新魔法発動か!?
闘技場に連れてこられた瞬間に、アーニャは手を離して悠人と向かい合う形で距離をとった。
「アイナ、擬似空間を!」
アーニャの指示で擬似空間が半球状に張られ、悠人とアーニャを覆った。
「何をするつもりなんだ?」
悠人としてはアーニャがいきなり、唐突に悠人に対して敵意を向けてくる……なんてことはないと思っている。
それぐらいの絶対的信頼をアーニャに寄せていた。
「悠人! さっき見た終焉を再現してください!」
「は!? 何を言って……っ!?」
悠人が答える前にアーニャからの空気の刃を撃たれる。
もちろん、それぐらいの奇襲で悠人は怯まない。
軽々と高速で一閃して空気を霧散させる。
「なんのつもりだ……っ!?」
悠人の声は届かず、間髪入れず空気の刃が飛んできた。
それを一つ残らず薙ぎ払う。
「だから、読んだ本の主人公が放った終焉を今、ここで再現してみてください!」
「そんなもん物語なんだから想像しかできないだろ……っ!?」
「もう分かってるんじゃないですか。 そう……創造、してみてください!」
「は? 分かってるわけ……」
一瞬、思考が防御から外れたために空気の刃を弾けず、避けた。
先ほどまでアーニャと対角線上にいた地面が少しえぐれていた。
呆けていた悠人に一瞬で近づくアーニャ。
「もう、気づきましたか? お義母様が考えてる意図が……」
「ああ。……ったく。 つまり、お話の技を盗めって事だな」
「そんな悪いことではないと思うんです。 お話の技や魔法を再現なんて未知の領域ですよ」
「アーニャなぁ……そう簡単にいくわけないだろ」
麻耶の言いたいこと、そしてやらせたいことは分かった。しかし、ただその意味が分かっただけでここからが難しいところなのだと悠人は感じていた。
(だから、漫画じゃなくラノベなんだな……)
漫画はその技を絵で描かれることで固定観念が植え付けられて上手くいかない。
しかし、ラノベは活字の部分からその技を想像することでしかその技のすごさが頭に投射されない。その想像通りに創造すれば案外簡単にいけるかもしれなかった。
「簡単ですよね〜」
アーニャが悠人の考えを見据えて質問してきていた。
「俺の頭を読むな」
「えへへーー」
悠人は剣を構えて目を閉じた。
終焉は物語の中では黒い炎を相手に移すものだった。それに触れてしまったものを残さず消す。炎だからといって燃え移って溶かすという感じではなく、ブラックホールのようにその触れた部分だけ消しゴムでやった時のように消えるのだ。
詠唱の内容までは書かれていなかったので、そこは省略して黒い炎が悠人の剣に纏うのをイメージした。
すると黒い剣にさらに黒い炎が覆い尽くした。
「おおおっ! やりましたね、悠人!」
「まだだ、ダミー人形を出してくれ」
悠人の一言で映像で具現化された敵が現れた。
悠人は剣を構えなおして敵に向けた。
ダミー人形が襲いかかる。この人形は結構単調な攻撃しか出来ないのだが、今は何が起こるかわからないのでこれでいいと思った。
「はああああっ!」
襲いかかる敵に向けて肩を切るように一閃した。
その一閃は命中し、肩を切り落とした。
なおも人形は悶えている。
炎が燃えうつり、普通に人形を燃やしているように見えた。
「そうじゃないんだ……」
悠人の想像したのはただ、色が黒くなったただの炎のようだった。
(簡単にはいかないと思っていたが……骨がおれそうだ)
…………………………
……………
………
それから日が暮れる近くまで剣を振ったが、一向にその本の通りの事象には至らず、見た目だけが出来ているといった形であった。
その日は諦めて解散となった。
ベッドに寝転んで本を読み返す。
アイナには「そう簡単に上手くいったら困る」と少し苦笑いで言われた。
(頭でまだ再現できていないということなのだろうか)
再び、頭で主人公が【終焉】を発動したシーンを思い浮かべる。
いつ見てもカッコイイシーンだ。
「かっこよすぎるから俺には出来ないのかもな……」
やや自嘲気味に独り言を吐く。
「そもそも俺はなんでこんなことにマジになってるんだろう……? ははっ……俺があのよくわからんキツネ面の男の提案に乗ったからだったな……」
「何? 帰りたいの?」
「え?」
自分のものではない声に、声のした方へと顔を向けた。
「ローレラ……」
「………」
ローレラは返事をしない。クールな顔でこちらを見つめる。いや、睨みつけているようにも見えた。
「な、なんだ?」
「………さっきの質問……どうなの?」
「そうだな……正直半々だ……こんなに魔術が難しいし、敵がいるっていうのも地球じゃあ無かったことだし……そういう意味では帰りたい……というのもある……」
「そう……」
ローレラは窓から入ってきたらしく、夜だからか月明かりにきらめく金髪をなびかせながら去ろうとした。
それを手を掴んで引き止める。
