ローレラの任務と別れ
この魔法世界では少なくとも何でもいいから魔法が使えることが絶対条件である事がヴッフェルチア人が考える常識というやつなのであろう。
そうでないヒトはそもそもヒトと見なされていない。
今現在はそういう事が表面上ないにしても、少なからず身分の差という形でそう言った差別は続いているように私は見ている。というよりも私だけではないだろう。
ナイルダルク共和国はそういったヒト達の集まりで形成された国家だ。
イレギュラーで構成された人種の集まりなので当然のごとく人口は少なく領土も狭い。
地図だけで見れば、まるでネコに睨まれたネズミのようであった。それほどにいつ潰されたっておかしくない。逆にいえばそれが当然だと思うヒトもいるのかもしれない。
しかし、五百年前から今現在までナイルダルク共和国は攻められはしているけれども滅ぼされた事はない。
その代わり、ナイルダルクはその報復をしないのだ。
あくまでも侵略者を追い払うのみ。
はたまたこれに関しても謎であろう。私もしかりだ。
これに関しては上記の事を踏まえればすぐに理由は分かる。
それは、この国の人口だ。
先ほど、ナイルダルク共和国の人口は少なくとあったがまさにこれが理由だ。
つまり、報復にまわるほどの人口がないのだ。
もっとかいつまんでいえば自国を守ることで精一杯なのだ。
一歩でも侵入者が現れれば、即座に追い返す。この政策こそが五百年もの間この国を守ってきた要因かと聞かれれば、違うのだろう。
なぜならば、その国に価値を見出せないからである。
魔法が使えないヒト達を取り込んでも何にもならないと、隣国は考えていたことと迎撃能力が素晴らしく上手い事が理由に挙げられる。
ただ、これまでの話を踏まえると腑に落ちない事が出てくる事だと思う。
そう、ヴッフェルチアに攻撃を仕掛けた事だ。
たとえ、暗殺という小賢しい手法ではあるけれども確実にナイルダルクは刃を外に突きつけたのだ。
このことにもナイルダルク共和国は何か秘密があるのではないかとローレラは睨んでわざわざ部下の変装まで施して乗り込んだ。
今後、脅威になるようなのであれば早めに消しておきたい。
それが王室暗部の意思だから。私はそれに従うだけ。
ローレラは部屋から颯爽と消えた。
悠人達は王都を離れるため、転移の魔法陣があるアウシュベイン城の女王の部屋に来ていた。
本来ならば正式な転移する魔法陣が存在する場が定められているのだが、アリスフィア女王のご厚意なのか、サーシャ学園長が特別なのかここに案内された。
「何だか名残惜しいですね。 たった数日間の付き合いでしたけれどもいろいろな事がありましたから。 もう行ってしまわれるのかと思うと寂しいです」
見送るアリスフィアがそう呟く。
「何を行っているの?少なくともアーニャと私はアリスとは長い付き合いなんだから……。 それにここからいつでも会えるんだから」
サーシャは顔だけをアリスフィアの方へ向け、魔法陣を指差して言う。
魔法陣はただ、代わる代わる光る色を変化させるのみで特に何も起こらないが。
悠人はそんな魔法陣を見つつも(そうなんだよなぁ)と感慨深く首を縦に振っていた。
未だにこの魔法陣と学園長室の魔法陣が繋がるなんて信じられないといった感じにみえた。
サーシャとアーニャは先に魔法陣に乗る。
すると二人の姿がシルエットになり一瞬のまばゆい光がパッと光り、再び目を開いた時には二人の姿は無く、魔法陣だけが残る。
「悠人さん。 貴方には本当にこの王都を救っていただきありがとうございました。 改めて感謝します」
アリスフィアは頭を下げる。
女王ともあろうものが簡単に頭を下げていいものなのか悠人は疑問に思ったが、それを見届ける。
「いいえ、褒めるならキーシュさんやフィーベルさんオルドフさんだと思います。こんな賞までいただいて……今からでもいいんで返しますよ」
悠人は表彰の時に賞状と一緒にもらった楯を差し出す。
悠人はにこやかな顔で楯を差し出すがそれを見たアリスフィアの表情は暗いものだ。
「悠人さん。 一つ貴方には直してもらいたい事があります。 女王命令です!」
「は、はい!」
悠人はアリスフィアの言葉を聞いて背筋をピンと伸ばす。無論、女王命令だと言われたからだ。
アリスフィアは深呼吸するとゆっくりと時間を空けて口を開く。
