潜入と危機
悠人は盛大に、欲望のままにあるものを吐き出した。もちろんそれは口から出るキラキラしたものだ。
まさか、自分の身に起こっていないこととの矛盾に身体がやったと判断されてはさすがに耐え切れなかった。
もう既にアーニャとのリンクは途切れて、中をうかがい知ることはできない。
「仕方ないわ。 大人しくアーニャが帰ってくるのを待ちましょう」
「ああ……」
少しよろめきながらも、改めて身を潜める。
『悠人、聞こえますか?』
アーニャから声だけが飛んできた。トランシーバーで会話しているような感じだ。しかし、身を潜めているのかその声は小声だった。
「ああ、何かあったのか?」
『あったにはあったのですが……これを何と言えばいいのか分かりません』
おそらくではあるけれども、タリス世界の物ではない何かに出会ったのだろう。
「何でもいい。特徴を教えてくれ」
『そ、そうですね……。何か戦場の様子が見れるようになっているようで、下のボタンか何かで指示しているみたいです』
アーニャの声のみでの想像でしかないが、中には指令室のような部屋が存在しており、そこから各戦場に指示を送っているようであった。
つまり、そこを叩けばある程度士気を落とすことが出来るはずである。
とはいえ、アーニャだけで迂闊に動くのは危険極まりない。今は見えていないとはいえ、だ。
「ラネイシャ、ここの精霊は少ないんだっけ?」
悠人は小声でラネイシャに質問した。
「ええ、だから発動出来るかは正直、そこにいる精霊に依存するわ」
試しに手の上に炎を出現させる想像をしてみる。
「あ、でた」
炎が手のひらの上でゆらゆらと踊っていた。
「それくらいなら、出来るみたいね」
「本で読んだけど、精霊って魔法使いのいるところに集まるんだろ?」
「ええ、だからここにいる精霊の数も少ないのよ。ヒトと精霊はいわば共生しているの精霊も魔法を使ってくれるヒトがいないところに集まろうとは思わないわ」
精霊はヒトからマナを受け取ることにより、ヒトは魔法を発動出来る。 そういうギブアンドテイクで成り立っているのだ。
ここから、精霊も生き物であるという証明をした論文もあったりする。精霊もマナをもらわなければ死ぬのだ。
昔は精霊は神的存在だと思われていた。したがって、ヒトに無慈悲なく魔法をくれる。そういうありがたい存在だと思われていた。
だからこそ、ヒトは精霊に感謝の意を表して、神という存在と同等に崇められていた。
しかし、神とは異なり、その存在が科学的に証明されると次第に精霊信仰は徐々に衰退していき、今ではヴィッフェルチアにそんな信仰を持つ地域は殆どない。
「こんなこともあろうかと連れてきたのよ。精霊……」
ラネイシャは瓶を取り出した。
透明な瓶の中には無数の光の粒がぎっしり詰まっていた。ラネイシャが手をかざしてマナを渡した。
「あんたはアーニャがいるからいいでしょ」
ラネイシャはそう言い放って、門の方へと向かった。
「おい待ってって!」
慌てて手を掴んで引き戻した。
「何のためにここで待機してると思ってるんだよ!?」
小声だが、怒気を強めた口調でラネイシャに言い放った。
「私は、真正面から行くわ。どうせ壊すもの……一気にいったほうが楽でしょ」
悠人たちの作戦は、ナイルダルクに報いること。 ミサイルといい、悠人を暗闇のどん底に追いやったこと。確かにタチが悪いと思った。
「待ってくれ。 ラネイシャは別にこいつらに何もないだろ。その……悔しさとか憎いとか……」
「そんなもの関係ないわ。 宣戦布告してきた……それだけで私たちには迎え撃つ義務がある」
「ぐ……」
ラネイシャの言い分も理解できなくなかった。確かに宣戦布告された時点で敵。だから倒す。その理屈は分からなくなかった。
宣戦布告されて、今更話し合いで…なんて話があるはずもない……。
単純に戦争は優劣をつけるものなのだ。あらゆる力を駆使して勝った者が優に立てる。
