巨大敵国
「ら、ラネイシャーーーーーーーーー!!!」
その声は闘技場に木霊したのだった……。
「ラネイシャの様子はどうですか?」
悠人はラネイシャを保健室へと運び込み、マイン先生に診てもらっていた。
「いや、これくらいで慌てる事じゃないさ。たかが全身打撲で……」
「ぜぜ、全身打撲ぅぅぅぅぅーーー!!」
いや、これくらいじゃないと思いますよせんせーー!!
「一日、寝てれば大丈夫だ」
「はぁ!? いくら先生でもそれは明らかなサバ読みでしょ!?」
思わず、思ってることがそのまま口に出てしまった。
それほどまでにマイン先生が発したことに驚きを隠せなかった。
マイン先生は椅子に深く腰掛けて脚を組んで、悠人の方を向いていた。太ももから見えそうで見えない絶対領域を作り出して非常に悠人としては目のやり場に困る格好であった。
悠人は立っていたので必然的にマインが上を向く形になっていた。
「いやいや、むしろ長いくらいだよ。 こんな程度に一日かかる程度の医療魔法しか使えない私を憎んでくれていい……」
そう言って、マインは申し訳なさそうに下を向く。
「あ……い、医療魔法スカ……」
その事は悠人の頭には完全に無かった……。
マインの言葉に納得し、ベッドに横になっているラネイシャを遠目に眺める。
「何? あの子のこと、気になるの?」
マインが悪い笑みを浮かべながら、悠人に尋ねた。
そんなマインの表情を見てすぐに男と女の話なのだと悟った悠人はマインに対して白目を向けた。
「そうじゃありませんよ。今は、絶対に。 ただ、よく俺のことをなぜか気にかけてくれるし、これだって俺のせいでこんな事になってるのに意識を失う前に俺に向けて笑ってるんですよ。そんな子を先生に丸投げしてなんて出来るわけないじゃないですか。少なくとも俺は何も出来ないけどそばにいる事にします」
「………そっか。 だから君は好かれるんだろうね」
悠人の発した言葉にマインはため息混じりにそう言った。
悠人はマインの言った言葉の真意が分からず、首をかしげるしか出来なかった。
「ナイルダルクとヴィッフェルチアとの戦争に関しての報告は以上です」
伝令をした兵士がうやうやしく頭を下げ、その部屋を出て行く。
その部屋はまさに王が鎮座するのに相応しい大きな空間にカーペットが敷かれた先に黄金に輝く、王の席があった。
ここはヴィッフェルチアと双璧をなすダルテバルト王国。
ヴィッフェルチアと同じ魔法大国にして、世界一とも称される軍事国家である。
ヴィッフェルチアと異なるのは権力にある。ヴィッフェルチアは王はいるものの政治に関してはほとんどが議会で決まる。つまり、ヴィッフェルチアは多数決で政治を回す。一方、ダルテバルト王国は絶対的権限を王に収束させている。つまり、決定権は王だけにある。
いわゆる独裁国家というやつであった。
「ほう、ヴィッフェルチアの者共は平和ボケした者たちの集まりと思っていたが、やる時はやるようだな……。 少しばかりつついてみるか? なぁ?」
「いえ、それは双方にとっても不利益を被る結果になると思われます。戦うのであれば少しではなく思い切りやるべきです」
「……フフフ、ナバラシュよ。お前はよく俺のことを分かっている」
「ええ、ナハト王。ありがたきお言葉に存じます」
王の席の横にいた。黒い和装を身にまとったナバラシュと呼ばれた男が頭を下げた。
「では、後は任せた。 信頼しておるぞ」
「はっ。 必ずや」
ナハト王は黄金の席を降りて、王の間を後にした。
ナバラシュはそれを頭を下げて見送った。
悠人は手持ち無沙汰に廊下をブラブラと特に目的もなく……ない、訳ではないけれども歩いていた。
というのも図書館に行くという目的地は決まっていたのだが、そこで何をするかについてはさっぱりの未定だった。
悠人もここへ来てからほぼ二年が過ぎようとしているが、未だにここの世界がいまいちよく分かっていなかった。
余談かどうかは個人の見方によるであろうが、帰るチャンスはあったのである。
事実、両親はここに留まることなくキッパリと帰っていった。
ヴィッフェルチアでは疎まれた存在であるからというのもあるのだろうと思った。
その時に摩耶……うちの母親に選択させられたが、悠人はここに残ることを選んだ。摩耶もその悠人の決断にケチをつけることなかったが、ハルはとても泣いていたのをよく覚えている。
「それは、おいおいにするとして……」
そうこう頭の中で考えているうちに図書館に着いた。
扉を開けて中に入る。
