新たなる魔法に犠牲は付き物??
学園のチャイムが鳴り響く。
授業の始まりの合図であるが、悠人は廊下を歩いていた。
本来ならば、焦って教室までダッシュしているのだろう。しかし、特進クラスは授業がそもそもない。
故にあてもなく廊下を歩いていた。特訓仲間のラネイシャやアイナ先生も授業に出ており、一緒に剣を交えてくれる相手がいないことも加わっている。
では、特進クラスの連中と特訓すればいいじゃないか、と思うだろう。
しかし………。
「は? 特訓? 頑張るねぇ、さすがランク一位だ」
「だから、一緒に付き合ってくれないかな?」
「悪いがごめんだ。君を相手にするほど暇じゃないんでね……」
そう、皆その一点張り……。
どうやら、特進クラスは強い……だけでなく考え方も少し特殊な者達の集まりなのかもしれないと悠人は思っている。
現に、魔法はかなりの確率で世襲制になる。魔力の多い家計にはやはりそれを継ぐ子供が現れる。
だからこそ、魔力量が多いイコール貴族という構図が出来上がる。
故に、高飛車な生徒が特進クラスには多い……と思う。少なくとも悠人にはそう見えた。まさに上からという感じで身分の違いを存分に見せつける、といった感じだった。
しかし、やはり強いのだから何か有事の際には役に立つだろう。
例えば、獣が現れたらどうするのか。
答えは前の出来事でもあったように風紀委員会が率先して統率を取り、撃退してくれるので別に特進クラスは必要ない。
一見、特進クラスは自己研鑽の必要のないいわば公認のサボる事ができるクラス…のように思えて仕方がない。
したがって悠人が思うのは、魔法というものがあるからこそ、不平等が生まれる原因ともいえよう。
この国の格差はまさにそこにある。
そんなことを思いながら歩くと闘技場に着いた。
やはり、自主練をするしかないと諦め、闘技場にて悠人の固有魔法の自己研鑽に努めた。
その際にやることは単にラノベで読んだ魔法や技を悠人なりに想像してそれを『創造』するという、一見文字だけなら簡単そうに見える事をしていた。
一見というだけあってこれだけ短い文で説明できても本質はとてもじゃないがそうはいかない。
基本的に剣に何かしらの改変を加える事を目標にしているが、単に剣に何かしらの付加をしても意味がない。
一回目もそれで失敗した。
今、悠人がやろうとしているのは斬撃を飛ばす、あるいは剣の相手に当たる範囲を刀身自体をを大きくせずに当てる事であった。
よくある剣に青い光が入って……というやつを再現しようとしていた。
ゲームとか、RPGでよく見かける比較的初期の技である。と言えば分かるだろうか……。
「魔神剣!」
悠人は長剣を振り上げた。
しかし、青い斬撃は飛ばなく、刀身に残ったままであった。
想像による【創造】で見た目的にちゃんとなっていた。剣の周り五ミリ程度の大きさで青い光が包んでいた。
「もう一度! 魔神剣!」
今度は、長剣を上から振り下ろした。その方が力が単純に伝わるし、振り下ろすスピードも速い。
青い光が飛んでいった。
「おっ、よし!」
悠人はガッツポーズを作った。
青い剣の形をした光が壁にぶつかり、ドンという音を上げて消えた。
「? これは、光じゃなくて衝撃波なのか……」
ドンという音からそうだと悠人は考えた。
この技こそ、そこまでの威力はなくどちらかといえば、相手を吹き飛ばしたい時に使えるものだというようなものだと感じていた。
「今度はっ!」
悠人は先ほどの創造をしながら、剣を横に振った。
予想通りで、青い光が飛ばなかった。
「なるほど……」
「何勝手に納得してんのよ」
声のする方へ目を向けると、腕を組んで悠人を睨みつけるような目線を向けてくるラネイシャがいた。
どうやら、知らないうちに授業が終わっていたらしい。鐘の音が聞こえた記憶がないから、それだけ集中していたことを悟った。
(む……胸が強調されて見辛い……)
腕を胸の下で組んでいるせいで、余計に胸が大きく出ているように見えて目線がどうしてもそちらに傾いてしまう。
「何目を逸らしてんのよ? 私が何か変なの?」
「いや、うん。 お前には悪気はないよな……」
「だから、何勝手に色々と納得してんのよ」
先ほどからうんうんとひとりでに頷く悠人に対して少しムスッとした表情を見せるラネイシャ。
そんなラネイシャの表情をずっと見ているのもそれはそれで良かったのだけれど、それだといつ殺意を向けられてもおかしくなかったのでこの辺にしておくことにする。
「新しい魔法の練習だよ」
