった。
江理子は警戒しながらも、電話に出た。
「はい」
「......」
「どちら様ですか?」
「......」
「切りますよ?」
「......!まっ、待ってください、エリコ、さん!!」
「あら、あなたは」
「あたし、ルイです、今、お話、できますか?」
江理子は旦那の方をちらりと見た。
旦那は江理子の代わりにケーキを取り出して、ロウソクをつけ始めていた。
「...ごめんね、ルイちゃん。今ちょっと取り込んでて...明日の昼は時間が取れるから、ああ、もし良かったら会いましょう、ルイちゃんもう冬休み?うん、○○駅のスタバで...うん、はい、それじゃあね」
江理子は畳み掛けるようにそう言って半ば急ぎ気味で電話を切った。
プツッと切れたケータイを見ながら、ルイはしばし呆然としていた。
「明日エリコにまた会える!」と
ルイは歓喜に震えていた。
エリコ!エリコ!
ああ、なんて素敵な響きだろう!
これが恋なんだわ、あたしを助けてくれるのは、やはりエリコしかいない...
ルイが言っている『たすけてくれる人』とは、一体何からルイを、どのように助けてくれる人なのか?
漠然としたルイの気持ちが、ルイの中だけで盛り上がり、膨れて、ルイの心はまるで風船のようにふわふわと舞い上がっていた。