一週間がすぎて…
契約から一夜明けて、ドタバタの日から一週間がたった。やっと生活自体はそれほど問題ないが、もし生活するのが一人だったらと思うととてもじゃないがやっていけないのは明白だった。
つくづく、俺はまるでこの世界では障害者のような扱いだった。
♢ ♢ ♢
この世界では魔法が使えなければ何もできないのだった。
そう、水を飲むのも、火を起こすのも、電気を通すのも…。
まさに魔法で世界が回っていると言っても過言ではなかった。
授業に出てきたが、この世界での魔法が使える人はごくわずかであり、そのほとんどが魔法の使い方を知らない者たちばかりたそうだ。
さらに国によっては魔法量で身分が決まるところまであり、それによる差別さえ蔓延っている。
その国の中で俺たちがいるこの『ナスカ』は日本に似ている感じだ。能力があれば、誰であれ上に上がれるといった感じだ。
だが、それにより軍事力で劣っているのも事実であろう。
平和を保つには、国々が同じだけの力をもち、力の均衡を保つことで成り立つものだと聞いたことがある。
ナスカもなんとか中立を保ってきたが、王位が交代したことで状況が変わりつつある。
これを許さない穏健派と改革派で意見が真っ二つになってしまっている。
私には正直どうすればいいかなんてわからない。セバスは悩んでいた。そう、顔ではどうでもいいように見えていたが、本心はとても愛国心で満ちている。
取り敢えず、王様が馬鹿なことを言わないことを願うだけだ。
「それで、いかがいたしましょう」
「今は泳がせておけ、様子を見る」
(あのお方に何もなければいいのだが…)
セバスは天を仰ぐしか今は出来なかった。
♢ ♢ ♢
学校のホームルーム終わりの休み時間に、カレンが、クラスメイトが聞いてきた。
「そういえば、悠人はどんな武器を使うの?」
「そうだな。それは気になるなー、俺の予想は…、体が細いし短剣とかじゃないか」
そう言って、俺のことで勝手に盛り上がっている。
(そういえば、俺って何使ってたんだろうな…、やっぱロビンが言うように短剣かな)
夢の中の俺を思い浮かべるが、あまり、わからない。だから、答える。
「なんだろうね、思い出せないや」
「え⁉︎、今は何も持ってないの?」
「そうだけど…」俺は本気で顔をひねる。
「最近は魔物も出るし、持っていて損はないよ。昼になったら、武器庫に行ってきたら」
「そ…、そうするよ」
そうして、授業が始まった。
♢ ♢ ♢
お昼になって、言われたとうりに武器庫に向かうとそこに素行のいかにも悪そうな集団に出くわしたが、いざこざになるのも面倒だしいちゃもんをつけられるのを自分のスタンスに合わない。
ということで、その集団を避けていこうとすると予想してたことだが、つかまった。
「なんだぁお前は。見ねぇ顔だな」
「何をするんですか、あなたたちに用はありません急いでるので通してください」
俺はその集団のボスらしき人にそう言って立ち去ろうとする。とそいつは急に含笑いして俺に言う。
「じゃあ手伝ってやるよ。武器庫にある武器にはちと詳しいんでな」
俺は警戒しながらもそいつの提案に乗った。
武器庫にはたくさんの武器がそこらじゅうに置いてあった。選べないほど。
「さぁ、何が欲しい?お前の体格だとレイピアがお似合いだなフハハハハ」
そうして奴からもらったレイピアを振ってみる。
「そうだな。もう少し重い奴がいいな。片手剣なんてないですか?」
「そうか…、片手剣がいいのか、ンフフフフ」
そうして、奴らは頬を緩める。
「片手剣ならこれだ」
今度は持ってきてはくれず、指を指した。
ある意味ガラクタの倉庫にひとつだけ周りに混ざらず、そしていて真っ黒に輝く剣だった。
「そうだな…、良さそうだな」
と言ってその黒い剣に手を伸ばす。
そして、あと少しのところでバァンという音がして扉が閉められた。
「ちょっ、開けろ!」「開けないか!」
しかし、外からは野郎の笑い声しか聞こえない。
「ここから出たけりゃ扉を壊すんだな1年」
どうやら俺を1年だから、そんな威力のある攻撃を出せないと踏んだのだろう。
「あ、言っとくけどぉ、その扉はそんじゃそこらの威力でも吹っ飛ばないようにできてるから」
「じゃあな!ルーキー!」
そうして笑い声が遠ざかっていく。
「くそっやられた…」
俺は取り敢えず、ドアを叩く。もちろん結果はご存知のとおり。
ドアに炎をかけるが、魔法障壁があってすぐに相殺された。それどころか、防犯も兼ねており炎で返してきた。
あたりに炎のが舞う。
これでは、時期に死んでしまう。
炎が武器庫の中の酸素を奪う。
何か中に燃えるものがあったのか辺りに煙が舞い始めた。
次第に視界がまで悪くなる。
(このままでは死んでしまう)
煙を吸ってしまわぬように口や鼻を覆っているがそれでも間に合わないほどのドス黒い煙が辺りを覆っている。
(‼︎)
「ゲホッ!、ゴホッ!)