「それが、アレ? 悠人にしてはショボい魔法じゃない? アレなら魔法師なら避けられちゃうわよ」
「え………?」
ラネイシャのその言葉には虚を突かれた。そんなことを思いもしなかったのだ。
「え?なに? アレで完成だと思ったの?」
「ああ……」
確かによほどのヘタレ魔法師でなければ当たらないほどの速さだった。
ゲーム画面で、たったのジャンプ一つで避けられるのが悠人の頭で容易に想像できた。
肩を落として落胆した。
というのもここまで簡単に再現できた魔法はこれまでなかったからだ。
その間、ラネイシャはお腹を抱えて爆笑していた。
「………あんなのじゃ、弾かれたり破壊されるのがオチよ。そんなのも分からなかったなんてハハハハハ……」
「そんなに笑うなよ〜。 俺だって傷つくんだぞ」
「ハハハ……ハァ……。久々にこんなに笑えたわ。ありがとう」
「…………そ、そりゃどうも……」
その時見せたラネイシャの無垢な笑みに少しドキッとさせられた。
「じゃ、付きあってあげるから私にうってみなさい」
ラネイシャは悠人と対面する形になって、そう言いだした。
「よし! それじゃあいくぞ!」
擬似空間は張られていないにも関わらず、悠人は魔神剣を放った。
いつみても悠人の行動は一見、剣を地面に叩きつけているようにしか見えなかった。
しかし、実際は剣から出た青い衝撃波がラネイシャの方へと肉薄し………。
「ふっ」
ラネイシャは頭上に飛び上がった。
それによって青い衝撃波は激しい音を出して壁に激突した。
「やっぱり遅いわ。それじゃあ、避ければ簡単に回避できるわ」
「うーん。どうしたらいいんだろう」
「それを考えるのは私じゃないわ。 でも、確実に当てるなんて考えない方がいいかもしれないわね」
ラネイシャは悠人の元へと行きそう答えた。
確かに魔神剣は、刀身の大きさそのものを飛ばしたような魔法だ。遅ければ、上左右に避けてしまうだけでその意味はなくなる。
悠人はラネイシャの最後に発した言葉が気になった。
「どういうこと?」
悠人はラネイシャに考えることなく聞き返した。
「あのね……ちょっとは自分で考えなさい……と言いたいところだけれど、そろそろ授業が始まるから言うわ。魔神剣は避けさせるのに使うのよ」
「避けさせる?」
ラネイシャの言いたいことは悠人はすぐに理解した。
「そう。 悠人は瞬間移動の魔法が使えるんだから、相手の体勢を崩させるだけで良いのよ」
「そうか!」
悠人もなるほどという仕草をした。
ラネイシャの言いたかったことは、相手をわざと魔神剣で上左右に避けさせておいて相手の体勢が整っていないところに間髪入れず肉薄するというものだ。
魔神剣の本来の使い方ではないにしてもそれならこの魔法も使い物になり得る。
「じゃあ、これが最後ね。 かかってきなさい」
「おう! 」
悠人は長剣を振りかざした。
「魔神剣!」
再び、青い衝撃波がラネイシャの方へと走る。
しかし、ラネイシャはそれをいとも簡単に避けた。避けた方向はさっきと同じ上だった。
(瞬間移動!)
避けたところの後ろに移動するように創造する。
「もらったーー!」
悠人は長剣を振りかざした。
「くっ!」
ラネイシャは背中を取られてかつ空中にいるせいで身をよじる事しかできず、不利な体勢となり、短剣を悠人の剣に合わせることしかできなかった。
「かはっ!」
ラネイシャは悠人の剣に負けてしまいそのまま地面に叩きつけられてしまった。
悠人も夢中になってしまったと気づいてラネイシャの元へと駆け寄った。
「悪い!やり過ぎた。 大丈夫……じゃないよな?」
「ホントよ……でもこれで……出来た……ね……」
ラネイシャはそれだけ言うと、だらっと脱力して意識を失ってしまった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
今は、火曜の0時です。もう日が回ってしまっています。
しかし、なんとか目標の3,000文字はいっているのでなんとかって感じでホッとしています。
今はとても平和が訪れているヴィッフェルチアですが、今後どうなるんでしょうか乞うご期待下さい。
作家としての目標としては、ギャグを入れて笑わせたいなと個人的に思っております。
今回の話についてはかなり詰まりました。もういくとこ行くとこ信号が赤ってくらいに止まりまして、まじ辛かったです。最後まで降りてきませんでした。
でも、次降りてくると信じてまた頑張ります。
便通はちゃんと降りてるんですけどね……。
小椋鉄平