作戦遂行
「ば、バケモノだっ⁉︎」
戦闘員の男がそう叫び逃げる。
ローレラに背を向けた男に手をかざす。
ちょうど、手で隠れるようにしてやる。
その手をずらした時にはすでに男の中の炎は凍りついていた。
そう……物理的にも精神的にも。
「解放」
ローレラはそうひとりでに呟き、片手をそっと握る。
氷の塊はバラバラに崩れた。
男の体ごとバラバラに……。
ローレラは血も涙もないカケラを他所に進んでいく。
やがて、あからさまにやばそうな扉に辿り着く。そこには『danger』とイラスト付きの危険を示すマークが付いていた。扉は金属製で出来ており、扉もノブとか引くやつとは違い、何も付いていない。ただし、左下に番号を打ち込む装置が付いていた。
「………」
ローレラは手をその装置にかざした。
ローレラの手からは淡い青色の光が出ている。
すっと手を離し、番号を打ち込む。 3835と。
その瞬間、ドアの奥から鈍い音がしてドアに隙間ができた。
ローレラは慎重にそのドアを動かす。
視界がひらけた。
中には、人形であろうか手足の関節に穴が空いていることからローレラはそう予想した。
それがケーブルに繋がれて円柱型の水槽の中にいれられていた。
そんな形の機体がいくつも散らばれていた。
「………」
ローレラはそれを1つずつ丁寧に見て回る。
この人形は何が目的でこうなっているかは定かではないが善意の程は全くと言っていいほど伝わらなかった。
やがてここの中心であろうか、指令室のような空間が現れる。
「………ッ!」
ローレラは咄嗟に死角に隠れた。
そこに何者かがいたからだ。
「ほほう、これがナイルダルク共和国の………ふっ、地球じゃあ出来ないからってこの国を実験施設にしちまうなんて、正気じゃないな。 ………おっと、誰かな?」
物陰に隠れていたが、姿をあらわす。
見ると、見た目は二十代。髪は白。白衣を着用していることからこの研究施設の関係者かと思ったが、先ほどの口ぶりからそうではなく、スパイの可能性を考えた。
「あなたは、何者?」
ローレラが口を開く。
挑発ではない。これも知っておくべき情報だ。
「僕かい? うーん、そうだね……自分でもそこまで考えたことがないよ。 強いて言えば迷子? かな?」
「そう、じゃあ……」
ローレラは話にならないと判断して、威嚇にその人の周りを絶対零度させた。
「うわっ、ちょっと待ってよ! 別に僕はここの関係者じゃないよう」
「なら何故ここにいるの?」
という会話をしながらも、白髪みの男はその場を動かない。 というよりも表情に恐怖からくる焦りがみられない。
この男からは何か良からぬ何かが中にいるようで仕方なかった。
「僕は、ここで育てられたんだ。 だけど、君が来たからかな? みんないなくなってしまった。仕方なくあちこち回っていたんだ。 何せ、部屋に隔離されていたからね」
その男の表情から嘘を言っているようには見えなかったが、嘘を隠すなんて容易いことであることはローレラも含め重々分かっていた。
だからこそ警戒を怠らない。
ローレラは背中につけてあった短剣に手を伸ばした。
伸ばすだけでまだ抜かない。
まだ、どうするかの主導権はこちらにあると思った。
「さっきの発言について聞きたいのだけれど、ここ何なの?」
「さっき? ああ、この実験のことか? 単純だよ。 これはロボット。 この国の人口減少に伴って造られている試作品だと思うよ。これを人間の代わりに戦場へ送り出すんだ」
男は隣にあった円柱型の水槽を指差す。
ローレラも黙ってそちらの方を向く。
初めて、その顔を見たがヒトの顔と変わらなかった。
「やっぱり、軍事開発してたのね。 分かったわ」
「そう、それで壊すの?」
男がやっぱりといった顔でローレラを見る。
その表情から、壊さないで欲しいというような欲求は感じられず、むしろどちらでも構わないといった感じでの質問であった。
「そうね。 これを壊すより、作ったヒトを消したほうが早いわ」
「そうか……ジャア、リガイノフイッチダネ」
「ッ!」
急に男の声のトーンがおかしくなった途端、男から弾のようなものが高速で飛び出した。
ローレラは瞬時に読み取って、合計八発の弾を全てかわす。
その瞬間に短剣を抜く。
「…………っ!!」
またもや、弾丸をローレラの方へ飛ばす。 コースを的確に読んだのか、一つを避ければ、別のに当たるような軌道で正確に飛んで来たのが分かった。
ローレラはそれを氷の壁を作って防ぐ。
壁に向かって、さらに銃弾が放たれる。今度は連続で。
どうやら、同じ部分に当てて氷を貫通させるらしい。
その証拠に、先程から同じ部分のわずか半径一センチ以内の円に正確に弾を当てていた。
ローレラは当然、その部分に沿って氷を補強する。
その繰り返しになる。
この撃ち合いが無駄だと悟ったらしい男が角度を変えて、撃ってきた。
そこでローレラは気づいたが、手自体が銃口になっていた。
もちろん、その攻撃も氷を出現させて防ぐ。
「ピピピ……このままではショウモウセンになるとハンダン。 ジョウキョウカクニン…………ネーットワークにセツゾク」
その瞬間をついて、その男の足を氷漬けにする。
そこを皮切りにして、全体を氷で包む。
「絶対零度」
「…………ヒジョウデンゲンニセツゾク………オウトウナシ…………サイド………シ……コウ…………」
男の声のトーンが下がって何も言わなくなった。
ローレラは氷に覆われてまでなお声を発する男に警戒したが、声がなくなると警戒を解いて短剣をしまう。
(なぜ、絶対零度されている中で動けたのかしら。 それは出来ないはずなのに………)
ローレラは絶対零度を解除する。
男が氷と一緒にバラバラになる。
「…………こんなもの人間じゃないわ」
カケラの一部を手に取ると、ローレラは一番にそう呟く。
その声に応えてくれるものはいなかったが、ローレラにはそう確信した。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
いつもいつも毎度、遅くなって申し訳ないです。
ということで頑張ってローレラ編、進めております。んが!
「今回は進みが遅い!」と思った方もいるでしょう。というよりも自分がより一層書いていて思ってました。
でも、それでも頑張ります。 この世界に内容に関して「勘弁して」はないと思ってるんで。
というわけで今後もあたたかい目でこの作品を見守っていただけると幸いです。
では!
今回に限って一言言うのであれば寒い!!! ただそれだけっ!
小椋鉄平