闘いの終焉……がしかし
サーシャは頭の中で握りこぶしを作った。
サーシャと言えども、発動するかどうかが心配であったのだ。
「ふん!」
ギースは諦めも悪く、サーシャに肉迫しようと力を入れる。
「無駄よ」
サーシャから勢い良く手のひらをギースの方へ突き出す。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」
それだけでギースは吹っ飛ばされた。
観客の声はさらに加熱を増す。ギースを応援する声もあればサーシャを応援する声も上がる。別に組織したわけでもないのだろうが、男対女ということもあり、応援も半ばそのような層に分かれている。
「一体あの魔法はなんだ⁉︎ 見たことねぇぞ!」
ギーシュが怒鳴り声にも似た驚きを見せる。
「私の記憶にもありません……アルベルトさんにでも教わった魔法なのでは……?」
アリスの記憶の中にもこんな魔法を使うサーシャという記憶は無かったみたいだ。故にアリスはこの記憶に焼き付けようと真剣な眼差しをこのフィールドに向けている。
(くっ、本当に磁石に弾かれたようだ! これは一体……まぁ、いい。結局俺を捉えられなければあいつに勝ち目はないからな……)
ギースはさっきの攻撃はサーシャの正面にはなった攻撃だから弾かれたと思ったようだ。
ギースはサーシャから背後を取ろうと走り出す……が……。
「お、俺が見えてんのか⁉︎」
「そうよ。 あの黒煙は私の支配下にあるの。もうあなたのものではないわ……」
「ちっ……」
明らかな舌打ちをする。その声はサーシャにも確実に聞こえた。
「それに、もうあなたに勝ち目はないわ。これは確定よ」
先ほどの嘲笑うようにではなく、真剣な目でギースを見据えて言った。
「まだ、終わって無いだろ!」
ギースはサーシャと同じ距離離れた黒煙に向け走り出す。もちろん、亜音速で。
「だから、無理と言った筈よ」
サーシャは止めに走ることはなく、スローモーションの中でギースに向かってそのように答えたのがギースにも分かった。
(よしっ!)
黒煙に近づいたところで右手を伸ばす。
サーシャは同じく手を上げて開いた手を握った。
「なに⁉︎」
突然前の黒煙が消えた。まるで空気に霧散していくように。
「だから、無理だとはっきり言った筈よ」
サーシャは横目にギースを見ながらもう一度そう答える。
「嘘だろ⁉︎ 」
その場に膝から崩れ落ちるギース。
「さぁ、棄権しなさい」
サーシャはゆっくりとギースの方へ歩みを進める。大袈裟に右手を挙げて、今にも魔法を出すそぶりを見せながら……。
「おい、止めろ⁉︎ 殺すのだけは! 意識を刈り取れば良いじゃねぇか⁉︎ 」
ギースは腰が抜けたのか、なかなか立ち上がれず、慌てる。
「そうよ。殺しはしないわ。でも、背中に傷を負った分はやり返したいじゃない?」
サーシャの歩みは止まらない。
「こっ、こここ降参だ。 止めろ⁉︎ 俺にもうあんたに対抗できる手段はない⁉︎」
ギースが叫んだ瞬間、決闘の終わりを告げる鐘がなった。
その時点での攻撃はもはや決闘での攻撃ではなくなってしまい殺しに近いものとして見なされてしまうので、さすがにそこまではサーシャは悪では無かった。というよりも犯罪者になるわけにはいかなかったという方面が大きい。
サーシャは尻餅をついてしまっていたギースに目もくれず、歩き去ってしまった。勝利の喜びなど微塵も感じてないように観客は見えるが、ギースにだけはそうとは取らなかった。
(笑ってたな……)
踵を返すサーシャは頬を緩めていたのだった。
という記憶を魔法により、蘇らせる。もちろん、サーシャではなく、ギースに……。
「あぁ……そういうことだったのかよ……くそっ、俺の失敗はお前が学園長だったってことか」
「そういうことになるわね。私が学園長になったということも念頭に入れてやるべきだったと私は思うけれど、そうだとしてもこの魔法を打開できる対抗魔法はないと思うわ」
サーシャはそう呟き、黒マントのマントを剥がして黒煙を露わにする。
「でも、あの頃の私はこの正体については分からなかったわ。 ……これは、ヒトの悪意を染み込ませたいわば奴隷精霊ね?」
核心に迫る問いをサーシャが投げかけたと同時にサーシャは魔法を使った。
「いや、俺はそいつの正体については未だにわからねぇよ! 」
手を振って、魔法による脅しをかけたサーシャに対し、一歩後ずさり、そう答える。
サーシャは領域魔法によって自白させるようにしていたので、嘘でないことは確認できた。
「でも、あなたが未だにそれに頼ってるのは問題だわ。それは、奴隷精霊。この国で、精霊をそのように扱うのは死刑級の犯罪なはずよ。この精霊を未だに持てるなんてことあり得ないわ」
