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おじさん と ボク、ボク と おじさん

作者: a-su

もし、黒いタキシードに 黒いハット帽に 壊れている金色の懐中時計をぶら下げて杖を持っている、いかにも男爵っぽい おじさんを見つけたら どうか喋りかけてあげてほしい。

おじさんは、強くて優しい人だけど、根は弱く寂しがりやなんだ。だから見つけたらどうか喋りかけて友達になってあげてほしい。ボクみたいに・・・。


もう、ボクは この世には存在しない人間だ。

 ボクとおじさん との出会いは、ボクが小学校2年生の頃だった。おじさんは、ボクがいつも遊んでいた公園の大きな木の下のベンチにいつも同じ服装で杖にもたれて座っている。 おじさんは無表情でひたすら子供の遊ぶ姿をみつめていた。 そのうち子供の間では不気味がられて当然のごとくあだ名が付けられた。 おじさんのあだ名は

「死神」だった。 それがどんどんエスカレートし、”触ったら死ぬぞ”という子供さえでてきた。 それでもおじさんは いつもの場所でいつもいつも子供達を無表情で眺めていた。

ある日、僕達がドッチボールをしていたらボールが弾みで死神のベンチの下にはいってしまった。死神は知ってか知らずか、相変わらず無表情で子供達を眺めていた。僕達はジャンケンでボールを取りに行く役を決める事にした。 言うまでもなくボクが負けたのだ。 ボクは死神の方に恐る恐る行き、声を震わせながら言った

「すいません、ボールが・・・。」

すると死神はベンチの下にあるボールを座ったままとってボクに差し出してきた。その時、死神がニコッ〜 と微笑んだ。 その時はみんな悪魔の微笑みにみえて、いっせいに叫びながら逃げたのだった。その夜 ボクは お母さんに頼まれて買い物に行かされる事になった。 近くのスーパーに行くには、死神のいる公園の前を通らなくてはならず あんまり行きたくはなかったが お母さんも夜遅くまで働いてくれてるため 僕がわがままを言う事はできなかったのだ。 

そとに出てみると、お月様は 大きな真ん丸い円を描いていた。それは ほれぼれするぐらいの美しい満月だった。 しかし11月の肌寒い気温がすぐに現実にもどしてくれた。 もう夜だし死神もいないだろう、と思い さっさと御使いを終わらそうと思った。

そして問題の公園の前を通りかかるとボクの足が凍りついた。

まだ死神がいたのだ。

 しかし死神は杖にもたれかかって うつ伏せになっていた。

 寝ているのか、と思ったが背中が刻みに動いているので そうではなさそうだ。 耳をすましていると ”シクッ、シクッ” と言う声が聞こえた。 死神は泣いていたのだった。 ボクの恐怖感は、いつの間にやら消え おじさんに自ら近寄っていった。 満月の月と 大きな木と ベンチに座って月明かりに照らされている おじさん は凄くいい絵になっていた。

泣いているおじさんにボクは喋りかけた。

「昼はごめんなさい・・・。」

すると おじさんは顔をあげて ボクの方を向いた。

「あ〜、昼の坊やか。何を謝ってるのかね。」

「おじさんを見て逃げた事や、死神とか言った事・・・。」

すると おじさんは笑顔になって言った。

「はっ はっ はっ、私のあだ名は死神か〜、残念だが私は死神にすら見捨てられたよ、はっ はっ はっ。 坊やがそんな事気にする必要はないよ。」 と言い僕の頭をなでてくれた。 おじさんの声は太く優しく 頭をなでてくれた手は凄く大きく ボクの心は なぜか落ち着いた。ボクのお父さんは ボクが小さい頃に病気で亡くなったらしいので お父さんの記憶はあまりない。 なので、おじさんの優しさが凄く居心地良かったのだ。 おじさんを一人占めしたい という気持ちからか、次の日学校でも昨晩の事は誰にも話さなかった。母は毎晩9時くらいに帰ってくるので、それまで毎晩 おじさんの居る公園に通いはじめた。 そして、学校の事や 悩み事や 自分の事を色々と話した。 おじさんは なに一つ嫌な顔せず 小2のボクの話を真剣に聞き ボクの悩みを真剣に考えてくれた。  父が亡くなり、母がボクを一人で苦労しながら育ててくれてる事を話したら、大きくなったら親孝行してあげなさい、と教えてくれた。