「その謙虚な姿勢を慎んでください。 そのような気概はここでは歓迎されません」
「そ、それは……」
悠人が口を開いて……止める。
それは学園でもいろいろなヒトに言われて来た事だった。
(そうか、俺は悪いことをしたんだな……)
先ほどしたことが良くないことであると悟り、少し青ざめる悠人。
しかし、同時にどうすればとも思ってしまっていた。
「素直になってくださればそれで良いんですよ。ただ……それだけなんです」
「素直に……ですか?」
そんなことを見越してか、アリスフィアが答えた。
悠人が聞き返す。 もちろん聞こえなかったのではない。 反射的にだ。
この手のことに関しては典型的に苦手なのだ。
常に人の目を気にしてきた悠人にとって『素直になれ』という言葉は文字の意味では分かっても、いざとなると出来ない。
「簡単なことです」
「ちょ……ッ!」
アリスフィアが悠人を楯ごと抱きしめる。
悠人は反射的に体を引いてしまうが、背中に手を回され引かれてしまう。
アリスフィアの顔が悠人の胸に置かれる。
(鼓動の音聞かないで⁉︎ )
「バクバクいってます。 うふふ、さぁ素直になってください」
「え……えっと……」
アリスフィアの言葉でハッとなる悠人であるけれども恥ずかしさが勝って、困ってしまった。
「女王命令です!」
「⁉︎ ちょ、うずくまらないでください。 ……あー、はいドキドキしてます。 女王に抱きつかれて!」
悠人がそう白状するとパッと離れてくれた。
「うふふ、嬉しい♪」
「あ、はは……」
アリスフィアの満面の笑顔に苦笑いしか出来ない。
「女王命令です!」
「ごごご、ごめんなさーい! 勘弁してくだサーーーイ!!!!」
悠人はそそくさと魔法陣に逃げた。
振り返った瞬間にアリスフィアの口がパクパク動くのが見えたが、何をいっていたのかわからず一瞬で学園長室の景色に変わる。
(なんて言ってたんだろうか………)
一抹の疑問は残しつつも、先に魔法陣に乗ったアーニャたちと合流した。
「ゔっ!」
一人の男がその場に倒れた。
よほど鍛えられていたのか、ガタイはかなり良い。けれども、ビルダーほど鍛えているわけではないある程度動けるような理想的な体をしていた。
その倒れた男のすぐそばに立っているローレラ。 長い金髪をヒラヒラとさせ何事もなかったかのように男を運ぶ。
吹き抜けになっている扉を開けるとそのまま崖になっており、下を見ると木々が張り巡らされた森が広がっている。
ローレラは有無を言わさず倒れた男を落とす。まるで焼却場で行う事みたいに、そのことに関して何の思い入れもない乾いた顔をして捨てた。
男はしばらく空を滑空したのち森の中に消えた。
ローレラはドアをさっと締め、次なる場所へと向かった。
それからも無表情を崩さずローレラは向かってくる敵を排除していく。そこに何一つ情けなどない。
ローレラがいるのはナイルダルク共和国首都、ベルギーシュのとある研究所だった。
様々な薬品の入った瓶がそこら中の棚に入れられている。
先ほどから警報器の音が鳴り止まない。
そこら中の施設にシャッターが降ろされるが、ローレラには通用しない。
ローレラの氷の魔法によっていとも簡単に開けられてしまう。
「ばっ、化け物⁉︎」
捨て台詞を吐き、爆弾を投げ入れられる。
眩い光を放つが、その後耳に届くはずの音と衝撃が無い。
「ひ、ひいぃ⁉︎」
投げた警備が悲鳴をあげる。
なぜ、警備ごときが爆弾を持っているのかについてはあえて触れないでおくが……。
前述のことを気にしなくなるような出来事が起きていたことは目の疑いようがなかった。
爆弾は氷の塊に囲まれ、光は放つもののそこで時が止まっていた……。
いつも読んでいただきありがとうございます!
いつも通りの更新にホッと胸をなでおろしております。
今回ははっきり言って忘れてました。 もうどうしたらいいのか分かりません。事前に作っておいて放置しておいたのがいけなかったのでしょうか。
今、もう更新日になろうとしてますが。
とはいえ、更新です。 良かったです。
時間もありませんので、ここいらで。
感想、ブクマしてもらえるのは非常に嬉しいです。ありがとうございます!
カクヨムでもゆっくりではありますが、新作1話出してるのでよろしくお願いします!
ではではーー!
最近、コーヒー飲む量が増えた。
小椋鉄平