「でもな、お前達と会えた。 あっちの世界では考えられないくらいの仲間達に会えた。俺を慕って暮れる人達がいる……それが嬉しいんだ……だから半々だ」
「そう……」
言い終えて、掴んだ手を離した。
ローレラが少し横顔を見せて去っていった。
その横顔には笑みが溢れているように見えた。
「さぁ、今日もやりますよー!」
悠人以上に気合の入っているアーニャがまた付き合ってくれた。
アーニャ曰く、悠人が上手くいかなかったのは人形という無機物だからだという結論に達したようだ。
「急すぎない?」
「戦いは待ってはくれませんよ」
アーニャはラネイシャに声をかけて相手役を買ってくれるよう頼んだようだった。
つまり真剣勝負の中でならできるだろうという算段だ。
にわかにはまだ信じられないが、何か【終焉】には隠し条件があるようにも感じた。だからこそ、この案に乗った。
ラネイシャもまんざらではない様子である。
「ま、いつかの借りを返すには私にふさわしいかもね。この間見たいには絶対にいかないわよ。アイナ先生にみっちり見てもらったんだから」
ラネイシャは短剣で容赦なく悠人に肉迫する。
「っ!?」
悠人はとっさに回避を選択した。
もう既に悠人の剣には黒い炎が纏っているが、それを振り下ろす前にやられてしまう位置に瞬時に入られてしまったからだ。
「速い……」
「あれは、【ナスルファン】ですか?」
「ああ、あいつには剣技というものはすぐにマスターしたからなそれを相手の懐で行えるように人体加速にさらに魔力を練り上げたブーストで人の目に捉えられないスピードを実現している」
「まだまだいくわよ!」
「くっ………!」
悠人には捉えきれない速さで肉迫され、それをかわすので精一杯になってしまい、黒い炎が消えてしまった。
ついには剣で防ぐ。
ガキッという金属音が響いた。
「終焉!」
鍔迫り合いになっている間に黒い炎を纏わせ、それをラネイシャの持っている短剣に移した。
「こんなもの……っ!」
ラネイシャは短剣をブンっと降り払った。
その瞬間に炎は消えてしまった。当然、短剣もそのまま残っていた。
「ダメか……」
素直にうなだれる悠人。 頭の中では炎を移し、その炎が消えた瞬間に燃え移った箇所がもろとも無くなっているという想像をしていた。
しかし結果はただの炎と同じで風によって消されてしまった。
違うのは炎の色だけ。
確かにそんな炎は見たことがないことから事情を【創造】によって改変できているはずであるのだがその後の反応が思い通りに起こらない。
「まだまだっ!」
その後、何回も試した………。
「やっぱりダメね」
「ああ、さっき炎に触れたけど本当に色だけ変わったみたいにしか思えない。もちろん熱かったけど……」
「解釈は間違ってないのでしょうか?」
悠人自身の本から得た解釈が違うのであれば、発動しないのも頷ける。
「アーニャとラネイシャも読んでみてくれないか?」
悠人は二人に向けてその本を渡した。
二人に向けて「この部分だ」と説明して読んでもらった。
「……確かに黒い炎が敵の肩をまるで消しゴムで消したように消え、その瞬間に敵が頭に悶えたとあります」
「でも、この主人公は剣を持っているとは書かれていないわよ」
「確かにそうなんだけど、俺がやるとしたら剣付きじゃないとダメだと思ったんだ」
そう悠人が入った途端、二人に睨まれた。
「……ちゃんと再現してくださいって言いましたよね?」
「そりゃ条件一緒じゃないと出るものも出ないわよ!」
「……わ、分かった……」
(それじゃ、魔法剣士じゃなくない!?)とも思ったが、確かに物語の主人公は剣を持っていない純粋な魔法師だった。
気を取り直して、もう一度やってみる。
悠人は剣を持っておらず丸腰状態。
「いくわよ!」
悠人は剣を持っていない主人公を自分に当てはめて、魔法を唱えた。
「【終焉】」
狙うのはラネイシャの右肩。
半ば願うような形で想像する。
その刹那、ラネイシャの右肩に黒い炎が出現した。
「くっ!」
ラネイシャは当然、炎を降り払った。
しかし、炎は消えない。
「う………ぐあっ!」
やがてラネイシャが苦悶に満ちた表情を見せた。
「成功なのか……?」
物語上では、炎は消えて肩が無くなった。とあるから炎は消えないといけない。
しかし、ラネイシャの右肩には黒い炎が音も立てず燃えている。
「悠人! 速く止めてください!」
しばらく固まっていた悠人にアーニャが大声をあげる。
「わ、分かった……」
悠人の再びの想像によって炎は消えた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
最近は忙しすぎて小説の方に頭が回ってないですね。
でも、皆さんとの約束ですから頑張ります。
ということで作者のお話は今日はおしまいです(マジすみません、勘弁してください)。
ぺこりぺこり
小椋鉄平