ラネイシャの見方と思わぬ誤解
「それは! ……それは、俺の周りに助けてくれる仲間がいたからです。何も俺だけがやったんじゃない。それじゃあ、ラネイシャやアーニャが不憫だ」
悠人はサーシャの言葉に対し強めに返した。
そのことは当然サーシャも感じている。そして、それによって危惧もしている。
悠人だけを強くすること……それ自体は国のためになるからいい。
しかし、独りで強くなってしまっては悠人はいずれ孤高の人物に成り果ててしまうのではないかと思った。
(そう。 お爺様のような孤高の人物にさせてはいけないのよ)
アルベルトは名を馳せた英雄に近しい人物であった……と聞いている。
ただし、彼にも一つだけ欠点があった。今でこそサーシャが思うに欠点……というだけで周りからは全くそんなこと思えない事であった。
(お爺様は他のものよりも魔術の才が抜きん出すぎたの。 それでいてあの厳かな顔。 皆、恐怖に落ちるのは必至。それ故に誰にも寄り付かれない……。自分から寄せ付けていないわけではないのに……)
だからといって、女王からの命はあくまでの悠人だけ。アーニャはもともと悠人の付属品みたいなものだからいいとしても、ラネイシャは難しい。
ラネイシャの能力は高い方だ。お世辞ではなく、高い。現に、特進クラス一歩手前のランクにいる。
魔法の才に加えて、アイナの指導もあって剣技にさらに磨きがかかり、より実戦向きの魔法師になっている。
そんじゃそこらの兵士よりは絶対に強い。それは間違いない。
しかし、能力的には抜きん出ていないのだ。ラネイシャよりもっと強い魔法師を散々見てきたから分かるが、その者たちには遠く及ばない。
「アーニャは一緒に行ってもいい……。しかし……」
「え? いいんですか?」
突然、ドアが開けられて中から正真正銘のアーニャが出てきた。
「悠人と一緒に行ってもいいんですよね?ね?」
アーニャはサーシャに詰め寄り肩を揺さぶりながら、言った。
「ゔぉぉぉい! やめないかぁぁぁ!!」
「アーニャ止めろ! 失礼だぞ」
悠人の言葉でアーニャも「はい」とぱったりと辞めた……。
「いや、えーっと? ちょっと待って。アーニャ?」
「え? はい! アーニャ・ストラータです!」
ビシっと敬礼のポーズをとって答える。
(ん? 待って。 これってシュミレーションなのよね……)
話が思いの外進みすぎてしまってそのこと自体がそっちのけになってしまっていた。
「ねぇ、アーニャ?」
「はい、なんでしょう?」
サーシャは顔を伏せて、アーニャに尋ねる。
「これは、シュミレーションなのよね……」
「はい、シュミレーションと言う名の本番です!」
「そう……歯を食いしばりなさい!」
そう言って、アーニャの懐に手をついた。
「え? ぎゃあああああ!!!」
窓、どころかその下にある壁まで突き破ってアーニャはグラウンドに吹き飛ばされた。
悠人はそれを引きつった顔で見届けていた。サーシャは怒らせたらやばいということを再認識した瞬間であった。
しかもあたかもさっきの出来事がなかったかのようにえぐれた壁がサーシャの魔法によって元どおりになった。
それに限っていえば、悠人はサーシャに対して尊敬の念を向けた。
(やはり彼女は見た目では計り知れないオーラがあるな……)
と、修復が終わったところでサーシャが咳払いとともに悠人の方へ向き直った。
「ということで、あなたは事実上は退学です。……これに関していえば、仕方のないことです。しかし、待遇に関していえば女王のそばにいてこの国を守るという地位に付けるのですから、十二分に評価されているということを心に留めておいて下さい」
「はい」
悠人はそれに関して抵抗もなく、ただただ頷くしかできなかった。
アーニャは少しよろけ気味に校舎の中へと戻っていた。痛みは、咄嗟に精霊化したので、壁に受けたものだけだった。
悠人がサーシャの命令にも似た退学通告に対してどんな返事をしたのかは心の中を読んだから分かっていた。
それにしなくても悠人は頷くという自信がアーニャの中になぜかあった。
しかし、試練はここからであるということはアーニャも薄々感じている。
この平和をいつまでも維持していくためにはヴィッフェルチアはまだ戦力的に弱い。いくら暗部がいたとしてもそれでは兵力になっていない点で意味がない。
だからこそ表向きの力での権力者を立てる必要があると思っていた。
アリスフィアをただの象徴にしてしまえるほどの絶対的力を持った者……。
アーニャは校舎の中に入り、学園長室へと向かう中でそんなことを考える。
「あれは……」
ふと横目に、闘技場が見えて中ではラネイシャとアイナが稽古をしていた。
ラネイシャは家のために強くなろうと頑張っている……。貴族の家柄だから……というのは統計的にどうなっているかと言われればその通りである。貴族イコール魔法に優れたエリートというのは覆らない。