 学校の同じクラスの子が好きなんだ、と言うと いろいろとアドバイスをしてくれた。

 しかも アドバイス通りにしたら 小2ながらうまい事いった。

 とにかく おじさんは何でも教えてくれたし なんでも知っていた。

 話だけではなかった。 おじさんは キャッチボールやサッカー、手品や色んな事をして遊んでくれた。 たぶん周りから見れば 普通の親子に見えていただろう。 でも、ボクはそれでも良かった。 おじさんが お父さんならな と思う時は何回もあった。

ボクが小5年生になった頃 お母さんは 相変わらずボクの学費などのために 色々とがんばってくれていた。 ボクはおじさんの教え通り 親孝行するため毎日 勉強した。そのおかげで成績はクラスでは上の方だ。

夜になると、ボクからすれば 良い相談相手であり 父親と、言うても過言ではないくらいの おじさんのいる公園へいく。 その日ボクは今まで暗黙の了解でタブー と思っていた おじさん自身の質問を星を眺めながらしてみた。

「おじさんに 質問していい」

「おう、なんだね。」

「おじさん、家族は?」

「家族はもういないな〜」

おじさん、いつも ここで何をしてるの?」

「子供を見ているのさ。」

「おじさんは、一体・・・誰?」

「そうだな〜、坊やが30歳くらいになったら教えてあげるよ。」

すると星を眺めていた おじさんは、ボクの方を向いて言った。

「君はもう大人になった。 君と過ごした3年間は、凄く楽しくて充実していたよ。 でも私がこれ以上いたら 君は成長しなくなるような気がしてね〜。 だから、一旦お別れだ。 君が30歳くらいになって 私の事を覚えててくれたら また会いに来てくれたまえ。」

あまりにも 突然な事だったが、何故かこうなる事は分かっていたような気がしていた。 しかし ボクは、涙を抑えるのが必死で 返す言葉もなかった。 おじさんは、目頭に溜まっていた涙を そっとふき取ってくれると 立ち上がり、よちよちと歩いていった。 それ以来 ボクの前にも、公園にも姿を見せる事はなくなった。



それから月日は達、ボクは親孝行するため 良い高校に行き、良い大学にもはいって 良い会社に就職した。 そして、なんと 

ボクが小学校の時に好意を寄せていて おじさんのアドバイスで何とかなった子と結婚もしたのだ。 子供も授かり、ボクはそれなりに幸せな家庭を築き、良い人生を歩んでいた。

しかし、人間の記憶力というのは、凄く乏しく 月日が流れるにつれて、おじさんとの記憶が薄れてきた。 そして、25歳の秋 ボクの唯一の母親が死んだ。 母は癌だったが 発覚してもボクに心配かけまいと ずっと黙って元気な振りをしていたのだった。 母はボクがずっと小さい頃から ボクのためにガムシャラに働いていたにで ボクが殺したんだと 自分を責めた事があったが、母が最後に残した言葉

「強く たくましく生きなさい」 という言葉に助けられた。 

でも、それからというもの ボクの人生の歯車は狂い始めてきたのだ。

 27歳の頃 ボクが勤めていた会社の経営が傾き、ボクはリストラにあった。 そしてボクは次の就職ができないせいか お酒に手をだしてしまったのだ。 妻はそれを見かねて 子供を連れて家をでていった。 でも、ボクはそれをとめなかった。 なぜかと言うと ボクも 妻がボクから離れた方が幸せになる事は知っていたからだ。これを母が見ていればなんて言うだろうか。