ふとした拍子に煙を吸ってしまいむせる。
もうすでに煙で前は見えず視界もだんだん薄々となってきている。
(あ、やはり俺はここでも中途半端に終わってしまうのか?元いた世界と同じなのか?)
俺はなんでもそつなくできた。それは一方ではとてもいい、あるいは素晴らしいことなのかもしれないが、俺にとってはそれだけなのだ。
誰よりも得意、不得意がないのはある意味それだけしかないということだ。
つまり誰よりもなんでもそつなくできるが、エキスパートにはなれない。
それがあの時の俺だった。
小学校の時はそのそつなくこなすことでなんでも上手くやってきた。自分でもあの時が一番輝いていたと自負できる。
だが、そんなことは中学になった途端に崩れた。何でもかんでもそつなくこなせる分、落ちこぼれだと蔑まれることはない。
しかし、それでは俺とはなんだ。俺は特に何も長所も短所もないただの人間じゃないか。
その時はちょうど『いじめ』の問題の真っ盛りだったために精神的に追い込まれて蚊帳の外に置かれるよりはマシだと考えてそれでもいいかとやってきた。
だけど、1つ1つのことで俺は考えてしまう…、(別に一番になりたいわけじゃない。ただ、何か自分の長所、得意分野だと胸を張って言えるようなものを1つだけでいい…欲しいんだ)
サッカー部に入ってレギュラーは取れて、FWを任されてもエースストライカーにはなれない。決定的なセンスの差があった。俺には到底できない何かが。
俺はそれが欲しかった。だから頑張った。居残り練習までした。あいつの二、三倍はやった。
だけど(何故なんだ!)とつくづく思ってしまう。
できないやつには嫌味だ。レギュラーになれない奴への侮辱だなどとよく言われるがそいつらにはサッカーだけではなく別の物事に特化した得意分野があった。
俺は悔しくて仕方がなかった。
今までの俺が培った別々の能力を何か1つに凝縮したい…。何度願ったことか。
高校に入ってますますそれが顕著に現れる。さらには俺から見れば特化した部分が1つでなく複数ある奴まで現れた。
俺には悟るしかなかった。俺には才能がないのだと。
だったらせめて、全てにおいて真ん中であるべきだ…。
そう、結論付けたはずだったんだ…。
だが、セバスに会い、増幅器を使って大きなクレーターを作った時には希望に満たされて、さらには他の人が期待してくれている…。
俺が何かすることを、居場所を守るために。
こんなことで終われる人生じゃないと直感で感じ手を伸ばす。
そして、伸ばした手で何か思いっきり掴む。
刹那、手から血が流れ出る感覚…。
ここで何故俺は不運なのか…、自分が惨めで仕方がなく思った。
血が抜けていく感じがする…。もうダメなんだと悟る。
見ているものに焦点が合わなくなっていき、やがてモザイクに染まる。
(証を持つ男よ。汝はまだこの世界にいたいと望むか?)
俺の頭の中で聞こえてくる。女性の中でも低い声が聞こえる。
(これが審判なのか…?)
俺は考える。これが『元の』世界ならもういいというところだが…今は違う!
まだ、生きる価値を見定めるには早すぎる!
だから……力強く願う。
「俺は死にたくねぇー‼︎」
(汝の願い確かに受け取った。契約の証の所有者の命に従い、汝を我の主とみなす。命令を。)
「ここで死ぬわけにはいかない。取り敢えずここの固ってー扉をぶっ壊す」
(承知)
俺はその剣を正しく握る。
この扉をぶっ壊すプロセスを剣に伝える。
(承認完了。)
剣が輝く。
「はぁっ!」
俺はその剣を横になぐ。
すると、ドアにかかっていた魔法が消え、ただの固いドアになる。
「決める。うぉぉぉぉぉ!、はぁっ!」
俺はドアに向かって走りながら剣を構え、身体全体を前に倒し、その瞬間に剣を薙ぐ。
バァン!!
まるで爆発か何かが起きたような音を出して外に出る。
「よし…、やったぁぞぉ〜」
俺は前のめりに剣を振ったために転んでしまっていた。
(プロセスを完遂。待機する)
外ではあたてふためいたようなけたたましい靴音が聞こえていた。
俺は安堵して意識を失う。
「さすが、我が主です。でも…私を頼っていればもっと早く解決したのに…、まぁこれはこれでまたあなた様が世界最強に一歩近づいたので良かったです。フフフ…」
倒れる悠人の後ろで少女が笑い。
悠人から姿を消した。
今回の話はどうだったでしょうか?
半ば強引だったかもしれないと不安ですが、気に入ってもらえると幸いです。
さて、冬休みで不定期にすると言ってましたがやってしまいました。
執筆自体が今は楽しいです。違いますね、多分自分が妄想できることが楽しいんでしょうね。自分でそう思います。
今度こそ、不定期にしますので宜しくお願いします。
妄想大好き(いろんな意味で)
小椋 鉄平