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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
ナイルダルク編
64/97

短編 「余暇」その一

 悠人が二度目のアイナに勝利している頃……。


「ふっふふっふふーん」


 アーニャは鼻歌を歌いながら悠人のシーツを洗っていた。


 久々だからだろうか、悠人の温もりがいつもよりも増して心地よいものに感じる。それを嗅ぐだけでまるで悠人に包まれているような気がして、気持ちよくなってしまう。


 そこまでやばいのかと引かれるかもしれないが、もう自分ではどうしようもなかった。本能でしているといっても過言ではなくなってしまった。それほどまでに悠人への想いを自覚せざるおえなかった。


 悠人がこちらの世界に来てからはますますその気持ちを抑えにくくなっていた。悠人のそばにいたい。悠人のためになりたい。と、ますます強くそう思うようになった。


 しかし、そううまくはいかない問題がアーニャには存在する。


 種の問題だ。アーニャは変えられたとはいえ今は精霊。悠人はもちろん人間。その唯一の障害が私のこの溢れんばかりの気持ちを押しとどめる唯一の障壁であり、またとてつもなく厚く頑丈な壁であった。


「はぁ………」


 ひとりでにため息をつくアーニャ。


 アーニャにとって悠人に好きと伝えることはさほど苦ではない。むしろ、精霊になったことでそんなことで躊躇することがバカらしくなったといっていい。


 ただ、それを一方的に伝えて悠人に納得してもらうことなど今のこの現状では限りなくゼロに近いことはアーニャでも分かっている。


 しかも、それを本当の意味で悠人に伝えたとして悠人はどう思うのだろうか。きっと……いや、絶対に悩ませることになるに決まっている。私たちは種族が違うのだから……。


 この話はおしまいにすると被りをブンブンと振り、シーツを干す。


 外は、広大な大自然の中で太陽が輝いて大地にありったけの光を注いでいる。その中で精霊たちが小躍りするように揺らめいている。


(………私にできることはこれくらいしかないから……)


 そう、そばにいられるだけで今は。とアーニャは思う。




 悠人は久々に教室に来ていた。


 このクラスは基本授業に出ることはほとんどないのでみんなが出席することなんて必然的に決まった行事くらいしかない。


 ドアを開けると案の定、中にはほとんど人はいなかった。


 ほとんどという表現を使ったのは一人だけここにいたからだ。


(彼女は………)


 悠人は彼女に見覚えがあった。自分よりも背は低く、それは女性の中でも低い。しかし、目はキリッとしていていかにも優等生タイプのヒトに思えた。


 一度、この教室を案内された時に話をしたが、口調からしても真面目というか真面目すぎる印象が悠人の頭の中に残っている。


「………」


 彼女は分厚い本を立てて真剣そうに本を読んでいる。


 別にこれといって用もなかったので、音を立てないように立ち去ろうとする。


「……何しに来たの」


 彼女は、本からは目を離さずにそう呟く。見るからに悠人を好意的な印象で受け止めてはいないみたいだった。


「あ、いや、少し教室のことが気になってフラフラっと来てみたんだけど……お邪魔みたいだからお暇するよ」


 そういって、再び扉を閉めようとする。


「別に。 邪魔なんて思ってない……」


 彼女はそう呟く。 その声でドアを閉める動作を途中で止まる。


「そ、そう……」


 半ば彼女に促されるようにして教室に入る。


 自分の席は……正直覚えていなかったので、彼女の隣に座ることとした。


 彼女はあいも変わらず本に目を通している。


 ページをめくる音が静かなせいか逆にはっきりと聞こえる。


 しばしその音だけが聞こえる。彼女もそれ以上は何も言ってこない。


(何読んでるのかな?)


 悠人はどんな本を読んでいるのか気になった。 こんな彼女の顔を覆い隠すような本はさぞかし小難しいことが書かれているのだろうと思った。


 彼女の後ろに音を立てずに回り込む。その瞬間悠人は目を疑った。


「え……これは……漫画?」


 思わず、声に出してしまう。


「ッ!!」


 驚いたように慌てて分厚い本を閉じる。


 そして即座に悠人の方に振り向き、鋭い眼光を放つ。それとは反対に悠人はたかが漫画で……というように思っていた。


 さすがにヒトから睨みつけられることに対して耐性がついたみたいであった。


「あの、漫画だよね?」


「違う」


 彼女は即座に否定する。


(それは、逆にそうですと聞こえるんだが……)


 彼女の僅かではあるが顔が赤くなっている。悠人からすれば、ヒトの顔はよく見るようにしていたので、少しの変化でも気づくことができる。………しかし、その変化が何を意味するかを分かるまでには至っていない。とても残念ながら……。


「どんなやつなの?」


「だから、漫画じゃないって言ってる……」


 彼女は悠人が手を伸ばしたのを取られると思ったのか背中に分厚い本を置いて、悠人が手を伸ばすだけでは取れない場所まで運ぶ。


(ふむ、どうしたものか……)


 悠人が彼女がどんな漫画を読んでいるか気になった。が、彼女が嫌がっているのを無理に見るのはさすがに気がひける。彼女は先ほどよりも顔が赤い。今のこの状況が恥ずかしいのか、それとも……さすがにそれは自信過剰だろう。


「ねぇ、どうして漫画って良くないの? 俺は君が漫画を見るのを咎めたりからかったりしようとは思ってないんだ。 ただ、純粋に君がどんな漫画を読んでいるか気になっただけなんだ」


「え………?」


 悠人の言葉を聞いた彼女が驚いたような顔で悠人を見上げる。


 そこで彼女の顔がはっきりと悠人の目に映る。


 髪はショートで、肩にかかるくらいであることしか分からなかった彼女の顔が今は間近で見ることができた。もちろん、前にも見たことはあったはずなのだが、ここまで鮮明に見たことはなかった。


 見るからに滑らかな肌。 口と鼻は小さいのに目はぱっちりとしている。そんな彼女は見た目通りの純粋無垢な雰囲気が似合う可愛らしさを感じる。


「………か、かわいい」


「……っ⁉︎」


 彼女は悠人の言葉に反射的に顔を手で覆い隠してしまう。


 悠人もわざと言ったわけではなく、勝手に口から出たという感じで、驚き恥ずかしがっていた。


「ああ、いや……ごめん。つい思ったことが口から出ちゃったんだ」


「っっっ⁉︎⁉︎⁉︎」


 彼女はついには身体まで悠人もから背を向けてしまう。


(ああ、怒らせちゃったかな……)


 不安になる悠人。 こういう時の対処が分からず、オドオドしている。


「ごめん、本当にごめん!」


 悠人には謝り倒すしか思いつかなかった。


「……それはどういうことなの?」


 彼女は急に手を顔から離し、俯いて悠人にそう呟く。


「い、いや、ええと……」


 悠人はどう言ったら彼女に許されるか考えて、すぐに声が出ない。


「………ふん!」


「うぎゃあ!?」


 彼女のパンチによって教室の後ろに叩きつけられる。


 魔法で吹き飛ばしたらしい。


 とっさに直で当たるのは避けたが、そこはやはり魔法だとしかいえないが、飛ばされてしまった。


いつも読んでくださりありがとうございます。


毎度のことながら、更新が遅れて申し訳ないと反省はするのですが、やはりこちらが優先とはいかずこの有様です。(これを書いたのは日が回ってた)


ということで頑張りますのでよろしくお願いします。


小椋鉄平

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