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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
ナイルダルク編
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実験とアリスフィアの迷い

 悠人たちは寮に戻って話し合っていた。


 相談内容はあの悠人が発動させた魔法についてだった……。


「あの魔法は成功ということでいいんじゃないんでしょうか? 剣を使わずとも大勢のヒトを倒せますよ」


 アーニャが言っているのは【終焉レクイエム】の良いところであろう。しかし、あれを正しく使える保証はどこにもなかった。


 故にこうして会議している。


「やはり終焉レクイエムは発動を制限させるべきだ。下手をすれば味方にまで魔法が及んでしまうかもしれない……」


 アイナは【終焉レクイエム】の問題点についてあげた。


 確かに効果領域内すら分からないし、無造作にヒトを選んで発動してしまう事だって今後あり得なくない。


「とにかく分からないことだらけで何も解決になってないな……」


 悠人が呟く。悠人が発動させた魔法なのに当の本人が蚊帳の外で見守っているような形になっていた。


「悠人、さっき発動した魔法の危険性は分かるだろう。無駄な犠牲は極限まで縮小すべきだ」


 アイナの意見を分からなくなかった。確かに、起こり得る可能性を上げ、その個々に対して対策を考えておくことは決して悪くない。


「俺はもっと回数を重ねるべきだと思う。 擬似空間アストラルカーディガンでダミー相手に行えばもっと危険性というのもはっきりしてくると思うんだ」


(そもそも、アレをもう一回できる保証すら今は無いしな……)


 成功させたのはラネイシャに出した時だけ。しかも、アレを成功と果たして決めていいものか疑問だった。


 本来ならば、【終焉レクイエム】は消し去る魔法という方が正しい。炎が一瞬燃え移った場所は、炎が消えたと同時に消える。物語上は人間相手にしか用いていないので、人間にしか作用しないかもしれないという疑念はあるが、一瞬にして消えるという部分はまだ再現しきれていない。ラネイシャが苦悶の表情を浮かべる時間があった。


(いや、それがない代わりに燃え広がっていた……。むしろ、今の方がより強力に……?)


 ラネイシャに移した炎は肩から体全体へと侵食するように燃え広がっていた。炎も、ただの風などでは消えない。


 もはや、この魔法は【終焉レクイエム】ではないとした方がいいとさえ思い始めた。


 アイナとアーニャが激しい論戦を繰り広げる中、悠人はそんな風に考えていた。


「ですからー」


「やはり、危険だと思うけど、まだ実験が足りないと思う。もっと色々な状況で試してみて使用を避ける境界線を決めよう」


 悠人のその提案にアイナもアーニャも同意せざる終えなかった。





「そんな事が……っ!」


 アリスフィアは告げられた事実に絶句した。


 別に友人に向かって失望した、とかではなく純粋にスケールの大きな事が裏で起きていたことに絶句していたのだった。


「悪い事だと思う?」


「どうでしょう? やり方はこの際置いておいて、私と考えている理想は同じなわけですから……なんとも……」


「あなたと目的は一緒でもあなたとは噛み合わない部分があるのよ。分かるでしょ?」


 アリスフィアは薄々気づくべきであったと今更ながらに後悔した。決して敵であっても殺してはならない……これがアリスフィアと会わなかった大きな原因であると。


「あなたも分かっているはずよ。敵を殺さずに無力化させる事がどんなに難しいことか……彼らはこの国を崇拝している。だからこそ、彼らを表舞台に立たせてこの国の抑止力の一部に組み込むのが一番いいと思うわ」


 麻耶の言葉にユージェスも頷いて同意した。


「しかし、それをするということは……」


 アリスフィアは麻耶たちの提案に難色を示した。


 つまり、それをするということはアリスフィアの脅威でもある。


 さらには、周りの市民がどう転ぶか分からない。


 裏の組織のおかげでこの国が守られていたと知れば、アリスの評判はガタ落ちだ。市民からの信頼も当然無くなってしまうことであろう。


 そうなれば、最悪……。


「君の言いたいことも分かる。しかし、先ほども言ったように、ナイルダルクがかなり力を蓄えている。私たちの世界の力を組み入れてる。そうなれば、魔法が使えないナイルダルク人でもヴィッフェルチアを呑込めるほどの巨大な力を手にする。その瞬間にこの国に牙を向けないわけがない……」