 ボクは身内もいなく 職もない。

 人生のどん底があるとしたら、今がそうなんだろうと思う。

 しかし、まだ そうではなかった。

 29歳の時 ボクは 相変わらずお酒の力に頼って、過去を忘れようとしていた。 コンビニに武将髭を生やし お酒を買いに行く途中に、いきなり目眩がして倒れ 救急車で運ばれたのだ。 病院のベッドで目が覚めたが、周りには誰もいなかった。 そして次の日、診療室に連れていかれ 先生から衝撃の事実が打ち明けられたのだ。 

「あなたの 病名は 癌 です。 あと3ヶ月、いや半年もったらいい方でしょう。」 

ボクは放心状態だった。 お母さんの事をかんがえていた。 お母さんが どうしようもない ボクを連れて行く事にしたんだな〜、と思った。 ボクは身内もなく入院しても手術しても 生きていても意味がないような 気がして、そのまま病院を後にした。

ボクは夜の繁華街を行くあてもなく、うろちょろしていた。 気づいたらボクは大きなビルの屋上にいた。 どうせ3ヶ月で死ぬなら 今死んだ方が 3ヶ月も苦しまなくて済むと思い身を投げる覚悟だった。 

セーフティフェンスをよじ登り ビルから飛び降りようとした時 上を向いたら 月は真ん丸い満月だった。 美しかった。 ボクは 小学校の時を思いだした。 おじさんの事だ。 ボクは自殺を中止し、おじさんのいた公園へ行く事にした。行く途中に、店のショー・ウィンドーにボクの姿が映った。

髭が生え、今じゃ可愛かった小学生の面影は一つもなく、おじさんがいても ボクの事を覚えててくれてるか不安になった。 それでも ボクは、おじさんに会いたくて公園まで小走りで走っていった。 公園に着いた頃はもう夜中の2時だった。考えてみると、今日はボクの誕生日で丁度 30歳になった。そして、恐る恐る公園を覗いてみた。

ボクは自分の目を疑った。 満月の月と、大きな木と、月明かりに照らされてベンチに座っているおじさん、小学2年の時 見た風景と変わってないのだ。 それは美しく一枚の絵のようだった。 たった一つ変わったとすれば、おじさんが泣いていない事だけだ。

ボクはおじさんの方へゆっくりと歩いていった。 おじさんの前で足を止めると、おじさんがボクの顔の方に 顔をゆっくりと向けて、ゆっくりと立ち上がった。 そしてボクに尋ねた。

「あの時の坊やかね」

おじさんは、覚えててくれていた。

 ボクはゆっくりと うなずくと おじさんはボクをそうっと月明かりの下で包み込んでくれた。 ボクは小学校の時 頭をなでてくれたみたいな気持ちになった。 凄く心が安心し 病気の事や過去の事など 全てがどうでもよくなって子供の頃のような気持ちになった。 ボクは涙がでたが、また おじさんがふいてくれて、おじさんがいってくれた。

「苦しかったな、立派な大人になったな。」

ボクはなにも言ってないのにおじさんは 何でも知ってるって感じだった。

その夜、ボクは今までのいきさつをすべてはなした。 おじさんは昔と変わらずボクのはなしを真剣に聞いてくれていた。 そして、あの時の質問をもう一度聞いてみた。

「おじさんは、一体 誰なの?」

おじさんはこう答えた。

「信じるか分からないが、私は今年でもう254歳になるんじゃよ。 私もかつて命を失いかけた事があって、神様と取引をしての、それが事の始まりじゃ。 私が25歳の時、病気でもう死に掛けていた。 そんなある日、神様が夢にでてきての〜、私にこう言った。 

”命を取りとめたいか。”

