祭り騒ぎの傍で
悠人にとってはサプライズパーティーにも似たイベントからその後、王都周辺は祭りの騒ぎとなり、民衆が飲んだり食ったりの騒がしい声がこだましていた。
その中で悠人は一人その喜びを実感できずにいた。
(俺がなぜこんなにも賞賛される? 別に褒められたくてやったんじゃない。 全ては俺の学園長の仇を討ちたいという自己中心的考えだったんだ。それなのにこんなにも歓迎されて良いのか………)
周りの護衛の兵士たちの荒い歓迎を受けながらもそうなことを思う。
「アリス、今の悠人……どう思う?」
悠人が兵士たちに囲まれている蚊帳の外でサーシャはアリスフィアにそう投げかける。
「そう……ですね。あまり、喜んでいるようには感じられないですね。 おそらく悠人さんはよほど謙虚な方なんでしょう。 何で自分がとか自分にはこんな資格ないとか思ってるんじゃあないでしょうか」
アリスフィアはその輪を見つめたままサーシャの横でそう独り言のように答える。
その輪の中で、悠人は宙に舞っていた。
アーニャも思っていることは同じようで、その輪を蚊帳の外で見つめながら、悲しい顔を浮かべていた。
(悠人……)
アーニャがそんな顔を作ったのは一瞬で悠人と目が合うといつも通りのスマイルで返す。
悠人に悟られないように……。
一方、ナイルダルク共和国。
「どういうことだ! 我が軍最強と戒めた暗部工作があと少しというところで止められるとは……ッ」
軍の上の人物であろうか。 ある一人の部下に対して怒声を浴びせている。
それを聞く部下は片膝立ちで傾聴している。
怒声といっても日頃の鬱憤をこの部下に擦りつけるように怒鳴り散らかしている。
それなのにもかかわらず、その部下は片膝立ちの姿勢を崩さず、真摯にその言葉を受けいれる。
「はっ! 確かに王都の議員を消せば議会政治がおぼつかず、その混乱に乗じて進軍すれば勝てるという算段でした」
「そんなことは百も承知なんだ! 大事なのは結果だ結果。 できていなければ元も子もないのだ!」
部下の口を挟んだことが、さらに偉い人の感に触ったらしく、さらに怒鳴り散らかされる。
「ったく、これだからいつまでも私にそういう事を永遠としなくてはならなくなるんだぞ!」
「………」
部下は何も言えないのか、顔を伏せたまま何も言葉を発しない。
悔しいのか、それとも上司が憎いのか下を向いた部下からは窺い知れなかった。
「………ふっ、もう過ぎたことをあれこれ言っても仕方がない。 それよりもこれからだ! 奴らはあれでナイルダルクに宣戦してくるであろう。 何か対策はあるのだろうなデイン」
鬱憤を晴らせたのか、少し満足げな表情で口を開く上司。
部下が失敗したのにも拘らず自分では解決しようとはしない。
つくづく残念な上司であった。
「ええ、もちろんです。 ニアルフ大佐がおっしゃるヴッフェルチアが宣戦してくるのはまだ先かと思われます。 しかし、暗殺作戦が失敗してはますます王都の守りは強固なものとなります。 女王を打つのはそうやすやすとはいかなくなりました」
「意味がわからんぞ、デイン。 なぜ、宣戦してこないと断言できる? 我々への報復してくるのはむしろ当然だと思うが ?」
ニアルフが指摘する。
「確かに、私もそれが自然であると考えるのですが、ヴッフェルチアのアリスフィア女王の考え方を考慮に入れればそういったことはしないと推測できます」
デインは顔のみを上げ、ニアルフを見て答える。
ナイルダルクにもアリスフィアの性格が伝わっているようであった。
あの超平和主義な性格からは確かに宣戦は考えにくい。
ニアルフは顎に手を当て考えるように仕草を見せ、数秒押し黙る。
「しかし、万が一に備え準備はしておくものと思われます。それならば何かが起きても対応できると思います」
「それはそうだな………我々にとっても民の人口は減少傾向にある。 余計な犠牲を出すまいとこんな回りくどいやり方をしている訳だからな……デイン、指揮はお前に任せる。今度こそ失敗するな失敗すればお前の首が吹っ飛ぶだけじゃ済まないからな……私の首も逝ってしまう。 それを肝に命じておけ!」
「はっ、その信頼に必ずや応えてみせます!」
デインは立ち上がり、右手の握りこぶしを胸に当てる。
「では、頼んだぞ?」
ニアルフは席を立ち部屋を出て行った。
ニアルフが完全に部屋を出ていくのを見計らってから、大きく息を吐き魔法を解除する。
その瞬間に艶のあるゴールドの長い髪が降り、女性の姿が浮かび上がる。
ーローレラであった。
「んんッ!」
ローレラは腕を大きく伸ばし、足も爪先立ちして体全体を上へと伸ばす。
おへそが垣間見えたが、ここにはローレラただ一人しかいないので気にしていないのだろう。
伸びを終えて窓際へ移動する。
そこには、ヴッフェルチアの光景とは真逆の光景が広がっていた。機械仕掛けの街。 いや、ここだけではなくナイルダルク全体が機械にあふれている。
しかし、利便性を重視し過ぎたのかやはり空気は淀んでいて、黒い。
ナイルダルクの風景は産業革命時代のイギリスを想像するとアイナ先生はおっしゃっていたが、ローレラは地球のことを知らないのでふーんという感じでしか受け答えできなかったのを思い出していた。
さらにその機械に頼り過ぎたせいともともと機械の燃料自体が精霊なので精霊が枯渇している地帯でもあった。
精霊がいないということは……容易に想像がつくかもしれないが、まず自然が極端にない。森はおろかかの一本見つけることさえ難しい。
その為、ナイルダルク人は魔法を行使することは出来ず……というよりも放棄したというのが正しい言い方なのだけれど体の中にマナが流れていない。故にマナ生成機構がないが、マナが巡る系だけは面影を残している。
……というのが最近の研究で判明したヴッフェルチア人とナイルダルク人の違いだ。
歴史を紐解くと、ナイルダルクという国家は存在せずおよそ500年前に出来たまだ歴史の浅い国家なのであった。
ここまで聞いてあなたはどう思うのだろうか? 私の勝手な予想ではあるけれどもこのように突っ込んだのではないだろうか?
『なぜ、逆にここまで国家として成立し得たのか?』と。
少なくとも私はこの歴史書を図書館で読んだ時にこれは事実なのかと自分の目を疑った。
いつも読んでいただきありがとうございます!
呪文をなんとか書き終えてホッとしたのもつかの間。 これを書き上げました。 息をつけない!
嬉しいのかなんとやらですね。
さて、今回のお話からは少し視点が変わります。 読んだ方はわかると思いますが、女性です。
そう思ったのも案外王都編と言っておきながら、わりとさっと終わってしまったからもありますし、あの人の出番がほとんどないな……と思ったからです。単純ですね(笑)。
では、次回もお楽しみに〜。
戦利品にカレンダーが多くて置き場がない(隅々に配置した)。
小椋 鉄平