サーシャが言ったことは正論だ。 このヴィッフェルチアは精霊信仰が熱く、そのようなことを精霊にすれば即刻死刑が確定するという大罪に扱われている。
その規定はかなり細かく、精霊を消してしまうような魔法の行使であったり、精霊関係のことを理由に戦争が引き起こされていた時代もあった。
「俺はもともとナイルダルクの人間だ。そんなことはしらねぇ」
「なるほど、つまりその後ナイルダルクに亡命したというわけね。 でも、よくこうやってのうのうと来られるわね」
「ふん、お前たちのお姫様がとても寛大だからな」
サーシャの発言は、最もなことだった。推察ではあるが、たとえ亡命に成功したとしても、ヴィッフェルチアの者に殺される危険はいつまでもあったはずなのに、今まで殺されずに生きているのは少々、疑問のあることだった。
だが、ギースの軽口とも取れるアリスへの冒涜はいくら寛大なサーシャでも看過できないやり過ぎな発言だった。
「なぁ、俺はもう無理だし、殺してくれないか? この作戦に失敗しちまったし、もう逃げるとこなんてねぇ」
「そうね。殺してやりたいのは山々なんだけど、あいにくそのお姫様から生け捕りにしろって言われちゃってるからね」
「……そうか」
ギースは突然、ポケットからカプセルのようなものを取り出した。それを躊躇わず、口に含めようとして、サーシャが止める。
「今の状況では無理よ」
「ちっ……」
ギースは苦虫を噛み潰したような表情を見せ、脱力したように両手をぶら下げる。
「そう、大人しくするしかないのよ」
サーシャがギースの目の前まで近づいてギースの顔の前で手をかざす。
ギースはその瞬間に意識を失った。
いや、正確に言えば目の焦点が合わなくなったと言った方が正しいかもしれない。
サーシャが歩き出すとギースの体もその後に続いた。
その瞬間に黒煙は跡形もなく消えた。空気のようにまっさらに………。
サーシャはアリスにギースの身柄を確保しサーシャでギースから得た情報を報告した。
「……私が知り得た情報は以上よ。流石に、私の魔法が時間切れみたいだったわ」
「そう、あれだけの大魔法を使ったものね、無理もないわ」
本来、領域魔法自体強力な効果を秘めたものばかりだと言っていい。その代わり、どこまで範囲を広げるかによって魔法師の消費魔法量も増えてしまうのも事実だった。
その為に、タイマンであれば領域魔法は推奨されない。持久戦になるとすればなおさら使ってはいけないレベルのものになり得るだろう。
「後は、よろしく頼見ます。うちの大事な教え子がやられたので、あの子も絶対に黒幕を捕まえたいって思うはずだし」
「はい、必ず」
サーシャはそう言い残し、女王の部屋を後にした。
そうして、サーシャの向かった場所はその大事ながつく教え子の元であった。
「容態はどうなってるの?」
サーシャは入って開口一番にそう尋ねる。
「まだ、目を覚まさないです。 ……さっきすごい魔力を廊下で感じたのですが、サーシャですか?」
「あ、ええっと………ちょっとね」
そうアーニャに尋ねられて、回答に困るサーシャ。 別に誤魔化すことをする必要などなかったのだが、反射的にそう答えてしまった。
サーシャと同じようにアーニャもギースには少なからず、憤りを覚えていたから、それをさっさと晴らしてしまったサーシャには少し罪悪感を感じたのであった。
「そうですか……一戦まじ合わせたのですね」
「え、どうして……?」
魔力では分からないだろと言いかけて口をつぐむ。今のアーニャの表情で誤魔化すなど不可能だと悟ったからだ。
「ああ、もともと犯人の目処がついたから無力化してきたのよ。 私もこの事については見逃さなかったからね」
サーシャはアーニャの方を向いて答えることは出来なかった。無論、アーニャもサーシャの方を向いて聞いてなどいなかった。二人の目線はここにいる時から、常に一点を見つめている。
「だが、私もこんな事になったのは初めてよ。 悪いけど、自力で抜け出すしかないわ」
「そうですか……」
明らかにアーニャが落胆の表情を見せる。
「悠人………あなたはこんなところで終わる人じゃありません。 どうか、どうか。 目を覚ましてください」
アーニャは悠人の手を取り、両手で包んで、まるで祈るかのように呟いた。
いつも読んでいただいてありがとうございます!
自分もこれから大学が始まってしまうので憂鬱です。(春休みはほぼ2ヶ月ありました。)
十分だろ!? という言葉はまぁ、置いておいて。(笑)
なんというか、審査も落ちたのでこのお話もどうしようかなと悩みながらも、自分自身止めどころが分からないので正直困ってます。(うやむやに無理やりならばできるが……)
まぁ、何かしらやるとは思いますけれども、今後のことはツイッターでつぶやくと思いますのでよろしくお願いします!
辞めるなら、おそらく次で無理やり終わらせると思います。