「分かった? それじゃ、行くわよ」
ラネイシャは物陰から躊躇いもなく短剣を取り出し、自慢のスピードで門番をあっさり無力化した。
やはりというべきか、その門番を殺した瞬間、警報音が鳴り響いた。
門のところの上を見ると監視カメラのような丸い突起が付いていた。
ラネイシャは気にせずに中に入った。
「おい! もっと警戒しろ!」
慌てて刀を取り出してラネイシャの後を追った。
「なんか、鳴り出しましたね」
すでに中に入っているアーニャは指令室のようなところで、ウロウロしていた。
精霊化している為、画面に向かっている者の後ろを通っても気づかれることがなかった。
「やぁ、こんにちは……」
そんな中、アーニャに向かって声がかけられた。
精霊化は解いていなかった。
声のする方へと見ると、白衣を身に纏った三十代程の若い男がいた。
異なるのは彼が、ゴーグルを着けていたことだった。
おそらくそれによってアーニャが見えているのだと思った。
「警戒しないでくれ…といってもこんなのではダメか……君は私を殺しにきたんだから……」
「あなたは……誰……ですか?」
いつしか、さっきまでは気づかれていなかった者がこちらを見てあっけからんとした顔をしている。アーニャは見えていないが、その白衣の男が変なところに話しているからだろう。
「すまない。私から話しかけておいて失敬だったね。私は、ジョセミール・スミス、ナイルダルク作戦本部の長を任されている。 ……君たちの敵だ」
さらっと言い放った。
それは挑発と取れる言動には十分だった。アーニャ的には、やれるものならかかってこいと言っているように感じた。
アーニャは咄嗟に周りを見渡した。周りにいたはずの研究員たちまでスミスと同じゴーグルを着けていた。
これで囲まれてしまったことになる。
精霊化も意味をなさなくなり、解除した。
「これは!?」
アーニャが姿を現した途端、スミスが驚きの表情を見せた。もちろん、アーニャを見て驚いたのだからアーニャの事が驚きを示す材料になったのだろう。
「私のことは完全には見えていなかったのですね」
そう判断し、もう一度精霊化した。
「ああ、その通りだ。 このゴーグルは精霊が保有しているマナを感知するゴーグルだ。それによって、転々とぼやけた精霊を可視化することができる。つまり、点の集合体として見えているだけなんだ。しかし、まさか人間の姿をしているとは……ますます魔法というものは興味深い……」
スミスの顔が研究者の顔になる。興味なのか狂気なのかわからない目でアーニャを見ていた。
嫌な記憶が蘇る。実験室の施設にいた頃の研究員たちと瓜二つだ。
アーニャの中に憎しみが湧き上がった。
「さて、茶番はここまでにしてそろそろ始めようか……といっても私たちには君を殺せなくなった。……おい、丁重に扱え。殺すな」
スミスがそう言い放った途端、周りの研究員たちから拳銃の銃口を一斉に突きつけられた。
「くっ……」
いつも読んでいただいてありがとうございます!
台風も過ぎ去って、東京へも特に目立った影響はなく、安心しておりますがその代わり暑いのが心配です。
今年も夏コミに参加したいと思っておりますので、何かと天気予報を見て一喜一憂してそわそわしております。
カクヨムの方も見ていただいた方には感謝申し上げます。ありがとうございます!
また、すぐにとはいきませんがいいものをかけたらなとちょくちょく書いております。できるだけ、一ヶ月更新を考えておりますがどうなるかは分かりません……。
やはり、書いていて思うのは読み返すのは大事だなという事はつくづく感じておりました。
結構、続きとかから書き始めるんですけど、いきなり続きから始めるよりも一旦書いたところまで読んでから背景とかを改めて読んだ上で続きを考えると安定してかけるなと実感しております。
では、コミケ後になりますがちゃんと更新することだけは宣言しておきます!
小椋鉄平