しかし、交配の関係で魔法師と一般人との間に出来た子であれば話は変わってくる。ラネイシャとはそんな親との間に出来た子供であった。
と、アーニャの調べたことによるラネイシャのデータであった。
ラネイシャがアイナに向かって必死に立ち向かっていた。何度も返されても立ち上がって、また立ち向かう。
彼女の真面目さによるとしてもそこまでして強くなりたいのかはアーニャには分からなかった。
というのも、ラネイシャは貴族の家の出であるが、もう既に長男がいるために家系の面子はそれで十分に保てていた。
だからといって、ラネイシャが落ちこぼれでは話にならないが、現実そうではなく優秀であるからそんなことはない。貴族としては十分過ぎるほどに大きな家だといえよう。
(強さを示すことで……殿方に……ううんそれはありえない……)
その考えはアーニャの頭の中に選択肢としてなかった。
ということになれば、アーニャが考えある中で答えは1つしかなかった。
(私と同じ……か)
必死で汗をふくラネイシャを最後にアーニャは学園長室へと小走りに向かった。
悠人の今の心境は敢えて一言で表現するならば、虚無感だった。
サーシャから退学と言われた時にはとてもショックだった。しかし、その後に女王直属の魔法師にいきなれることには正直驚きを隠せない。
ぶっちゃけ、どうしたらいいか分からないのだ。
廊下をトボトボと歩きながら、考えに耽る。
「はきゃっ!?!?」
下を向いていたせいで、女生徒?か分からないが、取り敢えず女生徒ぶつかってしまった。
「すいません、大丈夫ですか……って……」
それは昨日保健室に向かう際にぶつかった女性だった。
「あたたたた……。 こ、こちらこそ前方不注意だし、身長ちっさすぎて目につかなくてごめんなさい!」
なぜか、こちらが悪いはずなのにブンブン頭を振って謝ってきた。
その姿に悠人は苦笑しつつも、パスを持っていたことを思い出して、彼女の前に差し出した。
「はい、これ。昨日ぶつかった時に落としましたよね」
「わっ、これ……良かったー! 見つかってーー! たびたびありがとうございます!」
「いや、だからそんな大層なことをした覚えはありませんからそんなにしないでください」
手をワナワナさせて、悠人はをアンリエッタを制止させる。
「それでですね……」
悠人はそのパスに目線を向ける。それで彼女も何を問うているのか分かったようだ。
「そうですよね……これを持ってるということは見ましたよねー当然」
と言った瞬間に銃が出されて引き金が引かれた。
銃口から弾が飛び出して悠人の方へと向かってくる。
悠人はそれを避けた。
その瞬間はまさにコンマ4秒という間だが、その瞬間までにそれまで把握してかつ避けられるようになったのはこの世界のおかげだといえよう。
「どういうつもりですか!?」
「私がよそ者だと知られるのは不都合がありますので……私もこういうことは恩人にしたくはありませんが、組織のために仕方ありません」
銃を構える幼女。
その姿では、銃を使っているというよりも銃に使われている感がいまひとつ拭えない構図であった。
悠人も剣を構える。
アンリエッタは窓を壊すこともお構いなく、銃を乱射した。
それを全て躱す。
正直、悠人としてはいまひとつ張り合いがなかった。というよりも、今まで戦ってきたものが大きすぎて今のこのシチュエーションが小さく見えてしまっていた。
だから悠人は、捕獲を第一に考えた。捕獲、および無力化それが一番この場を収めるのに手っ取り早い手段だと思ったからだ。
「あれ? なぜでしょうね。私の銃がかすりもしません。こんなに乱射すればいくら魔法師とはいえかすりくらいはするでしょうに」
「あなたはよそ者だから知らないだろうけど、そんなに魔法師はやわじゃないですよ」
アンリエッタが弾丸を放った瞬間に後ろに回り込んだ。
「これで、え?」
完全にアンリエッタの背後を取って剣を振りかざしたところで悠人に向けられている銃が目に入ってしまった。
それは、アンリエッタの脇の空間から伸びていた。
もう既に悠人は剣を振ってしまっている。避けるのは至難の技であった。
剣を振るのを停止して、剣を戻しながら銃口の先から導き出される弾が進む線を避けるようにして移動する。
弾がアンリエッタの指によって発射されて悠人のお腹の方をかすめた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
もう秋の季節がやってきて、日が暮れるのも早くなってきたのをひしひしと感じております。
前も言っていたようにこれで一旦、更新を中断させていただきます!
中断ですのでやめるつもりは毛頭ありません。そこはご安心下さい。
期限もだいたい決まっていて、来年の一月までとなってます。
皆様にはご迷惑をおかけしますが何卒よろしくお願いいたします!
ではではー
中断だからってマジ途中で終わんなやー(読者の声)
すみません!すみません!(アンリエッタ)
小椋鉄平