中は授業中であるからガランとしていて少々の緊張感を孕んだ静けさがこの図書館を包んでいた。
その本の山をブラブラと題名を見ながら歩いていく。
「おっ、世界地図か……」
何気なく、手にとって見た。
「ヴィッフェルチアは………っとこれか。 うわっ、まさデケェんだなこの国って……」
この世界は地球の平行世界であるから、地形は地球のものと変わらない。
しかし、技術の発達が遅いのか、それとも地球と異なるからこそ住めないのか、この本で明確に記してある国はヴィッフェルチアとナイルダルクとダルテバルト王国という三つの国だけだった。
その本にはそのさん三つの国に関する情報と様々な拡大地図が載っていた。
拡大地図といっても全ての場所に地名のような名前が付いている訳ではなく、非常に曖昧な本であった。
ちなみにここの地名はフィアルテーレ学園と同じ名前だった。
「ダルテバルト王国ね………」
完璧な隣国ではないからであろうか、ダルテバルト王国なんて言葉自体悠人にとっては初めて聞く言葉であったし、対立する国があるとは聞いていたけれども、その国の名前を知らなかった。
「どんな国なんだろう………」
「ダルテバルトに興味がある?」
不意に横から声がかけられた。
この女性の中でもアルトに近い声だった。
悠人はそちらのほうへと向かう。
「おお、カレンか」
声をかけて来たのはカレンだった。長らくご無沙汰になりすぎて、声を忘れてしまっていた。
カレンも「ヤッホー」と軽い感じで挨拶を交わす。
「で、ダルテバルトに興味がある?」
「そうだな……まぁ、人並みに?」
「普通だ!? じゃあ、教えてあげるねー」
「いや、俺は教えて欲しいとは……まぁ、いいか……」
カレンは悠人のツッコミを無視して図書館でダルテバルト講義が始まった。
「んじゃあ、まず歴史から。ダルテバルト王国が建国されたのは今から百年くらい前」
「随分と最近なんだな……」
カレンはどこから持って来たか知らないが黒板を持って来て、絵を描きながら説明してくれるみたいだった。
「実際は、王の血筋を引く者がいなくなったからという理由で名前を変えたに過ぎません。現王は、その国で一番強い者がなり、それまで起きていた争いごとはそれによって解決したと言われて近年力をつけて来た国です」
カレンは先生気取りなのか、悠人相手なのに敬語で語り始めた。
(カレンは先生になりたいのか? )
そう思わなくもないほどに詳しかった。
そのほかにも、特色や土地、有名な人物などのダルテバルトに関する情報をカレンから教わった。
「最後にダルテバルトの魔法力はほぼほぼヴィッフェルチアと同等になったと言われています。それにより、ナイルダルクとの国境付近では戦争を吹っかけるための工作が行われているようです」
「なぜ、そんな事をするんだ?」
「それは、権力を誇示したいから……というのもあるんだけど。実際はダルテバルトは寒い気候になるから食料を求めてという方が大きいかな?」
そう言ってカレンは先ほど悠人が見ていた地図を見せてくれる。
ダルテバルト王国は地球でいうヨーロッパ寄りのロシアに位置しており、かなり寒いことが容易に想像できた。
それならば、カレンの?は外してもいいと思った。
ちなみにナイルダルクはその下に位置して、ヨーロッパをほぼ一面にしているのがヴィッフェルチアであった。
「それならば、いつ戦争を吹っかけられてもおかしくないな」
「それを防いでるのが、ナイルダルクなんだよ。ナイルダルクは両方の国と物々交換によって間接的にダルテバルトにヴィッフェルチアの物を送って逆に鉱石なんかをヴィッフェルチアに送っている役割を担っているの」
「それだと、ヴィッフェルチアに着く頃には何十倍にも値段が上がってるな」
「そうその通り! よく出来ました!」
カレンが悠人に向かって頭をなでなでする。
悠人は座っているので、カレンの身長でも容易に手を出せる高さに頭があった。
(愛でる意味で可愛いと思ったことは黙っておこう)
そんなこんなでまる一時間くらい講義してくれたカレンにお礼を言って図書館を後にした。
いつも読んでいただきありがとうございます!
なんか、いまいち冴えてないと思っています。もしかしたら、このまま全然話が思い浮かばないと不定期にするかもしれません。それは、無理やりに話を作っても面白くないからという至極真っ当な理由です。
まぁ、商業なら殴られもんかもしれませんけど……。
取り敢えず、そういうことでよろしくお願いいたします!
小椋鉄平