 ユージェスはアリスフィアの懸念を先読みして、理由をつけ説得する。


「確かに、裏組織は魔法学院、魔法学園を主席レベルで卒業したエリート中のエリート。その組織に標的を当てられればあなたの命はないわ。 でも、今のところそれはないでしょう」


「どうして言い切れるのですか?」


 アリスは麻耶に対して疑問をていせざる終えなかった。


「単純よ。 その組織の配属条件はこの国への愛国心……つまり、あなたに牙を向けるのはこの国にとって王を必要としなかった場合」


「王を必要としなくなるじゃないですか。 もし仮にその組織を公にしたとして、そうすれば私の市民からの信頼は地に堕ちる。そうすれば、私は確実に殺されてしまいます……」


 麻耶の発言にアリスがすぐさま反論する。恐怖に焦っているようにも感じた。


「最後まで話を聞きなさい。焦りすぎよ」


 麻耶の忠告にアリスはハッとした。


「すみません」


「つまり、あなたは市民たちの代表であり続ければいいわ。それを彼らも望んでいるはずだわ」


「それって……」


「あとは自分で考えなさい……。答えを教えてもらってはダメよ。間違っていれば、私が正すから先ずはやってみなさい」


 麻耶とユージェスは立ち上がって部屋から出ていった。


 アリスは見送りもできずに立ち上がれなかった。


 足に上手く力が入らない。


 アリスの知らないところで血みどろの戦いがあった事と、その事実から目を背けて市民に向かって気丈に振る舞っていた自分に嫌気がさしていた。


「私の願いはただの理想郷でしかなかったのですか……」


 アリスは手で顔を覆った。






 悠人はあれからダミー相手に魔法を行使し続けた。不思議なことに魔法が発動できないなんという心配はなく、想像さえ間違えなければ百の確率で発動できていた。


「やっぱりこれになっちゃうか……」


 本日、100体目のダミーが消えた。


 その消え方は物語とは異なり、黒い炎が飲み込んでいくように最後は炎ごと消えてしまう。


 そして、残骸一つ残らず消えてしまう。


 そのダミーを植物にしても人間に見せかけたものにしても同じ結果になった。


 つまり、物質には依存しないということが分かる。人間の構成部分であれば、蛋白質と糖と脂質と水などだけを消すのではなく、その形をなすものを消すみたいだ。


 そのダミーに移せば消える。そこからさらに地面に広がったりはしなかった。


 このことから、狙ったものだけを消すのに特化したものと分かる。従って、悠人の狙いさえ間違えなければ敵味方の区別をつけて魔法を発動できる。


 ここまでメリットであるけれども、デメリットもあった。


 それは、視認すること。 悠人が目で捉えられる範囲でなければ、魔法は発動しない。


 決して、さらなる魔法による空間認識でも魔法は発動しなかった。


 それにより、壁などに隠れられれば魔法は撃てない。


「ふぅ、このくらいか……」


 アイナが気づいたことをメモしてくれていた。


「悠人、発動後の倦怠感などはないか? こんな強力な魔法だ、術者を蝕むような反作用があってもおかしくない」


「いえ、今のところはありません」


「これで実戦投入ですか?」


 アーニャがワクワクしながらアイナに尋ねていた。もともと、早く新魔法を確立させることを推奨していたからこそだろう。


「そうだな、これ以上はヒトに当ててみないと分からない。 今のところはこの魔法に対する解除方法は悠人がその炎を消す想像をすることだけだからな、ほぼ無敵だろう」


「やったー!」


 アーニャは両手を挙げて喜ぶ。アーニャのことでもないのにこんな風に喜ばれると悠人の口も自然とほころんだ。

いつも読んでいただき有難うございます!


今回も夏のイベントに向かってワクワクしつつも、その前のテストという壁をぶち破るために頑張っております。


久々に映画を観に行きまして、やはり音質といい、とても楽しかったです。


ああいうものを見ると、少し羨ましく感じてしまいますね。


まぁ、表現力に乏しいので仕方がないのですけれど……。


それでも夢の一つとして密かに持っておきます。


では、次回を楽しみしてください!


小椋 鉄平

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