私には家族も子供もいたから 迷わず はい と答えた。 すると神様は、

”よろしい、そのかわり お主に条件を出そう。世界中の子供達を幸せにするのじゃ。” そう言うと神様は 金色の懐中時計を渡してきて目がさめたんじゃ。 夢かと思ったら手には金色の懐中時計を持っていたんじゃよ。」

そういうと、服に掛けていた金色の懐中時計をみしてきた。

しかしその懐中時計は動いてなかった。

「おじさん、この時計壊れてるんじゃない」

「そうなんじゃ、ゼンマイを巻いても時計屋に修理を頼んでも動かないんじゃ。 そして、神様がいうていた 子供を幸せにしろ というのはどういう事かずっと考えてるうちに 気づいたんだが、なぜか、私は死なないんだよ。 私は今までの間、自分の愛する人、自分の大切な人、そして最愛の息子達の死を、まのあたりにしてきた。 どうして、・・どうして、私は死なないんだっ!! どうして私は バカな取引をしてしまったんだっ!!。」

そういうと、おじさんは泣いてしまった。 そういえば小学校の頃 おじさんが泣いていた理由が今 わかった。

その後も、おじさんは色々なことを 教えてくれた。 

神様との取引のあと なんとなくだが 子供の心が読めたり、子供の将来がよめたりするらしい。 そう いわれるとボクが自殺する事を予知してたかは知らないが、30歳に来い といった理由が説明つく。

ボクは残り少ない預金でお母さんと住んでたアパートを借り、殺風景であっけない部屋だが そこに住みはじめた。

おじさんも、一緒に と誘ったが、おじさんは来なかった。

それでも毎日 子供の頃みたいに、おじさんの所へ 30歳の大の大人が遊びに行った。 おじさんと いると心が穏やかになり、なにしろ一緒に居るだけで楽しい。 子供の時みたいに キャッチボールやサッカーとかした。 そして一緒に風呂へ行ったり、ご飯をたべたり、ボクの残りの白黒の人生をカラーにしてくれた。

しかしボクの体力は徐々におとろえ、ついに、おじさんに会いに行く途中で倒れて、また救急車で運ばれてしまった。

ボクは思っている以上に体力が衰えて いつ死んでもおかしくない状態だったとおもう。

ボクはゆっくりと目を開けた。 ここは病院のベッドみたいだ。 周りをゆっくり見回すと、おじさんがいた。 ずっと、ボクのそばにいてくれたんだ。 

おじさんは、ボクの方を向いて ニコッ と微笑んだ。 ボクも体に力が入らなかったが、懇親の力を振り絞って 微笑んだ。

外をみると雪がふっていた。 

ボクはおじさんに最後の質問をした。

「ボクって死ぬんでしょ?」

おじさんは、ボクの手を取り 顔を引きずりながら微笑み、軽く一回うなずいて 語りだした。

「私は今まで、人との別れが怖くて 人と関わるのを避けていた。 しかし、それは過ちだと君が教えてた。 そして神様が与えてくれた すばらしい役目も君のおかげで気づいたよ。 私はこの先 何年生きるか分からないが、君の事は 忘れない。」

ボクは、おじさんの涙を、親指で取ってあげた。 おじさんはボクの手を取り 布団の中に収めて、愛用の杖をもって病室からでていった。

その数秒後 病室の扉が開いた。 

妻と子供だった。 妻はボクの胸元で泣いてくれた。 ボクは今から死にに行くのに、子供の顔も見れてなんだか幸せな気分だった。 今なら お母さんに胸を張って会いに逝けそうだ。 素敵なプレゼントありがとう。 おじさん。


享年 30歳


2005年 12月25日没



もし、黒いタキシードに 黒いハット帽に 力いっぱい動いてる金色の懐中時計を ぶら下げ、杖を持っている いかにも男爵っぽい おじさんを見かけたら どうか喋りかけてあげてほしい。

おじさんは、強く優しい人だけど、根は弱く寂しがりやなんだ。 

だから見かけたら喋りかけて 友達になってあげてほしい。


ボク以上に・・・。

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