壊れた心
「はぁっ、はぁ....」
やっとのことで自宅にたどり着いたシュウは、先程の自分を見つめる氷のように冷たいルイの瞳を思い出していた。
はぁ、はぁ、はぁ
「ルイちゃん、シュウって最低だよね」
はっ
シュウは思わず振り返った。
あたりはシーンと静まり返っていて、もちろん誰もいない。
だからあなたは馬鹿なのよ
どっちがいいか、その足りない頭で考えてよ
あなたは恋に恋してるだけ
(そうよシュウ....
悪いのは全てあなたよ!)
あの時のルイの表情、なんと冷たく、なんと恍惚としていただろう!
「や、やめろ....やめてくれ...」
ルイちゃん、シュウって最低だよね
いい加減、夢を見るのはやめなさい!
江理子さん...
そうよシュウ、あなたよ!あなたが全部悪いのよ!
こちらを見下すルイの表情が、まるで掃き溜めを見るかのように嘲笑している。
「やめろ、やめてくれ!」
あなたが全部悪いのよ!
シュウが恋焦がれていた幻のルイがガラガラと崩れ落ち、本性を表したルイがシュウの耳元に、まるで毒を吹き込むように囁いている。
「あんたなんか、ただの金づるよ」
「うわぁあああああ!!!!」
シュウは頭を抱えてその場に座り込んだ。
いやだ....
いやだ.....
ただの金づるだったなんて
そんなの、そんなの、
「そんなの嘘だ」
突然何かを思いついたようにシュウは慌てて家に入り、ガタガタと何かを探しだした。
ほんとはずっと前からそんな気がしていた。
気づいていた。
俺はルイちゃんに騙されてるって。
でも、たまに見せるルイちゃんの笑顔がすごく可愛くて、愛らしくて、この子の為なら何でもしてあげたいと思ったんだ....
それが例え正しいことじゃなくても。
倫理的に間違えていても。
ルイちゃんにとってただの金づるでも。
ルイちゃんのそばにいて、あの笑顔を見せてくれるなら。
そばにいさせてよ!
ルイちゃん、これで終わりなんていやだ!
「そばにいられないのなら、いっそ....」
シュウは刃渡り15センチほどの出刃庖丁を探し、それを見ながらニタリと笑った。
「はは....俺の恋、壊れちゃった...俺の....」
(ルイちゃん、シュウって最低だよね)
俺の恋、壊れた。
俺の心、壊れた。