崩壊の音
その後、シュウは逃げるように江理子の家を飛び出した。
どこをどう歩いたかはわからない。
ただ江理子の家に居たくない、その一心で、大の男が泣きながら逃げていく。
(かわいそうな男....)
窓からその様子を見ながら江理子は思っていた。
でもこれで、ルイちゃんに利用される心配はなくなった....
辛いだろうけど、少しの間の辛抱よ。シュウ、これはあなたのため。
「あ、あの江理子さん」
江理子が振り返ると、頬をほんのり赤らめたルイの姿があった。
(この子は油断ならない....一体何を考えているの?ルイちゃん)
「さっきの啖呵、すごくかっこよかったです。あんなにあたしの事を考えてくれてるなんて、もうあたし感動しちゃって....」
「そう....」
(こんなに可愛い顔をして、あなたは何を考えているの?)
江理子はゾッとした。
ルイが自分を見る瞳。
これは、見覚えがある。
これは、恋をしている瞳だ。
ルイちゃん、まさか私を?
「ルイちゃん、私のことが好きなの?」
いきなりの質問にルイは驚いた。
江理子は無表情で見つめている。
お願い....違うと言って。
あなたと私は、友達のはずでしょう?
ルイは俯いて震えていた。
「ルイちゃん?寒いの?」
違う。これは喜び。
ルイは喜びのあまり震えていた。
嗚呼....
江理子。全て知っていたの?
全て知ってくれていたの?
だからあの忌々しい男を、あたしの前から消してくれたの?
しばらく俯いて答えに戸惑っていたルイだったが、やがてその唇がニヤリと弧を描いた。
「そうよ....そうなの....あたしは、江理子が好きなの」
その瞬間、ルイは自分の心の中で何かが崩れていく音を聞いたような気がした....