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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
ナイルダルク編
65/97

短編 暇 その二

 しかし、彼女は逃げもせずここにとどまっている。


 というよりは自分のしてしまったことに後悔しているみたいだった。とても挙動不審にワタワタしている。


 悠人はゆっくりと立ち上がって平気だと手を広げてアピールする。


 彼女は「はぁ……」と肩まで使い、安堵の表情を浮かべる。


「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」


「………名簿あったと思うけど……」


「ん? 名簿ぉ?」


 悠人は悩むように顎を上げて思い出そうとするが思い出せない。


 名簿を渡されたところで彼女の名前なんてすぐにわかる訳がない。


 席の場所で書かれていたならともかく、名簿と言うからには上から順に名前を羅列したに過ぎないから。


「……私以外、全員男なのよこのクラスでは。 だから分かるはず……」


 と彼女は一枚の紙を渡してくる。


 やはりそこにはただの名前の羅列が書かれている。


 見るも無残にクッソ長い名前のやつもいるけど、それ以外はみんなカタカナばっかに見えて悠人だけが漢字で違和感しか感じられない。


(読みたくない……)


 おそらく彼女自身からは名乗りたくはないのであろうということはこの紙を見せてきた時点で分かったようであったけれども、どう考えても本人がいるところでやっているのは非効率過ぎる!


「やっぱ、分かんない……」


 バカでもなんでもいいので、名を教えてほしいという願いを込めてそう告げる。


 彼女は一旦、大きくため息をつく。


 やはり、話したくはなさそうだ。


「……私の名前は、カミーユカルシバーグよ」


 恥ずかしそうに顔を背けながら、小さな声で名前を言ってくれる。


 だが、悠人はこの名前に違和感があった。 そう、スライトの後ろもその名前だったからだ。


「ひょっとして、スライトの妹か何か?」


 悠人は純粋な興味本意で尋ねたつもりであったが、カミーユには面白くなかったのか、悠人に嫌そうな顔を向ける。


 そりゃそうだと悠人自身も思っていた。


 おそらく、カミーユはスライトを誇りに思っていたに違いない。スライトは悠人が負かすまでは正真正銘学園ここの一位であったのだから。


 そんな悠人がカミーユに知らないとはいえ、不用意に近づき、あまつさえ漫画を読んでるなんて知ったのだから。


 悠人自身、漫画を読むことが悪いことなんて微塵にも思ってないが、この世界のことだ。本に関しても厳しいのだろう。


「ごめんね。嫌なこと聞いて。俺が聞ける立場じゃなかったね」


「あんな、兄貴なんて始めっから嫌いだし……むしろ成敗してくれて感謝したいくらいだし……でも、あなたも好きにはなれない」


 意外な答えとともに、当然予想していた答えが返ってくる。


 悠人もまぁ、そうだろうなと納得していた。 スライトを嫌ってようがどうだろうが、少なくとも家名に泥がついたことは間違いない。


 結果的にカミーユにもとばっちりがくるに決まっている。


「それでカミーユ。 なんで漫画読んでたのさ」


 肝心なことの話題を振ってみる。


 また嫌な顔をされたが、それも一瞬で同じようにため息をついて話してくれる。


「ふーん、やっぱりここではご法度はっとなんだね」


 悠人は確かにカミーユの話を聞いたが、どうもこうも悠人には理解できなかった。


 そしてそれを聞いてまでも、つまらなそうにしている悠人が気に食わなかったのだろう。再び、パンチをくらった。いや、痛すぎ。今のはもろに入った。


 魔法世界だから、見た目とのギャップが激しいがために反応が一歩遅れてしまうのだ。


 見た目遅い突きでも、当たったが最後、生身の人間であの衝撃に耐えられる人はいないだろう。いや、絶対。


 しかし、そこは悠人も魔法世界に慣れてきているため、衝撃を吸収してしまい。これまた見た目ポヨンとカミーユが悠人のお腹を触っただけになった。


「〜〜〜〜」


 カミーユは意味が分からない声で唸ってる。


 そこから、怒涛の攻撃が襲ってくるが、カミーユは局所魔法に対して悠人は吸収する強さと範囲だけを設定して発動すればいいだけの魔法なので、有利不利が明らかに分かれていた。


「はっはっはー。 効かない効かない」


「〜〜〜〜!!!」


 もうポカポカパンチをしているとしか映らないだろう。


 そんな中突如、違う方角からの衝撃に悠人は吹っ飛ばされてしまい、今度は机と椅子をなぎ倒しながら横の壁に激突した。


 壁は魔法障壁が張られているようで無傷であるが、悠人への衝撃までは守ってくれなかった。


 そんな悠人にカミーユも唖然としている。まるで何があったのという感じであろう。


 どうやら、カミーユは見えていないみたいだった。


 カミーユの隣でとてもお怒りになっていらっしゃる精霊がいることに。


 何に怒っているのかは悠人自身全然心当たりがないけれども今この事実。なんとかしなければならない。


「ま、待ってくれアーニャ。 な、なんで怒ってるんだ。 俺は、何も心当たりがないぞ!」


「何をしらばっくれているんですか⁉︎ この女とじゃれあっていたじゃありませんか。 悠人はロリコンなんですか⁉︎ 信じられません」


 なぜか悔しそうに、地団駄を踏みながらアーニャがぶちまけるように言い放つ。カミーユには声だけが聞こえたのであろう。とても挙動不審だ。


「あなた精霊が見えるの⁉︎ 」


 悠人に向かって、助けを求めるように言うカミーユ。


 それでアーニャもカミーユが見えてないことに気づいたらしい。アーニャはカミーユに触れる。


 隣にいきなりアーニャが現れたことにカミーユは驚いたのだろう。至近距離にいたことに大きく仰け反っている。


「でですね悠人! ええと、カミーユさん?でいいのかしらこれはどういうことか説明してもらえますか」


 あっ、やっぱり怒りは治ってないんですね。


 一瞬、忘れてくれることを願ってみたが杞憂きゆうに終わった。


「いや、ええと……ねぇ?」


 どうやって説明するか迷いあぐねて、カミーユにパスする。


「ああ、ええええっと………あ、アーニャ様、これはただこいつが変なことを私に言ってきたので……そ、それで私が怒って……ポカと………ししし、してました。すみません!!」


 カミーユは頑張って説明してくれた。


「やはり、悠人が悪いんじゃないですか!!」


「ちょ、待て⁉︎ 別に変なことじゃないんだ。 ま、漫画読んでたから、なんでかなーと思って聞いてただけだって」


 悠人は手を前に突き出して否定する。アーニャが徐々に距離を詰めてきたからだ。


「悠人の言葉は今は信用に値できません。しかも、漫画を覗き見なんてそんなはしたないことはいけないんですよ! さぁ、カミーユさん。悠人に何言われたんですか?」


 アーニャは今度はカミーユに詰め寄る。カミーユは完全に辟易していた。


 悠人は怖くないとジェスチャーでカミーユに伝える。伝わったかどうか分からないが。


「えっと……か、からかわれたかなぁ……」


「成敗!」


「うぎゃーーー!!!」


 どうやら、変なふうに伝わってしまったようであった。













いつも読んでいただきありがとうございます!


今日は、短編だったのでさっさと区切りが見えてしまったのでそこまで厳しくないです。


これで少しはぷっと笑ってくれたら幸いです。


では、そろそろ次回からまた章を改めてやっていきたいと思います。


小椋鉄平

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