1 始まりの始まり
ーーーーん?ここは?
俺は屋内のベッドの上で目を覚ます。
なぜ俺はベッドの上に……?
確か俺は……森の中で……
ーーーーダメだ思い出せない
「あら、気が付いたのね」
俺は声の主の方を見る。
そこには16.17才くらいの少女がタオルを持ちこちらへと向かって来ていた。
サラサラとした金髪で西洋物のドレスを着こなし、整った顔立ちはまさしく人形のようだった。
(やべぇ……俺英語喋れねぇ)
俺の脳みそは彼女を日本人とは判定せず、混乱を引き起こした。
「ハ、ハロー。ナイストゥーミーチュー」
発音の可笑しな英語で挨拶をすると、彼女は半分呆れたような笑みを浮かべ
「あのさぁ……さっき私普通に日本語をしゃべったよね?」
と言った。
(そ、そうだった)
恥ずかしさのせいで太陽のように真っ赤になった俺を見てか彼女は、うふふ、と笑っていた。
「自己紹介しないとね。私はアリス。アリス マーガトロイドよ」
「アリス……なんだっけ?マーガレット?」
「……アリスでいいわよ」
「じゃあアリスさん。いやミス アリス。貴女日本語上手ですね」
「だから外国人じゃないから」
「それにしても……僕は何故ここに?」
「あぁ。それはね貴方が迷いの竹林で倒れていたからよ」
「迷いの?竹林?」
「あら。その場所を知らない所を見ると貴方は外来人ね。安心して私は人を食べたりはしないから」
「食べる?どゆこと?」
「ここはね外界から忘れ去られた物が行き着く場所。まぁ皆は幻想郷と呼んでいるわ」
「幻想郷?」
「そう。結界が張られているから普通なら外界の人達が侵入することは不可能なんだけど、たまに貴方みたいに迷い込んでくる人がいるのよ」
「……からかってるわけじゃないよね?」
「貴方をからかっても私には何の得もないわ。話を戻すけど、ここには人だけが住んでるわけじゃないの。人を食べる妖怪、神様、吸血鬼、そして私を含む魔法使い」
「貴女が……魔法使い⁉︎」
「怖がらなくてもいいわ。さっきも言ったけど食べたりはしないから」
「いや……魔法使いってもっと年老いて意地悪そうなイメージだったから」
「……外の世界ではそのようなイメージなのね」
俺は腕に着けていた腕時計を眺める。
時間は午後6時を過ぎていた。
「いけない!そろそろ帰らないと」
助けてもらったお礼を告げ帰路へと向かう俺をアリスは止める。
「貴方私の話聞いてた?ここは貴方がいた世界とは違うの。言いにくいけど家には帰れないわ」
俺はその場で硬直する。
ーーーーーー嘘だろ……
こんな知らない場所にいきなり連れて来られて、しかも人食い妖怪がいて更に家もないし金もない。
そして何より……知り合いがいない。
これ程までに完璧な孤独は中々味わえる物でもない。
「……どうすればいいんだよ」
俺は自分の立たされた現実の恐ろしさをようやく理解し、絶望で目の前が真っ暗になった。
「貴方の気持ちは解るわ。とりあえず今日は家に泊まりなさい。明日朝霊夢……博麗の巫女の所に行きましょう」
「博麗の……巫女?」
「ええ。彼女なら結界を開けることが出来るはずよ」
「なら!今すぐに」
「今は危険だわ。妖怪の活動時間にもう入っているから。私はともかく貴方なら一瞬であの世行きよ」
「……」
「腑に落ちないのも解るけど……ね?とりあえずご飯食べましょ?何か作ってあげるから」
「すまない。アリスさん」
「だからアリスでいいって」
1時間後
俺はアリスが作ってくれたビーフシチューを食べていた。アリスが料理を作っている間にこの家を探索してみたが、この家は意外にも広く女の子1人が暮らすには広すぎるくらいだ。
「ところで……貴方名前は?」
向かいで食事をしているアリスが尋ねる。
「私だけ名前を名乗るのは理不尽じゃないかしら?」
「あぁすまない。俺の名前は……」
俺の名前……なんだっけ?
ていうか……俺って誰だ?
「名前は……」
「貴方……もしかして記憶が……」
「分からない。俺が誰で何をしていたのかも……全て分からない」
「そう。困ったわね。記憶がないんじゃあ元の世界に返しようがないじゃない」
「……!そんな⁉︎」
「だってどこにいたのか分からないんでしょう?」
俺は無言で頷く。
「……一応明日行ってみましょ。もしかしたら何か思い出すかも」
「……ありがとう。優しいな……アリスって」
「そんな事ないわ。でも……何故か貴方は放っておけなくて」
俺たちは食事を終え明日やるべき事を確認するとお互い別々の布団に入り眠りについた。
俺は一体どうなってしまうのか……
不安で中々眠りにつくことが出来ず、結局一睡もすること無く翌朝を迎えた。
「おはようアリス」
「おはよう名無しさん」
「おいおいその呼び方はやめてくれよ。俺にも名前はあるんだからさぁ……多分」
「でも私は知らない」
「……俺も知らない」
「なら、適当に決めれば?思い出す間だけの呼び名を」
「……呼び名かぁ」
しばらく考え俺は呼び名を決めた。
「俺は今から信道 光だ!」
「ふーん……なんで?」
「信じた道に光があることを願ってきめた」
「なるほどねー考えたわね」
俺とアリスは身支度を整えると、家の外へと踏み出した。この先に待つ光を信じて